クラウド型会計システムを活用して企業の経理処理を省力化・自動化する
がんばる中小企業応援リレーコラム
~ 企業の社会価値を高める ~
第2回 クラウド型会計システムを活用して企業の経理処理を省力化・自動化する
中小企業診断士 三浦英晶(みうら ひであき)
会計処理を自社で行っている企業、会計事務所にお任せしている企業、基本的な処理のみ自社で行っている企業など、皆様はさまざまな方法で日頃の会計処理~税務署等への申告を行われていることと思います。昨今、「クラウド型会計システム」がこれまでに増して加速的に進化してきています。これを活用することで、処理の省力化・自動化、見積書・請求書発行機能との連動、給与計算機能との連動などが、スピーディーに、しかも安価に行えるようになってきています。
今回は、このようなクラウド型会計システムの機能やメリット・デメリットを紹介します。
1. 「クラウド型会計システム」とは
「クラウド型会計システム」は、パソコンなどにインストールして使用するのではなく、Webブラウザ(インターネットエクスプローラ、グーグルクロームなど)で所定のページにアクセスし、IDとパスワードでログインすることで使用する会計システムです。現在話題になっており、シェアを伸ばしている代表的なものには、以下のようなシステムがあります。
・Freee(フリー) http://www.freee.co.jp/
・MFクラウド会計(マネーフォワード) https://biz.moneyforward.com/
その他にもさまざまなタイプのクラウド型会計システムが存在しますが、今回はこの2つの会計システムに近い内容を例にとり、このような会計システムが今なぜ人気で話題になっているのか、メリットとデメリットを交えてお伝えしていきます。
2. メリット
(1) 使用料が安価である
まず、人気があるクラウド型会計システムの特徴は、比較的安価に使用でき、しかも機能が多彩である点です。使用料は、個人事業の場合は月額1,000円程度、法人の場合は月額2,000円程度で、年間契約の場合は2割程度の割引があります。この金額感で、仕訳処理から決算書の作成という基本的な機能以外にも、下記のような機能が標準装備(オプションも場合もあり)されているものがあります。
・請求書の作成
・固定資産台帳の作成
・支払調書の作成
・確定申告書の作成(個人事業、法人、消費税)
しかもこれらの機能は相互に連動しており、例えば、請求書を作成すると、その情報を元に仕訳し、その請求に対して請求先から入金があった場合には自動でマッチング(売掛金の消込み)するといった一連の経理処理が省力化できるといったメリットがあります。
(2) さまざまなデバイスで使用できる
パソコンにインストールして使用する会計システムは、Windowsマシンでしか使用できないものがほとんどですが、クラウド型会計システムはApple社のMacでも使用でき、クリエイティブ系の業種でシェアの高いMacユーザーにも人気があります。また、タブレット端末、スマートフォンでも使用できるため、経理担当者がおらず外出の多い従業員が経理処理を行っているような小規模企業でも、場所や時間を問わず空き時間に作業ができます。
(3) 複数の拠点で使用できる
クラウド型会計システムの場合、システムとデータはクラウド上にあり、そこにアクセスして使用するため、複数の事業所を持つ企業の場合も各事業所で作業し、リアルタイムにデータを共有することができます。また、会計事務所とデータを共有する場合も同様で、こういった会計データの共有をこれまでより安価に簡単に行うことができます。
(4) 常に最新版へ自動更新されている
クラウド上にあるシステムは常に最新版に更新されていますので、法改正(消費税率の変更など)や機能の追加に伴うシステムのバージョンアップの際、CDが送られてきて、各パソコンにインストールする、といった手間はありません。また、人気のあるクラウドシステムは機能追加のペースが速く、あったらいいと思っていた機能がどんどん追加され、急速に便利になっている印象があります。
(5) 仕訳処理が省力化・自動化できる
クラウド型会計システムのなかで一番注目されているのが「自動仕訳」機能ですが、厳密に言うと、これは「自動で仕訳処理をしてくれる」のではなく「仕訳処理の提案をしてくれる」機能です。この機能を使うためには、まず、対応している金融機関の口座、クレジットカード、電子マネーなどをID・パスワードなどを登録することで会計システムと連動させます。現状でも、主要な金融機関やクレジットカード会社、電子マネーはほぼ対応しており、金融機関などに手続きを行う手間はなく、会計システム上で登録するだけで連動し、そうすることで会計システムが自動で取引データを吸い上げてくれます。吸い上げられた取引データに対して、仕訳処理の提案をしてくれますので、それが正しければOK、正しくなければ修正を行います。
