株式会社八木書店
古書と新刊書を扱う八木書店
八木書店は神保町唯一の書店です。何が「唯一」かというと古書と新刊書の両方を扱っているのは神保町にある200店舗以上の書店の中で八木書店だけだということですごく珍しい存在なのです。しかし、八木書店のすごさはそれだけではありません。今回は、企業探訪第2回ということで八木書店ワールドを少しでも紹介できればと考えております。
インタビュー当日、時間通りにお伺いするとニコニコした八木社長じきじきお迎え頂き、社長室へ。さすがに書籍会社の社長室だけあって一面重厚な本がびっしり。
最先端のコンピューター投資
八木書店の業務の内容をひととおりお聞きしたところで、まずびっくりしたのは社内のコンピューター化の話。タイガー計算機(知ってます?)、ツーメモリのソニー計算機(なんと当時40万円という超高額機)、オリベッティのコンピューターなど、八木書店のコンピューター導入の歴史のお話をお聞きするとこれはまさに日本の事務作業合理化の歴史的変遷をお聞きしているようでびっくり。当然これらは当時の最先端で相当思い切った投資でしたとのこと。当然現在も最新のスペックのコンピューターで売掛管理、買掛管理、在庫の単品管理、顧客名簿管理をバッチリとやってますとのこと。
なぜ業界でも先駆けてコンピュータ化を推進してきたのかというと、八木社長が八木書店に入社される前に、証券会社で勤めておられその際に利回りの計算などで機械を使って仕事や事務を進めることが当然だっただけに、八木書店に入社してからも機械やコンピューター化に積極的であったようです。
影印本が八木書店の特徴
使う技術はいわゆる最先端ですが、扱っている商品はこれはなかなか古いものが多い。たとえば、「正倉院古文書影印集成」ってなんだか分かりますか?私は分かりませんでした。
「正倉院古文書影印集成」とは正倉院で1000年以上大事に大事に保管されている文章をこだわりぬいた精密な写真と印刷、そして劣化の少ない中性紙で再現しようという日本では始めてのすごい企画本です。だれが買うのかなあと正直思ったのですが、大学、図書館や研究所など日本古代の研究者にとっては垂涎の的のようで、全部揃えると相当なお値段ですが、社長の話ではご注文は相当部数を頂きましたよとのこと。この点はさすがに事業家です。「天理図書館善本叢書」これもすごい。日本の古代文書の所蔵では日本でナンバーワンの天理図書館所蔵の古書をなんと20年をかけて全92巻にて再現しているという空前の企画です。
というように八木書店の特徴は歴史的にきわめて価値の高い本の影印本にあります。もちろんこれほど特殊ではないにしても、一般的な国文系の古書が八木書店の古書部の特徴だそうです。もう一つの八木書店の特徴は「太陽」や「新潮」といった日本の近代文学研究には欠かすことができないとされている近代文学雑誌のDVDなども手がけておられます。これも歴史的な価値からすると相当に高い。
4本の事業の柱
古書の販売と出版だけでなく、八木書店では新刊書の取次ぎ、バーゲンブックの販売という事業の柱があります。日本での新刊図書は、再販売価格維持制度により定価販売が維持されています。しかしそれがすべてではなく、出版社の判断により価格を自由に設定してよい図書(自由価格図書)もあります。このような本をバーゲンブックと呼びます。バーゲンブックは古本や古書ではなく新本です。いまでこそ相当普及してきたバーゲンブックですが、これを先行的に取り組んできたのが八木書店です。八木社長は何気なく説明をしてくれるのですが、実は業界では大変に先進的であり当初はいろいろ摩擦もあったんあだろうと思います。いわゆる先駆的な取り組みが八木書店には非常に多い。
八木社長は2代目社長ですが、そろそろと次の世代へのバトンタッチの準備もお考えのようで、そのための準備の意味もあるのでしょうか、3年前から中期経営計画を策定しそれに基づいた経営をしているとのこと。社内のマネジメントシステムの構築にも取り組んでおられるようでした。
「古くて新しい」のが八木書店の戦略
神保町というまちは書籍を中心とした小売、取次、出版、印刷というクラスター(集合体)を形成しており、競合と協調を乗り切った店舗が現在まで生き残り、さらに成長を続けています。その中で八木書店は
(1)きわめて専門的に特化した特徴のある商品
:きわめて強いインパクトを与え、顧客の心にしっかりと刻み込まれ。
(2)先端技術への積極的な投資
:コンピューターへの投資はその典型
(3)複数の事業の柱による経営の安定化
1)古書販売事業
2)新刊取次事業
3)出版事業
4)バーゲンブック事業
など八木書店の戦略は時代背景と適合して専門店経営成功の一つの形を示しているように感じました。しかしながら、八木社長は自社のことだけを考えておれるわけではなく、神保町という地域、新書・古書という書籍業界全体のことを常に考えて発言され、行動しておられます。神田古書店連盟の幹部を永く務め「本の街・神田」や「神保町ドットコム」は八木社長の存在なくして実現できなかっただろうと言われています。そしてこの2つのホームページをさらに発展させ、最近「BOOK TOWNじんぼう」http://jimbou.info/が完成しました。本好きの方はぜひ一度ホームページを訪れてみて下さい。
古書という古い古い商品を新しい技法と発想で世の中に広め、後世に伝承していく。表面的で薄っぺらな新商品や新サービスだけを追い求めるのではなく、自分たちの持つ歴史と伝統を強みとして活用する。
古くて新しい魅力いっぱいの八木書店への企業探訪でした。
◇株式会社八木書店
https://www.books-yagi.co.jp/