求人採用市場の変化を見極め、外国人労働者を積極的に活用しよう
がんばる中小企業応援リレーコラム
~景気回復期を上手に乗り切ろう! ~
第5回 求人採用市場の変化を見極め、外国人労働者を積極的に活用しよう
中小企業診断士 大坂 隆洋(おおさか たかひろ)
求人採用市場の売り手市場への変化に対応しよう
昨年1年間で株価は大きく上昇し、景気の回復をけん引してきました。2014年に入り、企業の業績回復だけでなく、賃金水準の上昇に向けた話題も出始めています。賃金の上昇、特にベースアップは継続的な固定費の増加につながるため、4月に消費税増税を控えるなどまだまだ景気の先行きが不透明な中では各社慎重な姿勢となっていますが、それでも人材確保や従業員のモチベーション向上の為に賃上げへ踏み切ろうという企業も数多く出てきています。こうした賃金増へ向けた各社の考え方の違いは非常に興味深いところでもありますが、株価が上昇する一方で雇用関係の指標はどうなっていたでしょうか。雇用関係で主要な指標は2つあります。ひとつは完全失業率で、もうひとつは有効求人倍率です。株価(東証株価指数)は景気に先行して動く先行系列指数といわれていますが、有効求人倍率は景気動向と一緒に動く一致系列、完全失業率は実際の景気変動よりも遅れて動く遅行系列に分類される指数です。
まず有効求人倍率ですが、これはハローワークで職探しをする人1人に対してどれだけの求人があるかというものを指数にしたものです。昨年12月の時点で、この有効求人倍率は1.00倍となり、6年1ヶ月ぶりに1倍台に回復しています。従って求職者と求人がほぼイコールとなる水準にまで到達したことを意味します。有効求人倍率は正社員に限るとまだ0.63倍にとどまっているのですが、リーマンショック直後は0.2倍だったことを考えると、これも大きく回復していると考えていいでしょう。
次に、完全失業率です。完全失業率は昨年11月の時点で4.0%となっています。2010年の年間平均が5.1%と、元の数字が小さいため一見して大きな回復には見えませんが、着実に改善してきています。また、遅行系列であることから、今後景気回復が継続していけば、断続的にこの指数も改善していくことでしょう。
こうした指標の状況から、雇用関連の求人採用市場は、いわゆる売り手市場の状況へと突入しつつあるのではないかと考えられます。求人採用市場では、求人が求職者より多く、求職者が会社を選べる状態を売り手市場、反対に求人が求職者より少なく、会社側が選ぶことができる状況を、買い手市場と呼んでいます。この数年は求人が求職者より多い状況で買い手市場でしたが、ここにきて逆転しつつあるようです。今後企業の業績が伸び、各社が人員の増員を行っていくと、求人は継続的に増えてくるため、より一層求職者が有利な売り手市場の状況になってくると考えられます。こうした売り手市場の状況では、求職者側が有利に会社を選ぶことができるため、より条件の良い企業へと人は流れていくことになります。以前はこの条件で優秀な技術者が採用できたのに、まったく同じ条件で募集を出してみたら未経験者しか採用できなかった、などということが起きてくるわけです。この状況は好景気が進むほど売り手有利、買い手不利が強まっていきます。そのために、必要な人材を確保するには、事業の見通しを計画としてしっかりと立てて、それに合わせた人材の採用の施策を早めに打っていかなければなりません。
採用における他社との差別化で最も目に付きやすいのは、賃金水準ということになりますが、新規採用者だけの賃金を上げるわけにはいかず、既存従業員と併せて一律に賃金を上げてしまうと、固定費の増加は膨大なものとなってしまいます。この固定費の増加を吸収できるだけの業績の伸びが見込めるのであれば賃金を上げた採用も可能ですが、現実はなかなかうまくいきません。したがって賃金以外の部分で外から見た場合の会社の魅力を上げていくということがポイントになってきます。具体的にどういったことを行なっていけばよいでしょうか。
(1)待遇や職場環境の改善に力を入れよう
昨年、「ブラック企業」というキーワードが話題となり、年末の流行語大賞にもノミネートされるほど世間的に認知されてきました。もともと「ブラック企業」とはパワハラやセクハラを放置したり、法令に抵触する営業行為を強要したりするなど、反社会的な実体がある企業のことを指していました。こうした企業では、組織の利益を優先し、従業員の人格や人権を考慮しない、新卒などの若年層を大量に採用するが、適切な教育は行なわずに使い捨てるため、平均勤続年数が短く離職率が高いといった傾向があります。この傾向がインターネット等で話題になるうちに、厳しい労働環境の会社すべてを指す言葉となって広まってきてしまっています。
この先「ブラック企業」という言葉がどう進化をしていくかは分かりませんが、企業における労働環境そのものが注目されてきつつあることは間違いありません。有給休暇など、従業員のための制度が整っているというだけでなく、それが利用されているかどうか、利用できる雰囲気を経営者が作る努力をしているかどうか、という点が今後は労働者から見ても重要視されてくるのではないでしょうか。
(2)企業の雰囲気・風土・理念などを伝える努力をしよう