例えば、A通販サイトで会社名義のクレジットカードを使用して3,000円のプリンターのインクを購入し決済された場合、そのデータを会計ソフトが自動的に吸い上げてくれ、「消耗品費 3,000円」というような仕訳の提案をしてくれます。その提案が正しければOKボタンを押して承認します。しかし「新聞図書費 3,000円」というこちらが意図しない提案をした場合は「消耗品費」に修正します。こういった作業を繰り返すことで、会計システムが持つ仕訳ルールの学習機能により提案の精度は上がっていき、次にA通販サイトで決済した同じようなデータを吸い上げた場合は「消耗品費」で提案してくれるようになります。
(6) 簿記の知識がなくても仕訳処理を行うことができる
「自動仕訳」機能も同様ですが、紙の領収書などを手動で仕訳入力する際も、複式簿記の知識がない方でも入力画面に沿って入力していけば仕訳ができてしまう仕組みになっています。このことも、経理担当者がいない小規模企業にクラウド型会計ソフトが人気の理由です。
(7) 他社のシステムとの連携がしやすい
近年は、会計システムに限らず、レジシステム、クレジットカード決済システムなど、さまざまなシステムがクラウド化され、安価もしくは無料で使用できる状況です。このようなシステムとも連携し、売上データ、決済データなどを会計システムに取り込むことで、わざわざ仕訳処理を手作業で行う手間を省くことが可能となります。
3. デメリット
(1) セキュリティの信頼性の解釈
前述のように、クラウド型会計システムの場合、データはクラウド上(データセンター等のサーバ)にあります。自社の事務所のパソコンやサーバにデータがある場合と、クラウド上にデータがある場合と、どちらがセキュリティの信頼性が高いのかは意見が分かれるところです。「大事なデータは自社で持っていないと安心できない。」という方もいらっしゃいます。実際、クラウド型会計システムを運用しているデータセンター等では、銀行並みの高度なセキュリティを構築していると謳われています。その点では、小規模・中小企業の事務所でそのような高度なセキュリティを構築するのは難しく、泥棒にパソコン等を盗まれるといったリスクは低くなるでしょう。
しかし、クラウドシステムのサーバがダウンするケースや、サイバー攻撃を受けるケースも考えられ、自社の大事なデータにアクセス出来なくなるリスクもあります。こういったリスクに備えるには、自社で定期的にバックアップデータを保存しておくなどの対策が考えられます。ほとんどのクラウドシステムではバックアップデータを作成することができるようになっています。
また前述のように、クラウドシステムでは、IDとパスワードさえあればさまざまなデバイスでどこでもアクセスすることが出来てしまいます。そのため、今まで以上にIDとパスワードの管理を厳密に行う必要があります。
(2) 仕訳処理が適切かどうかの確認が必要
複式簿記の知識がなくても仕訳処理を行うことができる、自動仕訳ができる、というメリットは、逆に考えると、その仕訳が本当に適切かどうかの信憑性は低くなることになります。自信がないという方は、最終的には税理士などに監査をしてもらうことをお勧めいたします。
(3) 簿記の知識がある方は逆に使いづらい
複式簿記の知識がない方でも、入力画面に沿って入力していけば仕訳ができてしまう仕組みになっているという点も、逆に知識がある方が手入力をする場合は操作性がよくなく、使いづらいという方もいらっしゃるでしょう。クラウド型会計システムの中には、通常の複式簿記で入力するモードに切り替えられるもの、切り替えられないものがありますので、導入前に確認が必要でしょう。
4. 最後に
このように、クラウド型会計システムにはメリット・デメリットがありますが、最大限に有効活用するには、次のことをお勧めいたします。
・少額の決算でも現金での支払いは極力避け、カード・口座振込・電子マネー等で行い、
自動仕訳機能を最大活用することで手入力の手間を最小限に抑える。
・経理に結びつく業務にもクラウド型会計システムと連動できるシステムを活用するこ
とで手入力の手間を最小限に抑える。
興味を持っていただけましたら、是非クラウド型会計システムの詳細をチェックしてみてください。