クラウドがもたらす飛躍のチャンス
がんばる中小企業応援リレーコラム
~景気回復期を上手に乗り切ろう! ~
第3回 クラウドがもたらす飛躍のチャンス
中小企業診断士 漢那宗丈(かんな むねたけ)
景気回復期に入りましたが、業績回復を実感している企業、まだこれからという企業と、状況はまちまちのようです。しかし、高級品の売上増加やスマートフォンの急激な普及など、消費動向が上向いているのは間違いなさそうです。多くの企業では先々の明るさを感じ、精神的な余裕も出てきたのではないでしょうか。このような時期だからこそ、世の中の先端の動きに触れ、将来に向けて何をすべきかを考えてみませんか。
今回は、2006年頃から聞かれるようになったクラウドの話です。モバイルの急激な普及で、多くの人が知らず知らずに、ITに触れるようになってきました。元々、ITは比較的大きな企業の業務のために発展してきたものです。ここにきてモバイルを支えるIT技術が、小規模な企業にもITの恩恵が行き渡るチャンスをもたらしました。それを実現するのがクラウドです。クラウドによる企業の発展を考えてみましょう。
1.クラウドって何?
クラウドとは、英語で「雲」のことです。色々なところで聞くようになりました。しかし、多くの場合、実態を知らずに使われています。クラウドって何でしょう。
(1)モバイルを支えるクラウド
10年ぐらい前に、ユビキタスという言葉がもてはやされました。ユビキタスとは、何時でも何処からでもコンピューターとつながって、色々な情報を得て活用することです。当時は、夢物語だと思っていました。それを、スマートフォンやタブレットPCなどのモバイルが、現実のものにしたのです。
スマートフォンの画面には、アプリと称する小さな箱(アイコン)があり、それをクリックすれば、地図や時刻表などの色々な情報を検索したり、ゲームを楽しんだり、ツィッターなどで多くの人とつながったりできる機能が使えます。それらの機能は、どこから提供されているのでしょうか。
これらは、サーバーというコンピューターの上で動くソフトウェアが提供しています。そして、そのサーバーはクラウドの中にあります。クラウドには大量のサーバーがあり、光ファイバーケーブルや無線通信を介して、インターネットでパソコンやモバイルとつながっているのです。実際には、この大量のサーバーは、世界中に点在するデーターセンターといわれる施設にあります。即ち、データーセンターとパソコンやモバイルをつなぐインターネット、それらを併せたのがクラウドの正体です。目の前にはない存在なので、雲の中即ちクラウドなのです。
(2)クラウドがIT構築の基盤の中心になる
レンズ設計などの計算用に開発されたコンピューターは、やがて数値だけでなく言葉の処理も行えるように進化し、企業の業務処理を担うようになりました。そして、インターネットの普及によって情報通信も担うようになり、そのころからインフォメーション・テクノロジー即ちITと呼ばれるようになりました。今や、多くの企業の活動に欠かせないものであり、世界を支えているといっても過言ではありません。
従来のITシステムは、サーバーやパソコンなどの構成機器を企業が所有し、生産管理や経理などの業務システムを、企業内に構築していました。今後はクラウドに移り、クラウドが中心になって行きます。
クラウドでは、スケールメリットや最新技術の導入などで、非常に低コストでの運用が実現されています。そして、サーバーなどのコンピューター・リソースが、低価格でレンタルでき、そこにITシステムを簡単に構築できるのです。サーバーなどのメンテナンスからも解放され、所有から利用への変化により、固定費の削減も実現できます。
今やグローバル時代です。世界中に展開した拠点や連携企業とも、簡単につながることができるクラウドは、正に今後のITの中心なのです。
2.今後の企業の発展はクラウド活用がポイント
ITは企業活動に欠かせないものです。一方で、小規模な企業にとって、IT導入は荷が重いものでした。それをクラウドが変えます。
(1)企業発展の重要なキーワードはIT
パソコンの導入は、文書の作成や表計算などで、業務効率の向上をもたらしました。経理や在庫管理などの全社で利用するITシステムを導入すると、更なる業務効率向上が実現できます。しかし、ITの効果はそれだけではありません。
苦境に陥った企業を見ると、事業のオペレーションに多くの問題があり、色々な無駄が生じ、収益の悪化を招いているケースが多く見られます。改善のためには、状況の定量的な把握が重要です。改善施策を実行しても、数値の把握がなければ充分なフィードバックができず、成功に導くことはできません。そのために必要なものがITです。経理を始め在庫管理や労務管理など必要なITシステムの導入により、効率的な数値管理が可能になります。これで業務の流れやボトルネックが明確になり、改革の成功につながります。
