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人を育て、人を活かして競争力を高めよう!

がんばる中小企業応援リレーコラム 
~ 企業の社会価値を高める ~

人を育て、人を活かして競争力を高めよう!
中小企業診断士 中津留 準(なかつる ひとし)

1.決算書では分からないこと

   企業は経済活動を記録・分類・集計して決算書をつくります。決算書は企業の経営状況を知るための重要な情報であり、決算書を見れば企業の経営状況が分かると言われています。しかし、実際にはどうでしょうか。半分は当っていますし、半分は当っていません。「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」を経営資源と言い、これをどれだけ持っているかがその企業の力となります。適正に作成された決算書であれば、「モノ」「カネ」は決算書を見ることでほぼ正確にその価値が分かりますが、「情報」の価値は決算書ではほとんど分かりません。「情報」はさまざまなものを含んでおり、顧客情報・市場の情報・仕入先の情報・生産管理情報など、文字通りの「情報」も含みますが、特許権・商標権などの知財、ノウハウ、技術力、ブランド力、人的ネットワーク、企業文化など、ソフトな経営資源のすべてがこれに含まれます。そして、企業の競争力は「情報」の価値が高いか否かで大きく左右されますのでとても重要です。しかし、それ以上に重要なのは「ヒト」ですが、決算書では「人件費」が分かるだけで「ヒト」の価値は分かりません。「ヒト」を育て、「ヒト」を活かすことこそ企業の競争力を高め、業績を上げる最大の要素です。

2.企業は人なり

 「企業は人なり」は経営の神様と言われた松下幸之助氏の言葉と言われています。なぜ「企業は人なり」なのでしょうか。「モノ・カネ・情報」を扱うのは「ヒト」だからです。「モノ・カネ・情報」は「ヒト」がどのように使うかによって、価値が高まったり、低くなったりします。それ故に「ヒト(人)」が最も大切です。しかし、人には「心」があり、それを支える生身の「体」があります。一般的に「心」は「知性、感情、意志」の三つの要素からできていると言われています。知性は「物事を知り、考え、判断する能力」を指しますが、教育や情報提供、本人の努力により高めることが可能です。感情はそのときの状況や対象に対する心の動きで、快・不快、好き・嫌い、興味、気分、喜怒哀楽、恐怖などを指し、そのときどきにより変化します。そして、意志はあることを行いたい、あるいは行いたくないという考えですが、意志の強い人も弱い人もいます。人はこの三つの要素を組み合わせた心と、それを支える体を持ちますが、これにより発揮できる力は一定ではなく、人により、状況により異なります。そこで、いい人材を育てるとともに、働きやすい環境をつくり、各員に持てる力を十分に発揮してもらうことが重要で、これが企業の競争力を高め、業績を上げ、さらなる発展につながります。

3.経営理念やビジョンを明確にする

   企業は何らかの共通目的を持った人たちの集団のはずですが、必ずしもそうでないケースも多々見受けられます。しかし、それぞれが異なる目的を持って行動したのでは、競争に勝てる組織にはなりません。忠臣蔵の大石内蔵助は、考え方も目的もそれぞれに異なる人たちを集め、ただ一点「吉良上野介の首を取る」という行為を目的に置き換えて全員をまとめ、困難な状況の中で見事に仇討ちを果したとして賞賛されています。彼のリーダーシップは素晴らしく、同様の状況の中では見習うべき点が多いと思います。しかし、忠臣蔵は仇討ちを果せば終わりですが、企業は永遠に続かなければならず、このような手法は使えません。考え方も目的も異なる人たちの集団がともに活動をして効果を上げるためには永遠に続く共通目的が必要となります。また、ほとんどの人たちは、自身の行動が社会に役立つことを望んでいます。そこで、企業の活動を通じて社会にどのように貢献し、かつ従業員にどのような利益をもたらすかを明確にした共通目的を掲げ、企業の行動指針にするとともに全員に徹底することが大切で、これを「経営理念」と言います。また、このような活動を続けた結果、将来はどのようになるのかの具体的な目標を示すものを「ビジョン」と言いますが、経営理念とビジョンが明確で、全員に徹底している企業は人の力が最大限に発揮され、競争力が強く、よい業績を上げています。

4.人を育てる

  知性や意志の力は向上する可能性があり、感情も自身の力でコントロールすることが可能です。これを行うのは本人自身ですが、より効果が上がるように周囲からサポートをするのが教育です。経営理念やビジョンはインセンティブになりますが、自身の力だけで向上する方法が見つけにくいことも多く、上司や先輩がサポートをして育てていくことが大切です。
教育手法は大きく分けて二通りあります。一つは仕事を通じて教育を行なう「0JT(On the Job Training)」と呼ばれる手法であり、もう一つは研修やセミナーなど、仕事を離れて行なう「Off-JT(Off the Job Training)」と呼ばれる手法です。OJTは費用がかからず、適切に実施すれば効果が上がり、自社の理念や方針を浸透させることもできますので、先ずOJTを重点的に行うのがよいでしょう。これを実施するにあたっては次のような点に留意することが大切です。

・新人や比較的若い社員の教育はOJTが効果的ですが、これを行なう場合は、その段階を卒業した程度の数年先輩の社員につけて、その社員に全責任を持たせると効果が上がります。その先輩が介在することによりコミュニケーションが深まりますし、先輩社員のマネージャー教育にもなります。この場合、先輩社員には多少厳しく接してもついてきます。

