株式会社建設エンジニアリング 代表取締役 宇津橋喜禎社長
“全てはお客様のために、そして社会のために”
日本の産業全体が不況の中にあると言われていますが、特に構造不況業種とよばれる業種があります。大きな環境変化と需給のギャップにより、産業構造そのものが変化をせざるをえないことによって生まれる不況の業種という意味ですが、その代表が建設業だと言われます。大変に厳しい業種です。
そのような建設業界にあって、第3回千代田ビジネス大賞優秀賞を受賞し、これからも大きな発展を期待されているのが今回お邪魔した株式会社建設エンジニアリングです。
春の嵐のような不安定の天気の中、神田佐久間町にある会社を訪問し、株式会社建設エンジニアリング代表取締役 宇津橋喜禎社長にインタビューのスタートです。
全てはお客様のために
宇津橋社長は大学を卒業後、大手損害保険会社に営業一筋で14年間勤められ、その後父親の経営する株式会社建設エンジニアリングに入社しました。
株式会社建設エンジニアリングは高速道路の設計や施工管理を得意とする建設コンサルタント会社です。最近では一級建築士事務所としての建築の仕事も増えているそうです。建設とは全く違う業界から来た宇津橋社長は営業として顧客を回るうちに、あることに気付いたと言います。
それは日本のゼネコンや設計事務所は技術的には世界最高水準であるが、どうも技術ばかりが先行し、ともするとオーバースペックになり、本当に顧客のためになっているかどうか分からないことも見受けられ、そこに株式会社建設エンジニアリングにとってビジネスのチャンスがあるということです。
皆様ご存じのように、建設業界は歴史が古く、官・民・政の結びつきが強くなりすぎ、過去に幾度となく問題になってきました。これは顧客にとっては大変な不利益であり、株式会社建設エンジニアリングでは、“全てはお客様のために”ということを標榜し、絶対にブレないようにすれば必ず株式会社建設エンジニアリングは成長できると確信したそうです。
コンストラクション・マネジメント(CM)へ
宇津橋社長は顧客の立場に立った提案や営業活動を行い、さまざまな研究を行ううち、コンストラクション・マネジメント(CM)という理論、システムに出会います。
CMとは、建設・建築の専門家ではない発注者が、発注者の代理者(建設のプロ)と契約し、その代理者が発注・設計・施工に関する業務についての品質やコストなどを発注者に代わってチェックし、発注者にとって最適の建設や建築を行っていくという方式です。これはまさに“全てはお客様のために”という株式会社建設エンジニアリングの理念に合致します。
宇津橋社長はこの考え方に非常に感動し、発注者の代理者としてのCM業務を会社の看板業務として位置づけることとしたのだそうです。
株式会社建設エンジニアリングという会社は、先代の時代から現在でも公共機関の建設工事発注に対しての建設コンサルタント業務を中心として行っており、発注主の立場に立って、最適な工事を行っていくという仕事の発想は基本的には変わっていません。その意味でも受け入れやすかったのかもしれません。
ただし、発注者に代わって図面や見積もりのチェックをするコンストラクション・マネージャー(CMR)は、たんなるコストカッター(値下げ屋)ではないと宇津橋社長は言います。品質、コスト、スケジュール、デザインなど総合的に発注者にとって最適な建設になるようにアドバイスするのが、CMRですので、場合によっては発注者からの無理な注文に関してはそれをとめることもあるそうです。発注者の代理者だからこそ、発注者に対しても言うべきことを言うのが、コンストラクション・マネージャー(CMR)の重要な役目であるのです。
学校建設が得意分野
株式会社建設エンジニアリングのお客様は国土交通省、東京都、区、ネクスコ、損害保険会社、自動車会社など、超一流ばかりであり、しかも直接取引です。ただ、建設にまつわる予算は削減され、競争は非常に厳しくなっているのだそうです。
そこで株式会社建設エンジニアリングでは、学校建設という分野に特化し、その成果が着々と表れてきています。
学校というのは生徒への教育というソフトが重要なわけですが、校舎や体育館などハードも非常に重要な要因になります。少子高齢化で大学全入時代、補助金削減といった厳しい学校経営環境の中で、学校もハードの重要性に気付いてきています。ただし注意が必要だと宇津橋社長。
① 安全性
② 機能性
③ 意匠性(デザイン性)
という順番が大切で、生徒を集めたいばかりにデザインを重視し、安全性を軽視すると後々大変なことになりかねません。実際に大手設計事務所が関わっているにもかかわらずそのように生徒にとって危険な校舎もいくつかありますよと宇津橋社長。
その他にも学校の建設や改修には学校特有の特殊な要因があり、大手有名大学の建設を何件も手掛けてきた株式会社建設エンジニアリングではそのノウハウがずいぶんと蓄積され、現在では自信を持って最適の提案ができていますと宇津橋社長。
学校という組織では相当の大手でない限り、建設の専門部署がある場合は少なく、技術系職員もおらず十分な発注体制が整っていないことが多いので、CMの提案が非常に有効であるようです。
現在、学校建設という得意分野ができたので、次は病院の建設のほうにも取り組んでいきたいと宇津橋社長は考えているようです。
中小企業は一人一人が大事
株式会社建設エンジニアリングは現在従業員32名と決して大きな組織ではありませんが、“社員一人一人は粒よりの一流の人材ですよ。”と宇津橋社長。大手の建設会社からの転職の社員の方々も多いようですが、社員一人一人を大切にするのが宇津橋社長の方針です。
① 技術
② アイデア
③ サービス
という3つの力をつけて欲しいと宇津橋社長は言います。
年度末には宇津橋社長が社員全員と一人ずつ個別面接を行い、社員からの希望や会社としての社員への期待を伝えます。非常にいいコミュニケーションの場ですが、ヘトヘトに疲れますよと宇津橋社長。
会社経営に関しては“公開”を心掛けているそうで、会社の業績は社長が分析し、その分析の結果を社員の方々に発表します。
建設コンサルタントという仕事の性質上、発注者の事業所に常駐して行う仕事がほとんどで、社員全員が顔を合わせる機会が少ないため、年1回は社員総会を開催し、会社としての方針を伝え、懇親を深めています。今年は6月11日に千代田区の出張所会議室で開催予定です。
最後になりましたが、社長が入社して活動を行ううちに、もう一つ気付いたことがあったそうです。 それは株式会社建設エンジニアリングという会社には大きな累積欠損があったことです。
これはわが社にとって大きな癌だ!これを退治するまでは何もいいことはない。累積欠損撲滅に向けてどんなに苦しくても黒字を続けて行くぞ!という社長の号令のもと、平成15年から黒字を続け、平成20年には累損を解消した宇津橋社長。その後、大手顧客の組織改編などで大きな受注を失うも、見事にリカバリーをして黒字経営を続けています。
成蹊大学ラグビー部出身の宇津橋社長。自ら営業の先頭に立ち、株式会社建設エンジニアリングのフォワードとして、前へ前へと会社を引っ張っています。CM、さらには宇津橋社長の夢である発注者の経営企画段階から関与してしくプロジェクト・マネジメント(PM)の世界への突入も近い時期に迫っていそうです。
◇株式会社建設エンジニアリング
http://www.kensetsu-eng.co.jp/
◇第3回ビジネス大賞の概要はこちら
https://www.mm-chiyoda.or.jp/business/biz-prize3rd.html