株式会社アイネット
緊張のうちに企業探訪スタート
神田の鎌倉橋交差点のすぐ近くにある清潔なビルの7階に株式会社アイネットのオフィスがある(※2014年9月、御茶ノ水ソラシティ13Fに移転)。受付を終わったあと、商談室で待っていると本郷社長登場。本郷社長はいつものとおりクールな感じで少々話を切り出しにくい雰囲気。しかしお仕事なので思い切って企業探訪の趣旨を説明すると本郷社長はいきなり「第1回の企業探訪にうちの会社じゃあ地味すぎるんじゃないの?IT系にはもっと派手な会社もいっぱいあるから、ご紹介しましょうか?」とのご発言。
いえいえ、そういう趣旨ではありません。この企業探訪は千代田区内で地道に活動しておられる素敵な企業を発掘して紹介しようというもくろみなのですというお話をして、なんとかインタビューをスタート。
日本はIT後進国か
株式会社アイネットは平成9年設立のソフトウェア開発の会社だそうで、生命保険や損害保険などの各種システム構築を直接請け負っておられます。いわゆる元請。各種システムとは保険商品を設計するシステム、入金・出金の管理システム、コールセンターの運用システムまでなんでもできますよとのこと。ただし、別に保険会社だけに特化しているわけではないのでどのような会社からでもお仕事があればお受けしますよとのこと。
ソフトウェア業界は建設業界に似ていいて、下請、孫請の多重構造ですが、最近はソフトウェアの外注は国内だけでなく海外、特に中国も多いんじゃないですかとお聞きすると、株式会社アイネットの外注先は基本的には国内企業で、一部韓国へ外注することもあるとのこと。最近流行の中国は発注単価が日本の30%~40%と安いけれどサービスの概念が希薄で製品の手直しやアフターフォローのコストが高くなり、結局得意先の評価を落とす可能性があるので外注先は韓国だけにしているそうです。韓国への発注単価は日本の80%程度と結構高いけれど、品質、コミュニケーション、ビジネススタイルがよく似ているので安心して任せられる。ロシアは優秀な人材も多く品質的には魅力的だけど、IT技術者の目がヨーロッパに向いているので日本は相手にされてないよとのこと。少しさびしいなあ。
それじゃあ、世界の仕事を日本企業が受注してくればいいじゃないですか、その可能性はどうですかとお聞きすると、日本は今やIT後進国だからそんなの当面無理でしょうねという更にさびしいお話。なぜそうなったのかとお聞きすると、理由は3つ。
(1)光ファイバー導入の遅れに象徴される国による各種規制の影響
(2)ITに限らず学生の学ぼうとする姿勢の欠如
(3)単一的民族によるツウカアでのビジネス慣行
この3点が世界における日本のIT競争力を弱めてしまったとのこと。そうかIT業界は華々しい成長企業ばかりの雰囲気があるが、けっしてそうではなく世界規模の競争が激化していて業界全体としてはなかなか容易じゃないらしい。
社員の自立が成長の秘密
ところがこのような厳しい環境の中でも、(株)アイネットは設立以来8期連続の黒字で社員も順調に増えており、給料は他と比べると結構高く休日もそれなりに取れますよとのこと。本郷社長の話を総合すると①優良な得意先に元請で高い品質のシステムを納品していること、②一人一人自立した社員が多いこと、この2点が株式会社アイネットの継続的成長の大きな理由のようだ。
経営施策の一つとして株式会社アイネットは社員の自立性を高めるために「自分でやりたいことに取り組む会」( 会)を開催して毎月進捗状況を報告しあっている。会社の助成などは一切なしであくまでも社員の自主的な活動を尊重する。ボランティア、環境保護、社員教育、育児休業、広報など自分のやりたいテーマに取り組む。情報セキュリティマネジメントシステム認証取得もこの会のメンバーが中心となって取得したそうです。
企業の中で社員の自立性を高めるということを本気で取り組んでいる企業はそれほど多くない。社員の自立性が会社の業績向上に結びつくことは確かなんだけど、数量で把握できないからなかなか企業は取り組めない。社員としても自分から変革を求めないで毎日毎日が泥縄式で過ぎていくほうが楽だからあえて自立的にやろうなんて考えない。本郷社長いわく「仕事でもプライベートでも同じで、大切なのはどうやって自分を変えるかなんだ。元請にこだわっているのも、下請けだと社員が自立性が発揮しにくいからなんだ」とのこと。
本郷社長は現在49歳。55歳までに社員200名ほどの会社に成長させ、その後は後進に道を譲りたいクールにおっしゃる本郷社長。失礼ながらソフトウェア業界といえば、タコツボ的な長時間労働で発注先や元請に振り回される下請企業しか知らなかった私には驚きの会社で、IT業界で働くのならこんな会社で働きたいなあという株式会社アイネットでした。
大事なことを言い忘れましたが、本郷社長は財団法人まちみらい千代田の評議員に就任を頂いておりましていつも貴重なご意見を頂いております。この場を借りて感謝申し上げます。
◇株式会社アイネット
http://www.inet.gr.jp/