株式会社高齢社 代表取締役 上田研二社長
登録社員の入社資格を60歳から75歳未満の人に限定、定年制はなしという衝撃的な会社が外神田4丁目にあります。会社の名前は「株式会社高齢社」。今年、第一回千代田ビジネス大賞の優秀賞を受賞されました。
2000年の設立以来、株式会社高齢社は順調に成長を続けています。その成長ぶりをいろんな人に話しますと、自分も高齢者の活用を考えていたんだと言う人が結構多いのですが、実際に事業に取り組んでいる方は非常に少ない。ほとんどがなんとなくのアイデアのレベルです。ところが株式会社高齢社は正真正銘、高齢者のニーズ、高齢者の家族のニーズ、そして社会のニーズを結びつけて事業を急成長させている会社なのです。
株式会社高齢社の提供サービス
株式会社高齢社は、ガス関連業務を中心に人材派遣を行なう人材派遣会社です。派遣登録できるのは、長い業務歴を有する定年後のベテランの面々。現在登録社員数は300名を超え、就労率は約70%に達しています。人材派遣という業界を知っている方は、70%という達成率がどれほどすごいかご存知でしょう。
登録されている皆さんは年金ももらっている方でして、年金併用型の給与で月8万円~月10万円程度を稼いでもらえるようになっているそうです。
若年労働力不足で困っている会社にとって、豊富な知識、熟練した技能、そして強い責任感を持った社員を派遣してくれて、しかも月1日だけといった仕事にも柔軟に対応してくれる株式会社高齢社は非常に有難い存在なのです。
登録社員の給料は年金併用型ですので、当然コストは他社と比べて割安です。もともとはガス関連の仕事で始まった会社ですが、最近はさまざまな分野に派遣しています。
働く社員が働きやすい会社
定年退職した人の中で、働くことに「気力」「体力」「知力」を持った方に、「働く場」と「生きがい」を提供したいという考えから上田社長が始めたのが、株式会社高齢社です。社員中心の発想で始まった会社ですので、働く社員の働きやすさを徹底的に追求しています。
たとえば勤務日数は本人の希望により週2日でも3日でもいい。もちろん給与は勤務日数にスライドします。社員が毎月翌月の勤務希望予定日を申告し、それをもとにして勤務予定を組むのだそうです。300名も登録者がいますので大変な作業のようです。
期末手当、会社業績手当、登録社員全員での懇親・慰労会、高齢者ニュースでの情報共有、社員証(退職後社員証がないと非常に寂しいため)、社員相談窓口など働きやすい会社にするためのさまざま制度を設けています。
上田社長がおっしゃるには、「本当は派遣登録の社員ではなく、安定的な身分で働ける正社員で採用するのが一番いいと思うのだけれど、好きな時に無理なく働いてもらえるためには、今の日本の法律では派遣登録してもらうほうが最も適している」ので、派遣の形態をとっているのだそうです。
株式会社高齢社設立へのこだわり
上田社長は株式会社高齢者設立に当たって、4つのこだわりがあったといいます。
①1回で記憶してもらえる会社名ということで“高齢社”
②2000年1月1日設立と考えたが、役所で受け付けられずやむなく1月4日に登記
③日本の中心で設立したいということで千代田区外神田を選択
④経営決定権の確保、即断、即決、即実行を可能にするために出資者を個人に限定(出身企業からの出資もなし)
上田社長の経営哲学
上田社長はもともと東京ガスの出身です。当時、出向先で赤字だった関連会社の再建を数社行ったそうです。東京ガス勤務の当初は優良社員とは言えなかった(どちらかというと不良に近い)ようですが、25歳で一念発起。それ以降の東京ガス勤務と関連会社での再建の体験が、上田社長の経営哲学を作り上げていきます。
赤字に陥った会社の再建で最も重要なことはなんですか?とお聞きしたところ、ズバリ「社員の気持ちをつかむことです」という上田社長。大学や経営者セミナーでの講師も務めておられます。
ここで上田社長の経営哲学の一端をご紹介します。
①馬鹿な大将 敵より怖い
トップが馬鹿だと企業は崩壊する。
②好循環経営の実現
高処遇→高質経営→高販売・高サービス→高収益→(再び)高処遇・・・
という好循環を実現する高いレベルの経営と管理を目指す。
③上田3原則
1)頼まれたことは必ず返事をする
2)約束したことは必ず実行する
3)2度と同じことを言わせない
出向先企業の再建の際、顧客からの膨大な量のクレームを処理していく中で確立した行動基準。
④社員が最高の監査役
人事以外の経営はすべてオープン化。オープン化することにより社員は最高の監査役となる。経常利益の30%は働く人達に還元する。
⑤人は財産、人は宝
「社員≧顧客≧株主」の人本主義を徹底する。
リストラは行なわない。やむを得ず行なうときにはまず社長が辞めることを宣言。上田社長が幼少時に父親が失職し大変に苦労した経験による。
⑥辛いことほどためになる
「いかなる苦難にも負けず、苦難を友とし、苦難を我が師とする」(上田社長作)
どの言葉も上田社長の実践から出てきた奥の深い言葉ばかりです。まだまだありますがキリがありませんので、このあたりにしておきます。
社会貢献活動にも積極的
“高齢者に働く場”をという会社設立の趣旨自体が非常に社会的な株式会社高齢社ですが、災害地や海外への社会貢献も盛んに行なっています。
そのきっかけは、社長自身がパーキンソン病という難病に侵されたことだそうです。自分の身体機能が少しずつ衰えていく中で、いろんな人の助けを受けていることを痛感し、それに気づかなかったこれまでの自分の行動を反省。しかも看病や介護をしてもらうのは日本人ではなく、外国人かもしれないと考えるようになったのだそうです。
そんな折、テレビ番組の取材で知り合った野沢和之監督からフィリピンのストリートチルドレンを主人公にした映画を作りたいという話を聞き、その志の高さに感動。費用の半分を負担することを申し出たのです。自分だけでなく周りの方々からの援助もお願いし、2007年春に「マリアのへそ」という題名で映画は完成。文部科学省の選定作品となり、現在も全国各地で上映されています。他にも拓殖大学を通じて、東チモール騒乱で被害を受けた子供たちの教育を支援したり、日本でも地震が発生した場合には義援金を送ったりしているのです。
企業の元は人である。企業は社会的存在であり、社会の中で生き、生かされている。ということを上田社長は見事に実践し、私たちに手本を見せてくれています。
もっと詳しくその経営哲学をお知りになりたい方は、株式会社高齢社で自費出版されている「定年退職者に働く場と生きがいを」という本をお読み下さい。1冊1000円で、その代金は東チモールやフィリピンの貧しい子供たちの教育支援資金にあてられます。
◇ 株式会社 高齢社ホームページ
http://www.koureisha.co.jp/