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大震災後の消費者意識の変化からビジネスチャンスを探る!

がんばる中小企業応援リレーコラム
~景気回復期を上手に乗り切ろう!~

1回 大震災後の消費者意識の変化からビジネスチャンスを探る!
中小企業診断士  中津留 準(なかつる ひとし)

環境の変化で消費者意識が変化する

我が国は一つの文化圏に統一されてから千数百年経ち、この間に共通の倫理観、価値観、美意識などが培われ、定着してきました。ほとんどの人々がこれを基準に考え、行動するため、消費行動も均質化する傾向がみられます。しかし倫理観は変わらなくても、価値観や美意識は社会的大事件を共通体験することで劇的に変わり、これによりライフスタイルや消費行動が大きく変化した例がしばしば見られます。東日本大震災は多くの人々の価値観や美意識に大きく影響を与えましたが、それ以前の100年間で人々の意識を大きく変えた社会的大事件や環境の変化には次のようなものがあります。

 1945年の敗戦を機に激変した意識

明治以来多くの人々は国防が最も大切との共通意識を持っていましたが、特に欧米や中国との摩擦が激しくなった昭和になってからはこの意識が高まり、耐乏生活を続けながらも国家予算の大半を軍事費に使うことに大きな不満を持ちませんでした。そして、優秀な人材の多くは軍人を目指しました。しかし敗戦を機にこれが一変し、物質的豊かさを求める経済成長が共通の価値観となりました。これにより産業構造も経済システムも変わり、新ビジネスが多数起こりました。

 1970年頃に注目され出した「公害問題」による意識の変化

すでに数十年前から各地で公害が発生し、これに苦しむ人たちが存在したにも関わらず、経済至上主義の価値観から、政治も行政もマスコミもこれを積極的に取り上げることは少なく、一般の人たちの関心も低いまま過ぎてきました。しかし、1968年に水俣病が公害認定されたことからマスコミも積極的に公害問題を取り上げ、社会の関心は一気に高まりました。これにより政治も行政も動き出し、1971年には環境庁が設置され、産業界も公害に対する配慮が最重要課題になりました。消費者意識も大きく変わり、「公害」がキーワードになりライフスタイルも消費行動も変化しました。

 1973年の第1次オイルショックによる意識の変化

第3次中東戦争の影響による第1次オイルショックは、我が国の社会全般で一時的に大混乱を起こしましたが、これにより人々は「資源には限りがある」ことを認識しました。経済成長至上主義の時代は「消費は美徳」とされ、消費が経済成長を促進させる好循環となっていましたが、これを機に「節約が大切」が共通意識になり、「省エネ」が最重要課題になりました。先の公害問題と併せて「地球環境」が大きな関心事になり、消費行動も一気にこちらにシフトするようになりました。その後もこの流れはずっと続いており、現在では「公害」や「省エネ」を念頭に置いたビジネスが常識になっていますが、当時はいち早くこれに適切に対応できたか否かで、各企業や業界の盛衰が分かれました。

 その他の環境の変化

先の三つの変化ほど劇的ではありませんが、数年あるいは数十年の期間でみると、人々の意識を変えてライフスタイルや消費行動を変化させた環境の変化として、少子高齢化、IT化の進展、国際化の進展、知価社会の到来、経済の成熟化(あるいは停滞)、土地神話の崩壊、雇用慣習の変化などがあります。

そして、このような中で2011年3月に東日本大震災が発生し、原発事故が起こりました。これによる人々の意識は劇的に変化しています。

 東日本大震災による意識の変化

我が国では「和」が尊ばれ、周囲の人たちとの協調が最重視されるとともに、自身を犠牲にしても所属する集団や社会のために尽くすことこそ最も大切という共通の価値観や美意識がありました。それが高じて、昭和の一時期は国のために命を捧げることこそ最も尊く美しいという意識で覆われ、多くの軍人や国民の命が失われましたが、後からみるとその多くは失わなくてもよい命であったことに気がつきました。その反動から、戦後は個人主義が尊ばれ、これに反するような主張は公の場では発言しづらい雰囲気がありました。 

しかし、震災を機に「絆」が重視されるようになり、「日本は一つ」という言葉も違和感なく普及しました。また、社会貢献意欲も高まり、ボランティア活動や募金活動などが促進されました。これらは古くから培われてきた伝統的な価値観や美意識で、戦後は潜在意識として続いていたものが、震災を機に顕在化しました。「安全・安心」への関心も高まり、これにコストを掛けるという意識も強まりました。以前から意識されつつあった「環境問題」に対する意識もさらに強まりました。

「レジャー白書2012(公益財団 日本生産性本部発行)」の国民の意識調査、「震災による考え方の変化」の調査データによると、「あてはまる」「ややあてはまる」を含めた意識の変化で大きな比率を占めるのは、次の項目となっています。