簡単に言えば、ホームページ等で企業の内部についてもっとアピールをするべきということです。これは中小企業では意外とおろそかにされている感があります。就職活動をする際に求職者は必ずその企業のホームページは見るものです。通常は事業活動のみに照準を合わせて、どれだけ売上げを伸ばすことができるかという点を重視してホームページは作られますが、さまざまな用途でホームページは見られているという意識は持っておくべきです。当然ホームページに掲載された企業の概要や沿革だけでなく、社長のメッセージなども求職者が応募をする際の判断基準になりえます。こうした状況を考慮に入れ、社内の雰囲気や風土、仕事の内容だけでなく、働きやすさなども積極的にアピールする場と捉えてホームページを作っていきましょう。
このほかにも最近中小企業でも利用が増えてきたインターンシップ制度を活用するなど、様々な手段を利用していくことも、売り手市場を乗り切るための方策として検討していきましょう。
外国人を積極的に活用しよう
採用市場での競争が今後も厳しさを増していく要因としては、景気の好転だけでなく人口の減少によるものも考えていかなければなりません。長期的なスパンで考えたときに、将来も現状と同じ経済規模を維持しようとするならば、同程度の労働力が必要になるはずです。しかしながら、日本では人口が減少し始めており、それは労働力人口の減少を意味します。少なくなっていく人材を多くの企業で奪い合っていかなければならなくなるわけです。そこで、いままで積極的に活用していなかった人材にスポットを当てて活用しようという試みが活発になってきます。一度定年で退職した人を高い技術や豊富な経験が活かせる職種で再度雇用したり、出産で退職した主婦をそれなりのスキルが必要な場面で雇ったりすること等がその一例です。まだまだ、優秀な人材が世の中には埋もれているといえるでしょう。こうした観点から、外国人の積極採用も注目されています。政府でも高度な能力や資質を有する外国人の受け入れを促進することで、日本の競争力を高めようと考えており、外国人労働者の待遇改善に力を入れ始めています。中小企業でも外国人を採用し、その能力を引き出してあげることで、会社にとって大きな戦力となるはずです。
①外国人を採用するメリット
(1)国際化に貢献できる。
(2)海外の取引先とのパイプとなる。
(3)海外進出時のサポートとなる。
(4)日本人にはない発想を期待できる。
(5)日本人従業員が刺激を受けて社内の活性化が期待できる。
②外国人を採用するデメリット
(1)文化の違いなど通常より気を使わなければならない。
(2)言葉の壁があり、コミュニケーションを取ることが難しい場合がある。
(3)雇用に際し、必要な手続きが増える。
デメリットは会社側できめ細かく対応することで乗り越えることが可能であり、メリットを考えると、外国人を積極的に採用することは会社にとって様々な部分で大きな利益が見込めます。
③外国人を雇用する上での留意点
(1)就労できるかどうかの確認
外国人を雇用する場合は、まず在留資格があるかどうかの確認を行ないます。パスポート、在留カード、外国人登録証明書のいずれかを必ず確認し、合法的に日本国内に在留できているかどうかの確認をすると同時に、現在の在留資格で雇用が可能かどうかチェックしなければなりません。仮に現在の在留資格が留学等で、日本国内での就労ができない場合でも、入国管理局へ在留資格の変更申請を行なうことで、許可が下りれば雇用することができるようになります。この場合、揃えなければならない書類が多かったり、日本語で申請しなければならないなど、外国人が行うにはハードルがやや高いものになっているため、可能な限り会社側が主導して申請を行なうほうがよいでしょう。
(2)雇用契約の締結
日本人従業員と同様に雇用契約を結ぶ必要があります。特に待遇や業務の内容などの認識に相違が出てくるケースも多いので、あらかじめ細部までしっかりと取り決めておくことがトラブルを回避するためには必要です。できれば、双方が分かる言葉で作成するのがベストですが、厚生労働省がホームページ内に英文と日本語で表記された雇用契約書のサンプルを提示していますので、それを利用するのもよいでしょう。
(3)給与支払い等の説明。
雇用契約の締結と同様に、給与の支払いについても正確に説明しておく必要があります。日本人の給与支払いと同様に当然源泉徴収も必要ですし、社会保険料の控除も発生します。こうした点については制度の内容から説明してあげる必要があります。また、お互いが納得できるように文書を残しておくこともおすすめします。
(4)外国人雇用の届出
外国人を雇い入れた場合、その方の氏名や在留資格などをハローワークに届け出ることが義務付けられています。この規定には罰則も設けられていますので、必ず届出を行ってください。外国人が離職をする場合も同様に届出が必要になります。
正式に外国人を雇用し、社内に受け入れた後は、その外国人の自国文化や習慣の違いを尊重し、配慮していくことが重要です。例えば、休暇ひとつをとっても取得の仕方や考え方はそれぞれ国によって異なってきます。すべて外国の文化や習慣を受け入れなければならないということではありませんが、その従業員の仕事に対するモチベーションを向上させるために、どういった社内の風土を作っていくべきかを考えるとよいでしょう。また、大前提となる原則ですが、日本人を雇うよりも賃金が安いことを理由に外国人を雇用することは禁止されています。同じ業務内容に対して国籍により賃金格差をつけるのは違法です。外国人は会社の発展のために必要な人材である、という意識をもって積極的な活用を行っていきましょう。