株式会社ファナティック 代表取締役 内義弘社長
今回お邪魔した株式会社ファナティックは、コンピューターサーバーやストレージなどを製造販売している会社です。従来型のコンピューターの業界全体が非常に厳しい環境にあるなか、2006年の会社設立以来、順調に業績を伸ばしてきた秘密はどこにあるのでしょうか? JR市ヶ谷駅近く、日本碁界の総本山日本棋院の隣にあるビルに訪問し、株式会社ファナティックの内義弘社長へのインタビューがスタートです。
BTO(Built to Order)が基本スタイル
現在の日本で、コンピューターを全く使わないという会社はほとんどないでしょう。自社では使わなくても、取引先や仕入先では使われています。株式会社ファナティックは、我々が大変な恩恵を受けているコンピューターシステムの中心であるサーバーや、データを保管するストレージを製造しています。
コンピューターには全く素人である私は、こういったシステムの基幹となる製品は大手のコンピューターのハードメーカーに寡占化されているものだと思っておりましたが、内社長によると、「確かに大量生産・低価格の製品は大手が強いけれど、企業のニーズはそう単純ではなく、コンピューターを使う用途や消費電力の制限などによってさまざまなニーズがある」というのです。大手のコンピューターメーカーが参入してこない独自の市場を株式会社ファナティックは目指し、独自のブランドを確立しているのです。
株式会社ファナティックの最大の特徴はBTO(Built to Order)です。“こんなサーバーがあったらいいなあ”という顧客企業のニーズを聞き出し、そのニーズにあった仕様の提案を行い、受注できれば製造するという方法です。
製造は、(財)大阪市都市型産業振興センターが運営するテクノシーズ泉尾にある工場で行っているそうです。年間2000台ほどのサーバーやストレージを、大阪市大正区という地価の高い都市の真ん中で製造しているのです。「少ない人数でやっているので非常に忙しいですよ」とおっしゃる内社長ですが、非常に高い付加価値を実現しておられます。
システムを延命させるサービス
コンピューターのサーバーやストレージというのは、業界全体としては市場が成熟し、縮小傾向にあるそうです。インターネットの普及にともなうクラウドコンピューティングの進展はこの傾向に拍車をかけていて、この先も続くでしょうと内社長。
そのような環境の中で、株式会社ファナティックとして最近打ち出したサービスが“システム延命サービス”です。コンピュータのシステムというのはハードとソフトからできていて、ソフトは使っても劣化しませんが、ハードは使っていると時間の経過とともに劣化します。何年かすると必ずハードにガタがくる。これを放置していきなりシステムがダウンすると、会社を挙げての大問題になります。
そこでコンピューターのシステム会社に相談しますと、これを機会にハードとソフトの両方を交換しましょうという話になりますが、ソフトまで入れ替えると膨大なコストがかかります。ソフトの取得費用、カスタマイズ費用、オペレーションのトレーニング費用などです。何年も使い慣れたソフトを入れ替えるとなると、作業ミスも出てきてそれが大きなトラブルになる可能性もあります。
そこで、オペレーティングステムやアプリケーションソフトはそのままで、ハードだけを入れ替えましょうというのが“システム延命サービス”です。ハードのことがよくわからない、ソフトも入れ替えないと儲からないという2つの理由から、システム会社はハードだけ入れ替えるのを非常に嫌がるようです。ハードに関して高い技術を持つ株式会社ファナティックは、ここに目をつけたわけです。
すべての会社のシステムに適用できるわけではないようですが、“システム延命サービス”を利用した場合、ソフトも入れ替えた場合に比べ、費用は10分の1から2分の1で済むことになるそうです。
サーバーやストレージといったコンピューターのハードの専門家として、「このような問題解決サービスに今後力を入れていきます」と内社長。
盛和塾での学びと実践
内義弘社長は2006年の会社の創業と同時に、盛和塾という企業経営者の勉強会に参画しました。盛和塾は京セラとKDDIを築き上げ、現在は日本航空の会長として再建に立ち向かっている稲盛和夫氏が塾長を務める企業経営者のための勉強会です。“心を高める、経営を伸ばす”をスローガンに掲げる盛和塾ですが、ここで学んだことを会社内で着実に実践されています。
内社長だけが学ぶのではなく、学んだことは月1回社内の勉強会を開催し、社員みんなに浸透させる。仕事に対する考え方が記された日めくりカレンダーを毎日読み合わせる。毎年4月には2泊3日のキックオフ合宿で、社長の方針だけでなく一人一人の明確な目標を発表し議論する。その際もちろんコンパもやって、みんなの気持ちを一つにまとめる。毎朝リーダー会議を開催し、リーダーは自分で行ったことや課題を発表する。わざわざ会議を開くのは、「メールのやりとりだけでは絶対に気持ちまで伝わらないから」と内社長はおっしゃいます。
これらのことは非常に手間と時間がかかり、大切だとはわかっていても、企業経営者としては後回しにしたくなるものです。しかし内社長は学んだ内容を愚直に実践してきているのです。その結果が現在の好調の基礎、土台となっているのです。
進化する経営理念
内社長が会社の中で最も重視するのが“考え方”です。たとえば、“損得だけで動いてはならない”と内社長は言います。そうではなく“なにが正しいか”を基準に動くべきで、それは一人一人の人間としての良心に基づくものでなければならない。普段の活動の中では目立たないけれど、一たび問題が発生した場合に、損得だけで判断すると問題はどんどん大きくなり、手のつけられないものになっていく。“なにが正しいか”を基準としてまじめに解決策に取り組んでいくことが重要であると。
“利他”(他を利する)という考え方も内社長の話の中にはよくでてきます。“利他”の反対、“利己”(自分を利する)、つまり自分のことだけを中心に、自分の利益だけを考えて行動することは、限界があり必ず行き詰る。“利他”の考え方をすれば、視野は広がり、さまざまな事象に気づき、客観的な正しい判断ができるのだといいます。“利他”はビジネスの原点でもあるのです。
会社や社員の考え方の中心にあるのは、社長の考え方であり、それは経営理念です。株式会社ファナティックの現在の経営理念は以下のとおりです。
“良心を結合し、共に輝き、共に道を楽しみ、社会と共に永続的に発展する”
最初に“良心”という言葉がでてきます。社員一人一人の“考え方”の元は一人一人の良心であり、それを株式会社ファナティックのみんなで磨いていくことが幸せへの道であるという意味でしょうか。
“永続的に発展する”というのも大変に深い言葉です。社会・経済を構成する企業間取引の信用の元は、相手が永続するということであり、どれほど良い製品や安いサービスを有していたとしても、いつ潰れるかわからないような会社では信用は生まれません。取引先、仕入先、金融機関など自社を取り巻く関係者からの信頼を築くために、永続的発展を続けるという内社長の固い決意を感じました。
「これまでなんども経営理念を書き換えています」と内社長。それは経営理念の進化であり、内社長ご自身の成長の軌跡なのだと思います。おそらく内社長のこの経営理念はこれからまだまだ進化し、書き換えられていくものでしょう。
大阪で誕生し、2006年に親会社の事業が分社化されて東京に本社を移した株式会社ファナティック。現在でも大阪と東京を行ったり来たりの、内義弘社長の高い理念とリーダーシップで、これからも一層の成長が続きそうです。
◇ 株式会社ファナティック
http://www.fanatic.co.jp/