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株式会社日精ピーアール 代表取締役 中村慎一郎 社長

“環境、高品質、電子化の3つの戦略で成長”legwork-vol78

 今回お邪魔したのは、株式会社日精ピーアール。第3回千代田ビジネス大賞の千代田区長賞を受賞した会社です。地球環境の保全に力を入れている千代田区の企業としてふさわしいと評価されました。 業績面においても、印刷業という極めて厳しい業界にあって、昨年対比10%以上の成長を続けています。その秘密は一体どこにあるのでしょうか?中村慎一郎社長へのインタビュースタートです。

価値観、考え方を明示

 “環境保護”と“高精度印刷”で有名な株式会社日精ピーアールですが、その基礎にはしっかりとした会社のマネジメントの仕組みがあります。先代中村会長から受け継がれているNSPRクレド(社訓)というのがあり、
 ①Newborn(新生)
   本日創業の心でお客様のニーズに対応します。
 ②Sincerity(真摯)
   誠実に仕事に取り組み社会と文化に貢献します。
 ③Pride(自尊)
   プロの誇りをもって最高の品質をお届けします。
 ④Respect(敬意)
   すべての方々への尊敬と感謝の気持ちで接します。
 これら四つの価値観に基づいて会社は運営されているのだと中村社長は言います。

今回、インタビュー冒頭で四月から始まる経営計画を見せて頂いたのですが、これがとても特徴的なものでした。前述のNSPRクレド(社訓)を始めとして、社員が持つべき価値観、考え方が明確に示してあるのです。
 売上や利益といった目標数字の羅列、あれやれ!これやれ!といった行動の指示、事業内容や行事予定などがほとんどの経営計画とは違い、
 ・何のためにあるのか?
 ・固有な役割は何か?
 ・どんな価値観で大切にしているのか?
 ・どんな姿勢で仕事をするのか?
 ・社員に対してどう考えているのか?
 ・環境や地域に対してどう考えているのか?
といった本質的、根本的な価値観が示されていました。
 共通した価値観、これが株式会社日精ピーアールの強さを支えているようです。

環境保全への取り組み

  環境保全に関しての株式会社日精ピーアールの取り組みを説明するには、全く紙面が足りません。取り組みの項目だけ、しかもその一例を列挙します。
 (1) 有害な廃液を出さない水なし印刷
 (2) 適切に管理された森林から生まれる森林認証紙
 (3) 大豆油インキからベジタブルインキへ
 (4) 自然エネルギーを利用した発電方式のグリーン電力
 (5) 工場でのLED照明の採用
 (6) カーボンオフセットの取り組み
など、地球環境に優しい印刷会社としてのありとあらゆる取り組みを早くから行っています。
 地球環境保全への取り組みはいい面ばかりではありません。多額の設備投資、割高な原材料コスト、複雑な工程や手間という負担を会社に負わせます。事実、水なし印刷は環境に良いことは分かっていながらも機械設備が高く、日本でもあまり普及はしていません。

 デフレの日本経済において、業界全体に吹き荒れる強い値下げ要求の中、それでも環境保全に取り組むという強い決意で中村社長は決断を繰り返してきたのです。
 その結果、現在では株式会社日精ピーアールは環境保全に熱心であるという顧客からの評価を得て、「エコ・ブランディング」が確立しています。経営者の一貫した力強い意思決定の大事さを改めて感じます。

高精度の印刷で美術分野へ進出

 株式会社日精ピーアールのもう一つの大きな特徴は、高精度の印刷です。FMスクリーンとの組み合わせで使う“水なし印刷”では、文字通り水を使いません。そのためインキが滲まず、極めて鮮明度の高い印刷が可能になるそうです。サンプルを見せて頂きましたが、水あり印刷と水なし印刷の鮮明度の差は、素人の私にもすぐに分かりました。
 さらに、リトグラフやシルクスクリーンよりも高品位でインクジェット方式の“ジグレー印刷”にも取り組んでおり、これらの技術を活かした美術関連の印刷を得意分野のひとつとしています。
 ・浮世絵や油絵の複製画
 ・超高級ブランドのカタログ
 などを見せて頂きましたが、色彩の再現性、忠実性や質感など、確かにこれまで私が見てきたものとは全く違いました。「こういう高精度な印刷は、水なし印刷の機械設備を買ってFMスクリーンを使えば、どこの会社でもできるんですかね?」と中村社長に質問したところ、「そうではありません。機械設備や材料は一緒でも画像処理の技術は会社によって全く違います。当社の高精度印刷は現場の技術者のソフト力によって支えられています」とのこと。そこには株式会社日精ピーアール独自のノウハウが蓄積されていたのです。

 「株式会社日精ピーアールの現在の技術の集大成です。」そう言いながら中村社長が持ってきたのが、スペイン現代印象派の天才画家ホアキン・トレンツ・リャド(Joaquin Torrents Liado)の画集。その出来は大変に素晴らしく、出版社の担当者さえもが驚いたそうです。確かに、鮮やかな色彩にあふれた彼の作品が忠実に再現された画集、これ自体が株式会社日精ピーアールが技術の粋を結集して作った一大芸術作品であると感じました。

電子カタログへの展開

 環境、高品質に続き、中村社長が現在仕掛けているのが電子カタログの推進です。紙で印刷されている商品カタログや会社案内などの電子カタログ化を推進して行こうというものです。
 電子カタログはユーザーにとって場所を取らず、WEB上であればどこのページが見られたかの閲覧履歴などが分かるという大きなメリットがあります。最近は電子カタログの技術も格段に進歩し、見やすくて便利な電子カタログが登場しています。
 ところが、従来紙で作っていたカタログを電子カタログにするということになると、紙の印刷は減少してしまいます。電子カタログを作成した分の売上は上がっても、紙の印刷の売上が下がるというジレンマに陥ります。紙への印刷を基本とする印刷会社では当然、電子カタログ化に反対の意見もあるわけです。

 ここでまた、中村社長の大きな決断が行われます。「電子カタログ化は時代の流れであり、カタログのすべてが電子化するわけではないけれど、必ずやそのニーズは増加する。当社がやらなければ、他の印刷会社や他の業種が取り組むだろう。目先の売上だけを考えていれば電子化に大きな後れをとることになる。株式会社日精ピーアールとしては、電子カタログ化に積極的に取り組んで行く」。
 現在自社が扱っている商品・製品にとって代わるかもしれない商品・製品を扱うことは、たとえそれが将来主流になる可能性があったとしても、現在の商品・製品の売上を落とす可能性があります。その取扱いは、経営者も非常に悩むところです。しかし、経営者の英断なしに経営環境の変化を乗り越えることはできません。中村社長の決断は見習うべきものといえるでしょう。

さらなる飛躍のため組織改革を断行

 経営計画に示されたクレド、経営ビジョン、経営理念などの価値観や考え方を示すだけでなく、「今年は大きな組織改革に取り組んでいます」という中村社長。
 従来型のピラミッド型の組織体制をやめ、営業部門にいくつかのユニット制を導入。ユニットのリーダーは若手を大胆に起用。従来の部長・課長といった呼称は廃止され、従来の幹部は社長とともにユニットのリーダーをサポートする体制としたそうです。
 中村社長にとっても、数年間考えに考え抜いた上での非常に勇気のいる決断だったようですが、社員の皆さんは期待に応え、効果はすでに出始めているとか。「組織改革の大きな手ごたえを感じています」と中村社長。
 明確な戦略と、経営者の断固とした決断。株式会社日精ピーアールの成長はまだまだ続きそうです。

◇株式会社日精ピーアール
http://www.nspr.co.jp/