株式会社日本話し方センター 代表取締役 島田浩子 社長
“ことばの前に心あり、ことばの後に行動あり”
・人前でもっと上手に話したい。
・大勢の人の前でもあがらないようにしたい。
・効果的なプレゼンテーションをしたい。
・周りの人とスムーズにコミュニケーションをしたい。
時には
・あの時なんであんなことを言ってしまったのか。
などなど昔から多くの人が自分の”話し方”で悩み、落ち込み、苦しんできました。
そのような人たちに”話し方”を教え、自信と希望を持たせて、幸福を生みだしてきた会社があります。
今回お邪魔したのは、創業59年、卒業生は30万人以上という株式会社日本話し方センターの代表取締役である島田浩子社長です。
”江川ひろしの話し方教室”をやっている会社というほうが、知っていらっしゃる方も多いと思います。神田鎌倉橋近くの教室でインタビューのスタートです。
創業者江川ひろし氏
創業者である江川ひろし氏を抜きにして株式会社日本話し方センターを語ることはできません。
終戦後、「言論の自由」が認められ、日本国民がさまざまな文化や技術を吸収しようと沸き立っていた頃、江川ひろし氏は郵政省のキャリア職員として活躍を始めました。
特に上司が行う講演用に作成を任される原稿は、話し手である上司からも、聞いている聴衆からも非常に評価が高く、江川ひろし氏本人が講演するようになってからは、その自信と迫力に満ちた話しぶりで聴衆を大いに魅了していきました。
昭和28年、なんと江川ひろし氏は24歳にして独立を決意します。商材は売れるかどうかも分らない「話し方」です。この当時、郵政省のキャリアと言えば、仕事の責任は大変に重いとはいえ、人もうらやむ最高の待遇です。その待遇を打ち捨てて、「話し方教室」を武器に会社を立ち上げたのです。
一般の人からみれば、失礼ながら理解不可能の行動と映ったでしょうが、江川ひろし氏には分かっていたのです。新しい時代の日本国民が「新しい話し方」を求めていることを。
創業間もなく、日本は高度成長期に突入。江川ひろし氏の狙いは的中し、経営者、管理職、新入社員、サラリーマン、主婦、学生などあらゆる人が「話し方教室」に押し寄せ、書籍やカセットテープも飛ぶように売れたのです。新聞やテレビなどにも頻繁に取り上げられるようになります。
島田社長によれば、時代の要請に合わせて受講生別にコースを増設したり、事例や形式を変えてはいるものの、当時からカリキュラムのベースは変えていないそうです。
江川ひろし氏は24歳でよく思い切って独立されましたねと島田社長にお話すると、江川は皆さんに話し方を教えるということが本当に好きだったんだと思います。この姿勢はその後も50年間ずっと続き、最晩年、江川が病床に臥せっている際にも、セミナーの時間が来ると点滴を打ち、声を枯らせながらでも演壇に立っていましたとのこと。
最近の受講生
延べ30万人以上の卒業生を送り出してきた株式会社日本話し方センター。昔は人前であがってしまって全く話せないという人も結構いらしたようですが、最近はこのような受講生は少なくなってきたそうです。
一方、周りとのコミュニケーションがうまくとれないという悩みが最近は多いそうです。そこで島田社長が重要視しているのが家庭での挨拶。核家族化の影響かもしれませんが、親と子の家庭でのコミュニケーション不足、特に挨拶ができない人が多いと島田社長は言います。挨拶はコミュニケーションのスタートです。話し方教室ベーシックコースでの第1講にも挨拶の大切さという内容が含まれています。
ビジネスマンでは部下の指導や会議でのリード役を任される30歳代、40歳代の人が多いのは、昔からのようですが、就職難の最近の特徴として再就職の面接のために受講され、見事再就職を果たす人が増えてきているのだそうです。話し方教室というと、大勢の人の前での話の仕方と思われるかもしれませんが、話し方の基本は1対1ですので、1対1の就職面接の際にも大いに話し方教室で学んだことが活かされているようです。
誠実さと思いやりが基本にして究極
話し方やプレゼンテーションのテクニックを教えてくれる教室は日本にもいくつかあるそうですが、株式会社日本話し方センターの特徴は、江川ひろし氏の教えの一つ、話し方の向上のためには、人間としての誠実さをベースにしなければならないということです。
