新しいチャレンジに助成金・補助金を活用しよう
がんばる中小企業応援リレーコラム
~景気回復期を上手に乗り切ろう!~
第2回 新しいチャレンジに助成金・補助金を活用しよう
中小企業診断士 三浦英晶(みうら ひであき)
この景気回復期に入り、私の周りでも、従業員の新たな雇用、従業員のレベルアップのための教育、新たな設備の導入、自社の得意分野を活かした新事業の立ち上げなどが目立つようになりました。こういった取組みを行うには当然のことながら資金が必要になってきます。
社内に十分な資金があるのか…、金融機関等から新たに借入れを行うのか…。必要な資金の調達手段の1つとして、助成金・補助金を活用することを検討してみませんか?
1.補助金・助成金のメリット・デメリット
補助金・助成金と聞くと、「おいしいもの」というイメージを持たれる方が多いと思います。しかし、補助金・助成金にもメリットとデメリットがあります。
メリット
① 返済義務がない
金融機関からお金を借りた場合、もちろんそれは返していかなければなりませんが、補助金・助成金は、基本的には返さなくてもよいお金です。これが多くの方が期待している補助金・助成金の一番のメリットではないでしょうか。
② 事業計画が明確になる
補助金・助成金を申請する際、その申請書には、どのようなことにお金を使うのかということを明確に記載する必要があります。そしてこの申請書を作成する過程では、自分(自社)がこれから何をするのか、だれをターゲットにするのか、それによりいくら売上をあげることができるのか、などを詳細に計画立てていくことになります。また、その前提として、自分(自社)は他社に比べどのようなところが優れているのか、どのようなところが弱いのかを見つめ直す必要もあるでしょう。計画を立ててみたものの、自分が考えていたプランでは事業として成り立たないということが分かるかもしれません。このように、補助金・助成金を申請することで、結果的に自分(自社)の事業計画が明確になり、今後の戦略や目標をより強固なものにすることができるのです。私は、実はこのことが補助金・助成金の一番のメリットといえるのではないかと考えています。
③ 箔(はく)がつく
補助金・助成金が採択された場合、お客様や取引先には「この事業は○○助成金採択事業なんですよ!」とアピールすることができ、その事業に対する信用が高まります。採択された事業ということで、他社との差別化を図ることができるのです。
デメリット
① 時間的な制約が多い
まず、補助金・助成金は公募期間が短いものが多く、経済産業省が管轄する商品開発系の補助金では公募が発表されて1か月前後で締め切られるものがほとんどです。そして、それが採択され実行するとなると、決められた補助期間内に事業を終了させる必要があります。補助金・助成金を活用する場合は、限られた時間の中で行うことを前提に考える必要があります。しかし、裏を返せば、こういった制約があることで、“必要に迫られて”決められた期間内にやるべきことをやる、というメリットにもなり得ます。
② 手続き、作成書類が煩雑
補助金・助成金は、とにかく提出書類がたくさんあります。以下はよくある手続きと提出書類のパターンです。
・応募(事業の概要が分かる計画書)
↓
・交付申請(採択された後に作成する、さらに詳細を追加した計画書)
↓
・完了報告(事業をきちんと計画どおりに実施しました、という報告書)
↓
・交付申請(計画どおりにお金を使った証明書類を提出)
↓
・状況報告(年1回・5年間(例)に渡り事業の状況を報告)
このように、応募から事業終了後に渡り、決められた形式で書類を作成し提出する必要があり、しかも提出した書類に対して「ここを修正してください」という指示も頻繁に行われます。また、経理上の処理も自社の他の事業とは別に管理する必要もあります。実際、採択されその事業をスタートさせたものの、このような煩雑さについて行けず、補助金・助成金を受け取る前に断念する企業もあります。
このような事務管理、お金の管理をきちんと行うことができる従業員が自社にいること、もしくはお願いできる専門家などがついてくれることが望ましいでしょう。
③ 途中での計画変更が難しい
補助金・助成金を活用した事業では、基本的には事業計画の変更は難しいと考えた方が無難でしょう。もし認められるとしても、「変更申請」を提出してそれが適切な変更であることを判断された後の話です。例えば、新商品を開発している途中段階で何か思いもよらない発見をしてしまい、開発しようとしていた商品とは全く別の商品にしたいと思っても、それに対しては支払が行われない、ということになります。
④ もうかった利益を収めなければならない場合がある
国の補助金・助成金は、実施後の事業報告において、その事業で収益が得られたと認められた場合、受け取った補助金の額を上限として収益の一部を返納しなければなりません。これは、“税金が財源となっている補助金が、一企業の利益となってしまうことは好ましくない“、という「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」に基づいて運用されているからです。補助金としてもらったお金を“返す”のではなく、もうかったお金を“収める”という考え方です。
補助金・助成金を検討する前には、その募集要項をよく読み、こういったこともあらかじめ確認しておきましょう。
⑤「後払い」のものがほとんど
