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株式会社アップル 代表取締役 齋藤雅夫社長

legwork_noimageマネキンへの特化と個別提案営業で急成長

 今回おじゃました(株)アップルは、デパートやアパレルのショップでよく見かけるマネキンを製造している会社です。生産拠点のひとつであるベトナム出張から帰ったばかりの齋藤社長に時間をとっていただき、インタビューのスタートです。

大手4社と(株)アップルの違い
 

 マネキンの業界には吉忠(株)、(株)七彩、(株)トーマネ、(株)ヤマトマネキンという老舗の大手4社というのがあり、それぞれ自社のオリジナルブランドを持ち事業展開しているのだそうです。デパートで衣服は見ても、マネキンを詳しく見ることはあまりないと思いますが、よーく見てみるとこの4社ブランドのロゴマークが入っているものがあるそうです。

 業界としては後発である(株)アップルは、大手4社と二つの点で大きな違いがあります。一つはは自社ブランドを持っていないということ。(株)アップルの得意先は日本や世界を代表するアパレルメーカーがほとんどですが、我々最終ユーザーや量販店が(株)アップルの名前を目にすることはまずありません。

 もう一つの違いは、商品カタログがないことです。大手はそれぞれ大変な品数を掲載した総合カタログ、または専門カタログなどを作成し、得意先はその中から必要なマネキンを選んで発注を行います。
ところが(株)アップルにはカタログというものがないのです。(株)アップルの営業担当者は、得意先のアパレルメーカー 一社一社の販売担当者と綿密な打ち合わせを行い、衣料品がもっともよく売れるにはどのようなマネキンが良いのかを個別に提案していくのです。

 (株)アップルの強みは

 マネキンを見るためにデパートに行く人はいません。衣料品を買うために行くのですが、そこでその衣料品の良さが最も引き立つ販促道具としてのマネキンを提案するのだそうです。この販促道具とその使い方に関してのノウハウが(株)アップルの強みなのです。一つの例として、冬物衣料は重衣料といって濃い色のものが多い。夏物は軽衣料で薄い色が多い。それぞれの衣料を目立たせるためには、マネキンはその反対、冬は薄い色、夏は濃い色にすると衣料が目立つ、そして売れるようになるのだそうです。

 アパレルメーカー各社は一着でも多くの人に買ってもらおうとしのぎを削っています。ウチのブランドの衣料品が他社のものよりいいですよという差別化を、広告宣伝を通じて行っています。他社とは違う個性的な演出をともなった販売促進をしたいと考えているアパレルメーカーでは、自社の衣料品にあわせて独自に提案をしてくれる(株)アップルの担当者は、非常に心強い販促応援者ということになるわけです。一品一品がオーダーメイドですので、カタログは必要ありません。

衣料品にとってマネキンが黒子であるように、アパレルメーカーが主役で(株)アップルは黒子に徹する。だからあえて自社のブランドを売り込む必要はないのです。(株)アップルが、自社ブランドを持たない理由がここにあります。

カタログでの販売に比べて大変に手間のかかる営業手法ですが、このスタイルでの地道な提案営業活動がこれまでの(株)アップルの継続的な成長を支えてきているようです。一人一人の営業スタッフが得意先の販売戦略を理解し、その戦略にあうデザインのマネキンを提案していきます。最初の注文は一個からでも受け付けるそうです。もちろん一個の受注ですと赤字ですが、そのマネキンの効果が現れれば次は100個、200個と注文が入ってくるのです。

 (株)アップルは創業20年目ですが、大手4社が行っている店舗装飾の仕事は全く行っていないそうでして、マネキン関連だけの売上ということになると大手4社に次ぐ準大手に位置づけられるのだそうです。齋藤社長の戦略の正しさをこの業績が裏づけています。

(株)アップルは埼玉県の所沢に組み立て工場がありますが、パーツについては中国とベトナムに製造工場があり、それらのパーツの無数の組み合わせの中から最終製品であるマネキンが組み立てられ、主として埼玉、一部は大阪から全国に、(株)アップルの製品が送り出されていきます。

経営者として大事なこと

 最後に、「(株)アップルを創業されて20年。企業のトップとして必要なものはなんだと思われますか?」と、若い経営者へのアドバイスをお願いしたところ、齋藤社長はずばり“度胸”だとのこと。

マネキン会社を立ち上げるには、企画者、原型師、金物技術者、FRP(繊維強化プラスチック)技術者、塗装技術者、メイク技術者、製造技術者、物流担当者などたくさんのメンバーが必要です。(株)アップルを立ち上げるときもいきなり14名からスタートしたそうです。「これが“度胸”ということの一つの例ですよ」と齋藤社長。あらかじめ結果が分かっていることなら社員に任せてもいい。結果の予測がはっきりできないなかで下さなければならないのが経営者の決断であって、その際には“度胸”が最も重要となるということです。もちろん綿密な準備と創意工夫をしてからの“度胸”です。議論と準備はするけれど最後の“決断”をしない経営者では、企業は成長しないということです。

 経営者としての決断の一つの現われとして、将来への“先行投資”も不可欠であるというのが齋藤社長の考え方。新しい商品開発のための先行投資、システムへの先行投資など。しかしなんといっても一番大切なのは、人材への先行投資だと齋藤社長はおっしゃいます。採用や教育には、大変な時間と労力、お金をかけていらっしゃるようです。スタッフはやはりデザイン感覚が求められるため、美術大学出身者が多いそうですが、新卒にしても中途採用にしても、採用では厳しい基準を設け決して妥協はしないそうです。少しでも優秀なスタッフを獲得したいという経営者としてのこだわりです。大手企業は10年先、20年先を読んでさまざまな先行投資を行っています。経営資源の少ない中小企業は、よくよく狙いを定めて将来への先行投資を行う必要があります。

 2009年の6月に神田須田町に自社ビルが完成予定だそうです。齋藤社長によれば、「大きくはないけれど、最先端の職場環境と安全安心や環境に配慮したインテリジェントビルですよ」とのこと。来年は新しい職場環境を得て、益々発展の予感がする(株)アップルです。

日本大学芸術学部出身の元プロカメラマンである齋藤社長のレンズは、遠い将来を見つめていると感じました。