  •   ① 安全・安心を求める気持ちが強まった          67.4%
  •   ② 自分の将来の生活に対する不安が高まった        66.6%
  •   ③ 人の「絆」や「繋がり」を大切に思う気持ちが強まった  64.3%
  •   ④ 他人や社会のために何かしたいと思う気持ちが強まった  53.3%
  •   ⑤ 自然や環境を大切に思う気持ちが強まった          52.6%
  •   ⑥ 日本の閉塞感が強まった                52.5%

 このような意識の変化がその後の消費行動にどのように影響したかを、2011年後半から2012年前半の新聞報道等でみると、「絆」「繋がり」重視の影響では、デイズニーランドの下半期の入園者は過去最高(中高年の集客策実る)、おせち料理の予約や年末年始の家族向けギフトは大幅増、男性限定のカラオケ・ヨガ・料理教室が花盛りなどさまざまな記事が目につき、各地で開催される街コンの盛況や、祖父母と孫の触れあうイベントや場所の提供も盛んであることが報じられています。

「安全・安心」関連では、金具・突っ張り棒などの家具転倒防止用品、省電力機器等の品揃えを充実したホームセンターが一人勝ち、ミネラルウォーター・浄水器の販売増、産地を選べる検査済み表示食品を優先購入、商品表示・配列に工夫し、介助士が買い物手伝いをする等をしてスーパーが高齢者をサポートなど、さまざまな対応により売上を伸ばしている例が報じられています。

社会貢献関連では、被災地支援につながる買い物を重視する人が多く、これらに関連した消費が増えているさまざまな事例が報じられています。また原発事故の影響もあり、地球環境への影響や省エネが、消費行動の重要な基準になってきています。

これらの現象は、大震災を機に大多数の人々の意識が変化したことによるものであり、今後とも続くと考えられます。

 消費者意識の変化によるビジネスチャンスを探る

前述のように、大震災を機に消費者意識が変化したことにより特定の需要が増え、新たなビジネスが生まれていますが、これからのビジネスチャンスを探るにはどのような発想が必要でしょうか。数年あるいは数十年にわたり進んできた環境の変化として、少子高齢化、IT化の進展、国際化の進展、知価社会の到来、雇用慣習の変化などがありますが、これらの変化と大震災を機に変化した消費者意識の変化を組み合わせてニーズを探ることで、新たなビジネスチャンスを見つけられる可能性があります。

わが国では「安全」は当たり前のことと認識されていたため、これに手間やコストをかけるという発想はあまりありませんでした。しかし大震災を機に「安全」は当たり前でないとの認識が強まり、これに手間やコストをかける意識が高まってきました。人々が関心を持つ「安全」の対象は災害、怪我・罹病、防犯、交通事故など多岐にわたるため、さまざまな分野でこのニーズにもとづく需要が発生する可能性があります。そして、「安全・安心」に「高齢化」を組み合わせて推測すると、「災害」では老朽化住宅に住む高齢者向けの耐震性や漏電の検査・改修の需要が考えられますし、「怪我」ではバリアフリー工事の需要が増えることが考えられます。どちらも費用負担が障壁になりますが、行政の助成金等が利用できる時期に実施すれば、ビジネス拡大が図れます。また高齢者の負担低減のための美容・理容の出張サービスの需要はあると考えられますので、定休日を利用して行えば、売上拡大につながります。他に定期的に訪問して花を生けるサービスも一定の需要が見込めます。また、簡単な日用品や劣化しにくい食品(調味料や缶詰等)をセットにして高齢者家庭に配置し、定期的に訪問して補充と清算を行う「富山の置き薬」方式の事業も考えられます。さらに「絆」と「IT化の進展」を加えて考えると、別居している近親者が常に高齢者の安全を確認できシステムや機器の需要も増えると考えられます。原発事故により高まった「安全・安心」と「自然・環境」を組み合わせて考えると、「安全で省エネ」があらゆる製品やサービスの重要要件になりますので、これをより強化することが差別化につながります。このように複数の要素を組み合わせることで新しいニーズやビジネスを見つけられる可能性があります。

長く続いた日本経済の停滞も、「アベノミクス」効果もあり、明るい兆しが見えてきました。また2020年のオリンピック東京開催が決まったことも、このムードを加速させています。先の大震災で高まった「絆」や「繋がり」を重視する意識に、オリンピック開催へ向けた一体感も加わり、この意識はさらに高まると予想されます。今後は「絆」をキーワードとした需要が増え、新たなビジネスも発生すると予想されます。2010年にオリンピックの東京開催が決まったことで、被災地復興も原発事故処理もそれまでに概ね実現させる必要があり、今後はこれらへの取り組みが加速されると予測されます。さらに2027年のリニアモーターカーの開通も決まり、明るい雰囲気も加速されていますが、これも景気回復に効果があると考えられます。

ただし、過去と同じパターンで商品やサービスが売れることはありませんので、大震災を機に変化した消費者意識を適格に把握し、自社の強みが活かせる市場の新たなニーズ、新たな需要を見つけ、対応していくことが大切です。