補助金・助成金は、「後払い」が一般的です。事業終了後に、「完了報告」と「交付申請」を行って初めてお金が支払われます。ということは、補助金・助成金が支払われるまでのお金は手元に必要なわけです。
しかし、もし手元に十分なお金がなかったとしても、補助金・助成金採択事業としてきちんとした事業計画が立っていれば、金融機関からの借入は比較的容易な場合が多いでしょう。また、補助金・助成金のなかには、経営革新等支援機関(注1)として国から認定されている金融機関が支援者となり、支払が行われるまでの資金を支援してくれる仕組みが整っているものもあります。
注1)詳細はhttp://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kakushin/nintei/index.htmを参照
2.補助金・助成金の例
では、本年度に募集された(現在募集中含む)補助金・助成金にはどのようなものがあるのか、いくつか見てみましょう。
(1)「地域需要創造型等起業・創業促進事業」(創業補助金)
この補助金は、これからビジネスをスタートさせる方にお勧めの補助金ですが、要項を見ると、既にある企業が分社化して新たな事業をスタートさせる場合など、創業時以外でも工夫して活用できそうです。趣旨は「新たに起業・創業や第二創業を行う女性や若者に対して、その創業等に要する経費の一部を補助する事業で新たな需要や雇用の創出を図り、我が国経済を活性化させることを目的とします。」となっています。この補助金は平成25年12月24日まで募集されています。
①補助対象者:起業・創業や第二創業を行う個人、中小企業・小規模事業者の皆様向けに国が認定する専門家などの助言機関(経営革新等支援機関)と一緒に取り組んでいただきます。
・地域の需要や雇用を支える事業を興す起業・創業[地域需要創造型起業・創業]を行う者
・既に事業を営んでいる中小企業・小規模事業者において後継者が先代から事業を引き継いだ場合などに業態転換や新事業・新分野に進出する[第二創業]を行う者
・海外市場の獲得を念頭とした事業を興す起業・創業[海外需要獲得型起業・創業]を行う者
②補助内容:弁護士、弁理士などの専門家との顧問契約のための費用や広告費等、創業及び販路開拓に必要な経費に対して、100万円~700万円の補助が行われます(事業のタイプにより補助上限額は異なる)。
③公募期間:平成25年9月19日~平成25年12月24日
④連絡先:創業補助金 東京都事務局 TEL:03-3524-4668
*詳細はhttp://www.sogyo-tokyo.jp/を参照
(2)「小規模事業者活性化補助金」
この補助金は、新たな商品やサービスを開発する際に活用できるものです。趣旨は「女性や若者をはじめとした意欲ある経営者等が行う小規模事業者の新たな事業活動を支援します。多様なニーズに着目した小規模事業者が、女性や若手の経営者・従業員の感性やアイデア等を生かした事業に取り組んでおり、これら小規模事業者の取組を促進することが重要となります。本補助事業は、多様なニーズに着目した小規模事業者が行う早期に市場取引を達成することが見込まれる新商品・新サービスの開発等に要する経費の一部を補助することにより、小規模事業者の活力を引き出すことを目的とします。」となっています。この補助金は既に募集が終了していますが、使いやすく評判が良かったことから、来年度も同じような内容の補助金が募集される可能性があるかもしれません。
①補助対象者・対象事業:本事業の補助対象者は、日本国内に所在する小規模事業者であることとします。認定支援機関である金融機関等と協力して行う取り組みであることとします。下記のいずれかに該当する新事業活動であることとします。
・特定のニーズに対応した新商品の開発及び新サービスの提供等を行うもの
・地域のニーズに対応した新商品の開発及び新サービスの提供等を行うもの
②補助内容:新商品の開発、新サービスの提供に必要な経費に対して、100万円~200万円の補助が行われます
③公募期間:平成25年6月28日~平成25年8月16日
*詳細はhttp://www.shokibo-kassei.jp/を参照
(3)「キャリア形成促進助成金」
この助成金は、事業自体ではなく従業員のレベルアップのためのものです。趣旨は「雇用する労働者のキャリア形成を効果的に促進するため、職業訓練等の実施等を行う事業主に対して訓練経費や訓練中の賃金を助成します。」となっています。
事業内職業能力開発計画及びこれに基づく年間職業能力開発計画を作成するとともに、職業能力開発推進者を選任することが必要になります。助成金を活用できる事業主や支給対象職業訓練については、さまざまな要件がありますので、興味のある方は以下のホームページで詳細を確認してみてください。
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/josei/kyufukin/d01-1.html
・連絡先:東京労働局03-3512-1600
3.活用する際にこころえたいこと
補助金・助成金を活用する際に気を付けたいのは、「補助金・助成金ありき」でなく「事業ありき」であることを忘れずに、ということでしょう。当たり前のことなのですが、ついつい補助金・助成金を活用する際はそれに振り回されてしまいがちです。それでは本末転倒です。
“自分(自社)のやりたいことは何なのか”、その軸をしっかり持ったうえで、それにフィットする補助金・助成金があれば是非上手に活用してください。