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株式会社新進 代表取締役 籠島正直社長

「日本食文化の名脇役“漬物”をつくって100年」legwork_noimage

突然ですが、みなさんのお好きな“漬物”はなんですか?

 たくあん?浅漬け?ぬか漬け?福神漬け?
 奈良漬け?しば漬け?らっきょ?キムチ? 

周りにいるスタッフ数名にこの質問をしましたら、いろんな応えが返ってきました。漬物の好みはそれぞれでしたが、みんな自分の好きな“漬物”に思い入れがあるようで、説明が長~い。(笑)
ちなみに、「私は一切漬物を食べません」という人は一人もいませんでした。やっぱり日本人は漬物が好きなんだなあと、納得しております。

 今回企業探訪でおじゃました(株)新進は、このように私たちの食生活に欠かすことのできない日本食文化の名脇役“漬物”のメーカーです。スーパーで買う漬物、お土産で買う漬物、自分でつける漬物など私たちの周りにはさまざまな漬物がありますが、みなさんもスーパーで一度は(株)新進の製品を手に取ったことがあると思います。
神田佐久間町の(株)新進本社の社長室で、4代目籠島正直(かごしま まさなお)社長にお話をお伺いしました。

漬物の老舗

 (株)新進は、明治27年に社長の曽祖父にあたる方が群馬県の高崎市で創業しました。当初は焼麩と澱粉の製造業だったそうです。その後アミノ酸を使った調味液の分野に進出、群馬県は当時大根の産地であり、地元で盛んであった漬物会社に調味液を納品していくうちに、自社でも漬物を製造し始め、現在のアミノ酸調味液、小麦澱粉、漬物という3本の柱ができました。
 (株)新進の製品で私たちが一番目にするのは、スーパーなどで販売されている “しんしんのお漬物”です。さまざまな種類の製品がありますが、“高級福神漬け”は特に有名です。昭和63年、ビートたけし率いるカレーショップ北野印度会社と業務提携し、「北野印度福神漬」を発売。これが大ヒットし、新進の“特級福神漬”は市場シェア51%を獲得したそうです。
 ちなみにカレーライスに添えられるこの“福神漬”を知らない人はいないと思いますが、明治のはじめごろ、考案者の店が上野不忍池の弁財天にあったことから、数々の野菜を七福神に見立て、戯作者梅亭金が名づけたのが始まりだそうです。

経営システム革新への取り組み

 昭和58年に大手商社から(株)新進にもどり、平成2年社長に就任された現籠島正直社長は、さまざまな社内の改革に取り組まれたそうです。100年以上の歴史の中にはいいものもたくさんあったのでしょうが、革新しなければならないものもずいぶんあったようです。
たとえば利根川工場では440点ものアイテムを生産していたそうですが、それを140アイテムにまで絞込み生産性を向上させました。平成4年には創業100年をきっかけに、社名のロゴマークを現在のものにするなどCI(コーポレートアイデンティティ)を導入。
また、(株)新進では品質マネジメントシステム(ISO9001)と環境マネジメントシステム(ISO14001)を取得しています。両方を認証取得している漬物会社は、全日本漬物協同組合連合会加盟の約2000社の中でもきわめてまれです。
さらに、(株)新進にはCSOという役職があるのだそうです。チーフ・セキュリティー・オフィサー、つまり“安全”に関して責任を持つ役員です。安全・安心というリスクは、食品メーカーにとって企業の存亡を揺るがしかねない大きなテーマです。もちろん安心・安全を確保するために負担しているコストも膨大になります。

 ほかにも社内カンパニー制度、ホームページでの情報発信など非常に充実しています。一般的にはメーカーのパンフレットには、自社の製品や技術の説明が多いのが普通ですが、籠島社長に説明してもらった(株)新進の会社案内には、新しい経営システムへの取り組みがまず最初に数多く説明されています。
 食品製造メーカーとしてその製品が“おいしい”のはある意味では当たり前のこと。(株)新進が100年以上にわたって成長してきた秘密は、どうもこの革新的な経営システムにありそうです。

新製品、新事業の展開

 これまで社内のことばかりを説明しましたが、企業の攻めとして“新商品”“新事業”にももちろん積極的です。(株)新進のコンセプトは“野菜をコーディネートする会社”とのこと。新製品、新事業も全部野菜に関連しています。

① 冷凍磨砕ミクロペースト食材
 凍結磨砕法は(株)新進が昭和56年に取得した特許です。ミクロペースト食材はこの技術を使って野菜をペースト化した製品だそうで業務用で幅広く活用されているヒット商品です。
② スパイス・ミックス(シーズニング)
食品会社が使う各種スパイスのミックス粉です。スパイスの世界的ネットワークを有するマコーミックと合弁により日本拠点として昭和38年より業務を展開しています。日本スタンゲ株式会社という関連会社が担当しています。
③ 有機JAS
現在ほど「健康」「安心」「安全」な食品を求める声が高まっている時代はありません。(株)新進は以前から有機JAS企画の素材で作ったオーガニック食品に取り組んできました。21社がオーガニック・ギルドを結成し、オーガニック・ギルド製品を供給しています。
④ チルドポテト
皮をむいてボイルした北海道産のじゃがいもの真空パックで、レストランやホテルでの需要が年々増加しているそうです。日本のチルドポテトのシェアNO.1の商品です。北海道新進アグリフーズ(株)という関連会社が担当しています。

 全部説明しようとするとキリがありませんので、このあたりでやめます。一般の消費者には目に触れない製品も多いのですが、(株)新進は食品メーカーのサイレント・パートナーとして、間接的に私たちの食生活に大きく関連している会社なのです。

 籠島社長によれば漬物会社は、毎年約100軒が廃業しているのだそうです。家計調査年報などを調べてみても、1世帯あたりの漬物への支出金額は平成10年以来減少の一途をたどっています。漬物以外の2本の柱であるアミノ酸調味液、小麦澱粉もどちらかといえば、斜陽産業といえるでしょう。経営の環境としてまったくもって厳しい状況です。
 しかし、
・ 経営システムの絶えまざる革新
・ 新製品・新商品への開発
そしてこれらをリードする籠島社長の強いリーダーシップで成長している(株)新進には、厳しい経営環境の中でも生き残っていく中小企業の実践的戦略事例を見せていただいた気がします。

漬物好きの私としては大変に勉強になった今回の企業探訪でした。ちなみに私はたくあんと奈良漬が大好きです。