日本給食サービス株式会社 代表取締役 山本貞雄 社長
最近、病院に入院して驚くは食事の質の高さです。味、見た目、暖かさなど病院給食は急速に進歩しています。今回おじゃました日本給食サービス株式会社は病院給食の日本における草分けであり、今も成長を続ける優良企業です。
東神田にある本社ビルの社長室で山本社長へのインタビューがスタートしました。
エリート銀行員から飲食業界へ
まだまだ日本に戦後の面影の残る昭和33年、日本給食サービスの山本社長は一橋大学を卒業し、住友銀行に入行しました。現在とはだいぶちがって、いわゆる都市銀行が日本経済の中心として圧倒的な存在感を示していた時代です。エリート中のエリートとして山本社長のビジネス人生はスタートしました。
また終身雇用が当たり前の時代でしたので、行員の皆さんは支店長や役員を目指して必死にがんばって、最後は銀行または関連会社で定年を迎えてビジネス人生を終えるのが一般的でした。エリートコースを順調に歩んでいた山本社長でしたが、じつは入社当初からいつかは独立したいと考えていたのです。
入社から11年目いよいよ独立に向けて退職したい旨を銀行に伝えたこところ、先輩や役員から相当引き留められたようです。しかし山本社長の決意は固く退職を決行。米国の生活を見るにつけ、日本も将来はこのような豊かな社会が到来し、飲食業が栄える時代がくると確信した山本社長は、飲食業界に飛び込むことにしました。
かっこよくいえばフードサービス業ですが、この時期まだまだ産業界の中で業界としては下のほうに見られていたのです。しかしすぐには独立できるわけではないので、山本社長はフードサービス業界に修行に出ました。
最初に修行した大手給食会社では転職そうそう大活躍で35歳にして役員に抜擢、2社目の大手スーパーの外食子会社でも常務として迎えられ修行期間は順調に推移していきました。
病院給食会社の誕生
フードサービス業に飛び込んで12年を迎えいよいよ自ら創業する時を迎えました。
しかし、フードサービス業といっても非常に幅が広い。何か普通とは違ったサービスを提供しなければ、独立しても成功しないと山本社長は考えました。いわゆる差別化要因です。
そこで目をつけたのが病院給食です。この当時、病院給食はすべて病院が自前で給食の社員を雇って患者に食事の提供をしていました。昔、病院給食といえば早い、冷たい、まずいというのが一般的でした。将来もこのままであるはずがない。きっと温かくて美味しい料理を求める時代が来るし、その時には専門的な会社の外部委託が進むはずであるという予測をしたのです。
しかし、法律的にも一部の例外を除いて病院給食の外部委託は認められていませんでした。当時の厚生省、県庁の保険課などのお役人に掛け合いましたがぜんぜん相手にしてくれません。しかし山本社長の熱意が実ったのか、例外規定に該当すると判断できるような病院が茨城県にでてきて、ついに日本給食サービスの1件目のお得意先病院が開拓できたのです。ちなみに正式に病院給食の外部委託が認められたのは5年後だそうです。
以来、日本給食サービス株式会社が給食を提供する事業所は165事業所、スタッフは1,100名という規模にまで成長していますが、病院給食という事業領域を深耕し、いまでも事業所のうち92~93%は病院および福祉施設であるということです。
ただ最近は病院も福祉施設も予算が非常に厳しい状況にあるのと同時に患者さんの負担増もあり、給食会社に対しても年々厳しい予算となっており、努力の足りない業者は淘汰される傾向にあるようです。
またここ数年、給食業界では外資企業が日本市場に入り込んで来ています。
理論と数字という頭だけの外資企業は怖くはないけれど、現場を知っている日本企業のノウハウと外資企業の巨大な資金が結びついた場合には強敵になるだろうというのが山本社長の見方です。
社員教育の徹底
このような厳しい経営環境ですが、日本給食サービス株式会社は高い収益力で成長を続けています。
その秘密をお聞きしたところ、ずばり「社員教育」ですと山本社長は断言されました。
とにかく日本給食サービスの社員教育は徹底しています。本社ビルは8階立てですが、4フロアーはテナントに貸し出しているので、本社として活用しているのは4フロアーです。そのうち2フロアーを調理室と研修室に使っているのです。本社の半分が研修施設というは大変なことです。
研修のプログラム、専門の講師陣、研修環境は非常に質が高く念入りで、キャリア・アップを目指す若い学生たちや学校でも大変な評判になっているようです。
というわけで新卒の応募者数は非常に多いけれど、正社員・パートを問わず採用基準は非常に厳しくしてますよとのこと。特に、
(1)CSマインド(顧客満足)
(2)調理好き
(3)清潔好き
この3つは絶対に譲れませんと山本社長。いい素質の社員に十分な教育を行うことにより、社員の質を維持・向上させ、それが顧客からの高い評価につながっているようです。
病院給食に専門特化しているだけに、いい評判もすぐに広がりますが、悪い評判の広がるのも早いのです。
社員教育に関して社員が辞めたら無駄になるじゃないかという意見もありますがとお聞きしたら、それはそれでしょうがないでしょ。社会のために教育していると思えば悔しくないですよ。社員はウチの会社の社員でもあるけど、世の中の社員でもあるんですからというのが山本社長の考え方です。
若手経営者へのアドバイス
若くして一流企業を退職し、自らの才覚だけをもとでに会社を立ち上げてこられた山本社長はいわゆるベンチャー経営者の先駆けであると思います。
若い経営者にアドバイスをお願いすると次の3点を上げられました。
(1)社長自ら朝から晩まで必死で働くこと…山本社長は今でも週6日きっちりと働いておられるそうです。
(2)時代を見る目を持つこと…時代を見誤ると苦労するだけで成果がえられません。
(3)他社とは違う差別化を行うこと…日本給食サービスも一般的な産業給食をやっていたら今のようにはならなかった。
医療・福祉という市場での顧客満足の追求、社員の雇用や教育の徹底、商工会議所や地元地域の活動などへの積極的な関与、優良申告法人の認定など山本社長のお話は企業の社会的責任ということを常に意識して経営されておられると感じました。
日本中で若者に安易に起業をすすめ、ベンチャー企業をはやし立てる風潮がある中、なぜ起業するか?起業することにともなう会社の責任とは何か?そのなかで経営者の本当の役割は何か?
といった深いテーマを投げかけられた気がした今回の企業探訪でした。
◇株式会社日本給食サービス
http://www.seiyofood.co.jp/nks/