また、攻めの事業展開に於いてもITは重要です。営業の進捗状況を把握して先手を打つ戦略的な営業や、自社内や顧客・他社・市場の状況をタイムリーに定量的に把握して、機動的に対応する経営などは、ITを利用しなければ不可能です。
最近では、他社とのコラボレーションも重要です。情報のスムーズな共有が必須であり、それを助けるのもITなのです。
しかし、効果は分かっていても、IT導入は簡単ではありません。特に、小規模な企業にとって、ITの導入のコストや手間は、軽いものではありませんでした。
(2) クラウドが提供する無償もしくは安価で役立つアプリ
クラウドでは、無償もしくは安価で、色々なアプリが利用できます。アプリを提供する企業にとっても、コンピューター・リソースが安価に使えるため、広告収入で収益を上げるビジネスモデルが成り立つのです。多くの企業が参入し、百花繚乱の状態です。
アプリのほとんどは、飲食店の検索など個人向けのものです。しかし、企業活動を支えるアプリも数多く提供されています。例えば、業務のデータをクラウドに保管することで、出張先からも利用でき、ビジネスパートナーとデータ共有ができるアプリがあります。また、多店舗展開する企業が、写真を保管するアプリを使えば、モバイルで撮った写真を使い、各店舗で優れたディスプレイの情報を共有することもできます。
ユーザあたり月額数百円の利用料を払えば、もっと本格的な企業向けアプリが使えます。メールを始め色々な文書のデータを保管し素早く検索したり、スケジュールを共有したり、パソコンを使った会議システムなどの社内コミュニケーションのシステムが使えます。従来なら多額の導入コストが必要だったグループウェアが、簡単に利用できるのです。
(3) クラウド業務システムのSaaSとは
事業全体の効率化や、攻めの事業展開で更なる飛躍を目指すなら、本格的な業務システムの導入が必要です。クラウドなら、従来の数分の一のコストで、導入が可能なのです。クラウド上には、営業支援や在庫管理などの業務システムがあり、月毎の使用料を払えば使うことができます。そのシステムをSaaSといいます。
大きな利点は、使用料が安いことです。インターネットにつながったパソコンがあれば、多店舗展開している場合も、簡単に導入できます。サーバーなどの設備が不要なため、メンテナンス要員も不要で、設備投資やメンテナンスコストが安く、固定費の変動費化で、軽量経営が実現するのです。
SaaSなら、小規模な企業でも数百万円掛かっていたIT導入のコストが、1/2を大きく下周ります。セキュリティ管理やメンテナンスも、SaaSを提供する企業が行うので、自社のパソコンの管理だけでいいのです。小規模な企業でも導入できるシステムです。
3.クラウドを使ってみましょう
クラウドは簡単に使い始めることができ、すぐに効果を発揮します。更に、グループウェアやSaaSの導入に進めば、企業の大きな飛躍が可能になります。
(1) 無料のクラウドアプリから使い始めましょう
無料で使えるアプリがたくさんあります。まずは、個人でビジネスに活用してみましょう。Googleのスケジュール管理や、データをクラウドに保管できるDropbox、メモ帳として使えるEvernoteなどは、移動中も出張先でも使えて業務効率が向上します。
次に、会社全体で色々な情報やスケジュールなどを共有し活用できるグループウェアの導入で、更なる業務効率向上を実現しましょう。20名の会社なら、月々1万円程度で利用できます。cybozuやGoogleなどが、簡単に使える製品を提供しています。
(2) クラウド業務システムSaaSの導入で更なる飛躍を
業務改革による企業の体質改善の実現や、攻めの事業運営で更なる飛躍を目指すなら、業務システムの導入が必要です。経理システムや営業支援システムなどの汎用的な製品から、アパレルに特化した在庫管理システムなど、色々なSaaS製品があります。利用料金もユーザあたり千円程度から1万円程度まで色々です。
ただし、導入はグループウェアのように簡単ではありません。業務を見直し、導入するシステムに合わせて最適化する必要があるからです。クラウドの利用で大幅に下がるITコストの一部で、専門家の利用も考えたら如何でしょう。
クラウドの用で、これまでに比べてはるかに低コストで、簡単にITが利用できるようになりました。しかし、ITは所詮道具でしかありません。ITを活用して、戦略を立て常に改革を行う経営を実現することが、企業を更なる飛躍に導くのです。