時間を守る、約束を守るというのはテクニックではない、それは人間としての誠実さですと島田社長。この誠実さがあるからこそ、人は他人とのコミュニケーションが図られるというのです。
もう一つの大きな特徴。それは話し方を向上させる基本にして究極の目的が、相手に対する思いやりであるということです。自分の目の前にいる相手や聴衆の一人一人に対しての思いやりが基本だというのです。口で言うのは簡単ですが、実践は非常に難しいことです。”相手に対する思いやり”とは相手の立場に立って考えるということであり、相手の幸福を自分の幸福と考えるという人間として最も高い価値観です。
本当に相手のことを考えるとどうなるか?自分がなくなります。たとえば、江川ひろし氏は受講生の皆さんに本当に良くなってもらいたいという一心で、不真面目な受講生を叱り飛ばすこともあったそうです。いくら講師と受講生という立場とはいえ、受講料を頂いている立場です。しかしそんなことは関係ありません。真正面から叱るのです。叱られたほうも江川ひろし氏の個人的感情で叱っているのではないことがわかりますので、叱られて大変に感謝する人が多かったそうです。
創業者である江川ひろし氏は話し方を教えるということを通じて、多くの人に幸福になってもらいたいという理念をもっていました。その理念は脈々と島田社長や講師の方々に受けつがれているのです。
ちなみに、現在の講師の方々は約20名ほどいらっしゃるとのことですが、全員が江川ひろし氏の講義を受講し、自らの悩みを解消し生まれ変わった喜びを、他の人にも味わってもらいたい、喜んでもらいたいという思いで講師になられた人だけなのだそうです。そうでなければ講師を任せられません。江川の残した理念を継承発展させていくことこそ経営者としての務めだと感じておりますと島田社長。
話すことは聴くこと
ベーシックコースの案内の中に「話すことは聴くこと、聴くことは話すこと」というフレーズがでてきます。相手の話を聴かいてからでないと相手の望むことを話できないでしょと島田社長。なるほど。
日本語は結論が最後に来るから最後まで話を聴かないと相手の意思が分からないという特徴があります。ですから、聴く側は最後までしっかり聴くこと、話す側は語尾までしっかり話すことが大事なのだそうです。それで誤解なくコミュニケーションが図れるのです。
人の話を聞く際の心得として、相手と思いを共有しようとすること、まずは受け入れること、そして自分の価値観や先入観を少し脇に置いて(無くすのはできないので)、人の話を聞くことだそうです。
これは言うは易し、行うは難し。どうしても私たちは人の話を聞く時に、話を先回りして自分の価値観や先入観で人の話を聞いてしまいがちです。
・聞かなくてもだいたいわかる。
・まあ、こんな結論だろう。
・この話にどうやって反論するか。
つまり、誠実に真剣に聴いてない。こんな態度で相手とのコミュニケーションがとれるはずがありません。
試練は天の贈り物
島田社長は、江川ひろし氏から経営者として、人間としていくつもの教えを受けて来たといいます。その中の一つを紹介して頂きました。
試練や苦しみは、天があなたに必要だから与えて下さったものだから、ありがとうございますといって受けなさい。天には慈悲の心があり、あなたが受け切れないほどの試練や苦しみを与えることはありません。それを乗り越えたとき大きな成長が与えられるのです。
ある年の年末、仕事の多忙、家族の病気などが重なり、頭は混乱しどうしていいか分からなくなった時、この言葉がふと頭の中を横切ったのだそうです。気持ちは一気に落ち着き、周りの人は大変だったでしょうと慰めてくれるのですが、ご本人はいたって元気溌剌。この言葉に出会ってからプラス積極思考で明るく生きていくことができ、不平、不満、ストレスから解消されて病気もしなくなりましたと島田社長。
経営者としてさまざまな試練や苦しみを乗り越える秘訣もまた江川ひろし氏から送られたものなのです。
59年前、江川ひろし氏が切り開き、作り上げてきた話し方教室の世界。それはまさに人生の生き方教室でもあったのです。
「ことばの前に心あり、ことばの後に行動あり」
株式会社日本話し方センターのホームページに江川ひろし氏の理念として紹介されています。50年以上にわたり、30万人以上の受講生の方々が集まって来られた理由はここにあるような気がしました。
◇株式会社日本話し方センター
http://www.ohanashi.co.jp/