株式会社恩田組 取締役会長 恩田忠彌会長
みなさま、曳家(ひきや)という仕事をご存知でしょうか?建設業関連の人でなければ普通は知らないと思います。今回お邪魔したのは、この曳家(ひきや)を専門としている千代田区六番町の建設会社恩田組です。
今回は年初のお忙しい中、3代目恩田忠彌会長にお話をお聞きしました。
曳家とは
曳家というのは、建物を壊さずに移動する工事です。建物を丸ごと動かしてしまうのです。最近は多くの場合住んだまま移動することが多いそうです。
・区画整理で家を移動させなければならない。
・今の建物を別の場所に移して新しい建物を建てたい。
・歴史的建築物を別の場所に移動したい。
・土地を有効利用するため今の建物を持ち上げて、下に駐車場を作りたい。
・建物の向きを変えて日当たりを良くしたい。
など、建物を移動させたいときに登場するのです。
曳家の技術が一番の活躍するのは、どんな時だかお分かりでしょうか?それは大地震の時です。大地震が起きると建物の基礎が動いてしまうため、家や建物が傾いたり、動いてしまったりするわけです。これを元に戻すのに、曳家の技術が不可欠なのだそうです。大地震が発生すると召集がかかり、被災地に駆けつけて復旧工事を行なうのです。
また、壊して建て直すのに比べて費用が3分の1程度で収まり、さらには最近のエコブームもあって、大不況といわれる建設業界の中でもそう大きく減少することはないとのことです。その代わり建設業界が好況の時でも、そう大きく伸びることはないのだそうです。
家やマンション、ビル、学校、神社・仏閣、重要文化財等の移動まで、さまざまな建物を曳いてきた恩田組ですが、一番技術的に難しい仕事はどんな仕事でしたかとお聞きしたら、「それは“煙突”だな」と恩田会長。非常に縦に長い煙突は重心が少しでも狂うと傾くので、大変に技術的に難しいのだそうです。重要文化財などは、二度と修復できないものなので、気は使うけど、技術的にはそう難しいものではないのだそうです。
恩田組の歴史
恩田組は創業明治24年、今年で119年目を迎える老舗企業です。恩田忠彌会長の祖父が栃木の佐野から出てきて創業されたそうです。会長の祖父は相撲取りのような大男で102歳まで生きた地元でも有名な取りまとめ役だったそうです。最初はさまざまな土木工事をやっていたようですが、徐々に曳家を専門とするようになってきました。恩田忠彌会長は、その祖父のお孫さん。すぐ近所にあった法政大学経営学部を卒業し、海外にあこがれて商社に入ろうとしたのですが、お父さんつまり2代目の身体をはった猛烈な反対にあって頓挫。恩田組に入社した後は、職人を10年経験し、その後専務を経て45歳から60歳まで社長を務められ、現在は会長職です。「会長職に退いて、やりたいことがあったんだけど、なかなかできないなあ」と恩田会長。
曳家業界のレベルアップを
恩田忠彌会長は自社のことだけでなく、曳家業界全体のレベルアップが大事だということで、仲間の方々と曳家協会を平成9年に設立されました。業界団体なんか設立して、他の会社の技術が上がると、自社の注文が減るのではないかという意見もあったそうですが、「そんな次元の低い話じゃなく、曳家業界全体をよくすることが大切だ」と恩田忠彌会長の信念から設立に至ったのだそうです。
現在社団法人として60社ほどが加盟し最近では曳家の資格を国家資格として申請しようとがんばっているそうです。
業界としての一番の課題はなんですか?とお聞きすると、「後継者不足でしょうね」と恩田会長。現場の仕事はいわゆる3Kということで子息が継がないで、そのまま廃業という会社が多いのだそうです。そしていい職人が集まりにくいのも悩みなのだとおっしゃいます。職人を募集すると、人数が来るには来るが、定着が良くないのだそうです。定着率が良くないのは、会社の福利厚生が悪いというのも原因だということで、恩田組では毎年2回、社内旅行を行い、ワイワイガヤガヤやりながら、社員みんなとのコミュニケーションを図っているそうです。また、昔ながらの“職人”というのではなく“社員”として落ち着いて働いてもらいたいということで、直雇の形態をとっています。
伝統ある曳家業界ですが、恩田組ではさまざまな曳家に関する技術をいくつも開発して業界の革新に貢献しています。ここ数年はIT化の波が襲ってきており、ご子息が中心となって社内のIT化も推進しているのだそうです。
現在ご子息が専務として5代目社長の準備中ということ。若い経営者には、若い幹部・社員が必要だということで、自分も含めて組織の新陳代謝を進めているのだそうです。
100年を超える老舗である恩田組ですが、自社の強い基幹技術をもちながら、それだけに甘んずることなく時代に合わせて改善改革を行なっています。優良な老舗企業として着々と歴史を積み上げていっていることを実感しました。
◇株式会社恩田組
http://www.ondagumi.co.jp/