・部下の能力より少し上の仕事をさせて、首尾よくできた場合はこれを褒めることで部下は自信を持ちます。これを繰り返すことで部下の能力は少しずつ向上し、期待通りの成長をします。逆に失敗をした場合は、これを責めてはいけません。もともと能力以上の仕事をさせるのですから失敗するのは当たり前と受け止め、失敗をして落ち込んでいる部下を勇気付けることにより、部下は再度チャレンジする意欲を持つようになります。

・意欲的な部下や多少生意気なところのある部下の場合、強く、厳しく指導した方が成長します。一方、そうでない社員の場合はあまり厳しく接すると落ち込んでしまい、戦力ダウンになりますので、その兼ね合いを図りながら接することが大切です。何れの場合も部下を信頼しているというシグナルを送りながらでないと期待通りの成果は出ません。

・指示した仕事、やるべき仕事を予定通りできなかった場合、「何故できなかったのか?」と聞く上司が少なくありません。しかし多くの場合、できなかった理由はいくらでもありますので、上司は理由を聞いた後に叱って終わりとなり、部下は叱られたことが免罪符になって気が楽になります。「何故できなかったのか」とは聞かずに、「いつまでにやるのか」とか「どのようにやるのか」と聞くべきです。これに答えることで部下の責任が持続し、さらなる取り組みをせざるを得なくなります。そして、この解決に向かう努力が部下を成長させます。

・能力が劣ることが致命的な問題になるような業務は別にして、一般的な場合は能力的な問題で、責めたり叱ったりしてはいけません。責められても解決できないことなので、責められた部下は自信をなくして戦力ダウンにつながります。逆に精神的な病気を患っている場合を除き、意識や意欲がなかったり、足りなかったりした場合は大いに叱るべきでしょう。これは心がけ一つで変えられるものです。そして、意識や意欲が高くなれば能力も向上します。それでも能力向上につながらない場合もありますが、その場合は個人差の問題なので、その能力に合わせた仕事を与えざるを得ないでしょう。
 外部の研修やセミナー等のOff-JTは、外部と接触し、外部の情報に触れる機会を与えるので、社員の視野を広げる意味でも定期的に実施することが必要です。社員教育はOJTを基本にしつつも、可能な範囲でOff-JTも組み入れることがよいでしょう。特に幹部養成の場合は、できる限り外部と接触して視野を広げる必要がありますので、定期的にOff-JTを実施することが必要です。

5.人を活用する

  教育により「人」の価値を高めても、上手く活かせなければ何もなりません。人の活用こそ大切ですが、人は「心」を持っているので、その心に働きかけ、「やる気」を出させなければ動きません。やる気を出させるのには何が必要でしょうか。先ず必要なのは社長や上司のリーダーシップであり、次のようなことが求められます。
・仕事に真剣に取り組む。
・先見性と決断力がある。
・指示が的確で、部下に無駄な仕事、無意味な仕事をさせない。
・部下の評価が公平である。
・部下を外部から守る頼もしさと、部下をいたわる優しさを持つ。
 社長や上司にリーダーシップがあれば、部下の士気が上がり、困難な仕事にも積極的にチャレンジする気風が生まれますが、リーダーが何を評価するかによってチャレンジする対象が変わりますので、ここに留意することも必要です。例えば営業部門の場合、売上、利益、回収サイト、販売コストなど、重視すべき項目がさまざまにありますが、上司が売上を伸ばした社員だけを評価し、他の項目の成果をあまり評価しないと、全員が売上だけを重視して、利益や回収サイト、販売コストなどが無視される現象が起きます。このようなことを防ぐためには、バランスよく評価することが重要ですが、逆に評価対象を変えたり、評価基準を変えることにより、部下の行動を特定の方向に誘導することも可能です。
 どの企業にも3Kの仕事やあまりやりたくない仕事がありますが、誰かにさせなければなりません。このような仕事をさせるときはリーダーがその仕事の意義を高く評価し、担当者に誇りを持たすことにより、やる気を出させることができます。最近話題になった事例としてJR東日本の清掃スタッフの例があります。清掃スタッフを「世界最高の技術を誇るJR東日本のメンテナンスを、清掃という面から支える技術者」と位置づけることによって誇りを持たせ、それが「自信」や「やりがい」を生み、メンバーからさまざまなアイデアが出て職場が活性化し、その「質の高いサービス」が国内だけでなく海外からも注目されほどになりました。多くの企業にとって、大変参考になる事例と言えます。
 人が行動を起こすとき、自身では知性で判断したと錯覚していても、実際には感情で動いているというケースはよく見られます。そのため、人を説得したり、動かしたりするには、その人の感情に訴えることがとても大切です。古くは豊臣秀吉、最近では田中角栄が人を動かす天才と言われていますが、彼らは人情の機微を熟知し、人の感情に訴える能力がずば抜けて高いと考えられます。一般人である私たちは、秀吉や角栄のようにはできませんが、部下の感情に配慮することでその心をつかむことができ、期待通りの働きをしてもらうことは可能です。人は信頼されていると感じると大きな力を発揮しますので、先ず部下を信頼し、それが部下に伝わるようにすることが大切です。この信頼関係が構築できれば、人の活用の舞台は整いますので、後はリーダーシップを発揮して適切なマネジメントを行なえば、企業は大きな力を発揮できます。