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株式会社箸勝本店 代表取締役 山本權之兵衛 社長

“「いいお箸で美味しい食事を」という願いlegwork_noimage

 日本人の食生活には欠かすことのできないお箸。1年365日、1日3回、85歳まで使うとすると一生で93,075回。たまにはフォークとナイフで洋食を頂くことも、スプーンでカレーを頂くこともありますが、少なく見積もっても一生で90,000回ぐらいはお世話になるのがお箸です。今回のテーマはこの“お箸”。
 お箸には毎日家庭で使う塗箸などの家庭用と飲食店で使う割箸にわかれるのだそうですが、本日お邪魔したのは、飲食店などで使われる国産木材を使った業務用の高級箸や、家庭での来客のおもてなし用お箸を中心に販売する、株式会社箸勝本店の山本權之兵衛社長です。

箸は日本の伝統文化

 日本の古事記の中に、スサノオノミコトが出雲の国で川から箸の流れてくるのを見て、川の上流に人のいることに気づき、川を遡ってヤマタノオロチを切って天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)を得たという話があるそうです。それほど日本人は古くからお箸を使っていたわけです。このころのお箸は、細長い木や竹を中央で折り曲げた、ピンセットのような形をしていたとそうです。
 日本文化においては、もともと食事は非常に神聖なものだったと山本社長はおっしゃいます。食を通して神様と人間をつなぎ(共食)、感謝を示すのが食事、だから最初に神様にお供えをして、次に人間がそれを頂く。その際に直接手で触るわけにはいきませんので、なくてはならない神聖な道具の一つがお箸ということなのだそうです。もしお箸がなければ、現在のような繊細な日本料理は生み出されてこなかったかもしれません。綺麗に盛り付けてお客さまにふるまう料理、これが会席料理をはじめとした日本料理の源流です。その発展にはお箸はなくてはならないものであり、お箸自体もさまざまな種類のものが開発されてきました。
 世界全体をみれば、お箸をつかって食事をする人は約30%、ナイフとフォークが約30%、手で食べる人が40%という割合です。それぞれその民族、宗教、食事の素材などにより文化的な背景があります。

宮内庁御用達

 現在、天皇陛下が毎日お使いの御前箸は、箸勝本店がお納めしているのだそうです。私も実物を見せて頂きましたが、材質は柳の木で細い白木の丸箸です。箸勝本店は宮内庁御用達の会社なのです。
 天皇陛下が即位され、大嘗祭(だいじょうさい、おおにえのまつり)を行われる前日、お部屋に籠って神様と共にお食事をされるという大切な儀式があるのだそうですが、その際のお箸としゃもじをお納めしたのも箸勝本店だそうです。なにせ68年ぶりにつくるといことで、大変に緊張し昔の資料を丹念に調べて作りましたと山本社長。
 というように皇室とのかかわりが古くからあり、山本社長は昭和天皇のお通夜である殯宮伺候(もがりのみやしこう)に参列することを許されたそうで、その際の文書も見せて頂きました。その体験は山本社長として一生の思い出だとおっしゃいます。

エコの目の敵にされているが本当は

 このように割箸の業界では高い力を有する箸勝本店ですが、現在の業界全体の経営環境は非常に強い逆風です。戦前関東に150社ほどあった割箸の会社が現在は30社ほどになり、日本全体でも100社ほどしかないのではないかということです。その理由の多くは後継者不在と輸入割箸の急増です。包装資材を扱う会社が中国や最近ではロシアなどから大量に安い割箸を輸入した結果、杉や桧といった日本の木材を使った箸が市場から消えていったのです。
 さらには最近のエコブーム。割箸は“使い捨て”というイメージが災いして、割箸を使わないことがエコ活動の象徴のようになってしまいました。ところが、山本社長がいうには割箸は間伐材や製材の切端などを使っていて、森林の環境破壊などとんでもない誤解だそうです。マイ箸、エコ箸などがブームになっていますが、それらに塗ってある塗料、水洗いの際の水や洗剤、箸そのものや箸入の材質であるプラスチックなどのCO2排出量を専門家が調査したところ、本当に環境に良いのは実は割箸の方だいうことが分かったと山本社長。
 第二次世界大戦で多くの家を焼失した日本は、戦後住宅の着工に取りかかりました。日本では木造家屋がほとんどで、特に杉と桧が活用されました。当然それと並行して植林も進んだのですが、当時の杉や桧が60年ほど経って成木となっている今日、本来それらの木は伐採され、再び植林していかなければならないにもかかわらず、林業従事者の減少にともなってそれができなくなってきていることを山本社長は大変に憂慮しています。木にも寿命があり60年から100年で衰える。それを超えるとCO2の吸収量も減少していくのだそうです。
 日本では古来そのサイクルで植林を行い、森林が健全に守られてきました。価格の安い輸入材が大量に日本に流入してきたため、日本の木材が使われず、林業従事者の減少、手入れの行き届かない森林の増加ということになったのだそうです。
山本社長はNPOなどと協力し、国産材を生活の中に取り入れ、日本の森林を守ることにつなげるという運動を支援しています。

文化を伝えるのが仕事

 箸勝本店で扱っている箸にはかならず説明書きが入っています。材質だけでなく由来や文化なども書いてあります。これは、お箸を売るのではなく、文化を売る、文化を伝えることが自分たちの仕事であるという、山本社長の考えによるものです。
 そして、お箸の正しい使い方の教育にも力を入れています。その基本は「下を固定し上を動かす」だそうです。毎日の生活の中で、両親が子供たちに正しい作法としてのお箸の使い方を伝えることが日本の伝統文化を次世代に伝えることだと考えていらっしゃいます。箸勝本店の箸は外国にも輸出されていますので、“Let’s Study Using HASHI”という具合に英語版のお箸の使い方の説明書もあります。
 また、ホームページで紹介されているお箸の使い方の中にはタブーも紹介してあります。
 ・移り箸
 ・こじ箸
 ・迷い箸
 ・握り箸
 ・持ち箸
 ・探り箸
など、34のタブーが紹介されています。どれも由来があり、改めてお箸が日本の食文化に大きく影響してきたことがわかります。(詳細はこちら→ http://www.hashikatsu.com/w0240.htm )

箸勝本店の経営

 最後に山本社長に会社の経営に関してお伺いしました。やはり一番こだわっているのは品質。一膳を大切に考え、品質には徹底的にこだわっています。私も体験させてもらいましたが、お箸の封をあけた瞬間の杉や桧の優美な香りは高い品質管理から生まれるものだと感じました。
 そして他社のマネをせず、日本唯一、世界唯一の商品を追及する。さらにそれらを独自のコンセプトで販売する。前項で紹介したようにお箸をお箸としてだけでなく、文化として提供するということです。日本の食における箸文化を継承すること、これを重大な使命としてとらえているのです。
 さらに山本社長は“社員は宝ものであり、社員は幸せになる権利がある”ということが信念です。小さな企業、同族企業ではあるけれども、自分たちばかりでなく、社員に利益を配分していくようにしていますとのこと。業績が厳しくとも絶対にリストラはしませんと断言する山本社長。
 
 杉の産地である奈良県吉野からスタートし、明治43年に東京に進出して、現在の山本社長は26代目。多くの人が徐々に忘れかけている日本の文化の素晴らしさを、箸をとおして継承し、そして我々に伝えてくれている箸勝本店でした。

◇株式会社箸勝本店
http://www.hashikatsu.com/