株式会社大日本絵画 小川光二 社長
千代田区の地場産業といえば真っ先にでてくるのが、出版社です。大手出版社から中小出版社までそれぞれいろんな展開を繰り広げておられます。しかし、業界全体としては活字離れやインターネットの登場で状況は非常に厳しい。
その厳しい状況の中で中小出版社が生き残るには他に真似のできない特徴のある書籍を扱う戦略しかありません。 この戦略を徹底しているのが、本日おじゃました株式会社大日本絵画でして、二代目の小川光二社長にお話をお伺いしました。
飛び出す絵本が大変なことになっている
みなさん、一度や二度は子供のころに飛び出す絵本を読んだことがありますよね。怪獣が飛び出してきたり、キャラクターが動いたりするあれです。これは専門用語(?)でしかけ絵本といいまして、最近、その作品はものすごく高度なレベルに達しており、大変なことになっています。「超しかけ絵本」って感じです。
小川社長に現在大日本絵画さんで取り扱っている天才的作者ロバート・サブダ氏の作品を中心に説明をして頂いたのですが、その芸術性、創造性、技術力に圧倒されるばかりです。「不思議の国のアリス」とか「オズの魔法使い」をテーマにした作品が有名です。ゆっくりと表紙を開くと、ほんとうにすごい。なぜこんなに飛び出すのか?どうやってこんな複雑な形になっているのか?開いたものを壊さず元にもどせるのか?(笑)
最近はテレビや新聞などのマスコミでも取り上げられることで大変なブームになっています。子供へのプレゼントにもいいです、部屋やお店の飾りにもいい、もちろん自分のために買って時々こっそり眺めるなんてのもいいですよ。
しかけ絵本の製作はグローバル
その原因はしかけ絵本の製作工程にあります。しかけ絵本はすごく複雑なパーツの組み合わせがあって、全部手作業で組み立てていく必要があるために、現在製造はほとんど中国で行っています。製造の発注ロットは5万部から10万部ほど必要です。ということで欧米の出版社が作家と企画して、全世界のしかけ絵本を扱う出版社と契約して、5万から10万部にまとめ、中国で製造を行うという構図です。5万部から10万部にとりまとめる際に日本ではしかけ絵本で有名な大日本絵画さんに声がかかり、日本語訳にして3千から1万という部数で契約を行います。
もし、日本の出版社が日本の作家と協力して作成しようとしても、日本単独の市場では部数でいうと3千部から1万部ということになり、1冊のコストがべらぼうに高くなり、発売単価も大変に高くなって事実上出版は無理ということなのです。
ぜんぜん在庫がない状態が続いていたそうですが、まもなく商品が入荷するそうなので、みなさま是非書店などで見かけたら、手にとってみて下さい。しかけ絵本への見方が変わると思います。自分で作ってみたくなった場合に備えて、しかけ絵本の作り方の本も大日本絵画で出してますので安心して下さい(笑)。
大日本絵画のもうひとつの柱
しかけ絵本の話はこれくらいにします。大日本絵画はしかけ絵本だけの出版社ではありません。もう一本の得意な分野があります。それはズバリ「プラモデル雑誌」です。実にシブい!
大日本絵画の扱っているのは、ミリタリーを中心にプラモデルを総合的に扱った「月間モデルグラフィックス」、戦車を中心に特化した「月間アーマーモデリング」、飛行機を中心に特化した「隔月刊スケールアヴィエーション」の3誌です。小川社長にお聞きしたところ、3誌に似た雑誌はいろいろあるけれど、品質的にナンバー1ですよとのこと。売上構成では大日本絵画の一番大きな柱だそうです。ただ最近は読者の年齢が上がってきてどうしたものかというのが課題だとか。
ところで、なぜしかけ絵本とプラモデル雑誌の出版社の名前が大日本絵画なのか?という疑問を持たれませんでしたか?それはこの会社の成り立ちに理由があります。
戦後、日米英会話手帳で一世を風靡した誠文堂新光社という社歴90年以上を誇る有名な出版社があります。その50周年の記念のパーティーに配った複製絵画が非常に良いと評判になり、その複製画を扱ったのが大日本絵画なのです。ちなみにその複製技術は大日本印刷が新しく開発したもので、もともと会社は大日本絵画巧芸美術株式会社という社名でしたが、あまりに長いので今は株式会社大日本絵画になったということです。最初は洋画でしたが、そのうちに日本画や掛け軸の複製も取り扱い、全国の書店の外商部を通じて家庭や学校などに販売をしていたのだそうです。しかし、だんだんと書店の外商部が少なくなってくるのに伴い複製絵画販売のルートも少なくなり、取扱量も少なくなっているそうです。社名に名残はありますが、今では売上構成はずいぶん少ないようです。
「選択と集中」で戦略経営
大日本絵画に訪問させて頂いて感じたのは2点。
1点はいわゆる「選択と集中」という経営戦略の王道。しかけ絵本とプラモデル雑誌という2つに集中しているのは見事です。しかけ絵本は大日本絵画という市場の評価は世界的に固まっています。「○○だったら○○会社」というナンバー1商品をつくっておられるわけです。
もう1点は会社創業当時のヒット商品の取扱いです。どうしても1度ヒットした商品がでると、その商品にこだわりがちです。確かに商品へのこだわりは必要ですが、それはあくまでも市場にあわせたこだわりである必要があります。新商品としてのしかけ絵本とプラモデル雑誌への移行、つまり経営環境変化への適応もまた見事です。もちろん両商品ともきっかけはあったのでしょうが、そのきっかけをすばやくとらえ、市場を作り出す、市場に送り出すのは非常に素晴らしい戦略的意思決定と行動力であると思います。
「選択と集中」、「経営環境変化への対応」という2点を見事に実践しているということに大変感激した大日本絵画さんへの企業探訪でした。
◇株式会社大日本絵画
http://www.kaiga.co.jp/