防災庁設置に向けて有識者会議が初会合 明確にしたいマンションの災害対策
政府は、令和6年11月1日に防災庁設置準備室を開設、続いて令和7年1月30日に第1回有識者会議が開かれました。夏頃には会議のとりまとめが発表されるとのことです。
30年以内に首都直下地震が70%の確率で発生、南海トラフ巨大地震は80%の確率で発生すると言われ、台風等の気象災害に毎年のように襲われる「災害大国」日本ですが、災害対策の司令塔となる国の機関はありません。内閣府に防災担当は設置されていますが、スタッフは各省庁からの出向者で人数も少なく、実務を担う防衛省(自衛隊)、気象庁、海上保安庁、消防庁、警察庁のようなプロ集団ではありません。
こうした事態に阪神・淡路大震災を経験した関西広域連合(*1)は、平成29(2017)年に「我国の防災・減災体制のあり方に関する懇談会」を立ち上げ防災省(庁)創設を提言(*2)しました。同懇談会の座長を勤めた河田惠昭氏(*3)は冒頭に記した防災庁設置準備室の有識者会議のメンバーです。
(*1)関西広域連合は地方自治法の規定により設立された特別地方公共団体
関西地方等の府県と政令市が参加
(*2)https://www.kouiki-kansai.jp/koikirengo/jisijimu/bosai/1164.html
(*3)京都大学名誉教授
1⃣低層木造住宅中心の時代を引きずる 地域社会のイメージ
新しく設置される予定の防災庁がどのような組織になるのかはまだ分かりませんが、現在、国の災害対策の中に明確に位置づけられていないマンションの災害対策が、重要な課題として確認され、位置づけられることを期待します。
マンションストックが全国で700万戸を超え、都市居住の中心的存在です。建物の構造が同じような鉄筋(鉄骨)コンクリート造の賃貸マンション、UR都市公団や都営団地等を含むと東京23区の人口の半数程度が中高層共同住宅で生活しています。マンション等の中高層共同住宅の建物は、堅牢・不燃なだけに、阪神・淡路大震災、東日本大震災等の過去の大災害で、建物の倒壊や火災による直接死がほとんど出ていません。これからも体・生命を守るシェルターとしての役割を果たすことが期待されています。
しかし、ソフト面の災害対策ではマンション等の中高層共同住宅で生活をする人たちの課題と役割が明確に位置づけられていません。災害対策は大きく分けて ①平素から災害に備える事前防災 ②災害発生時の対応 ③災害発生以降の生活維持 ④生活再建と復旧復興の各段階がありますが、現在の国の災害対策には、その考え方が示されていません。災害対策の基盤ともいえる地域社会についての捉え方が、木造低層住宅等が中心だった時代のもので、中高層共同住宅が多くを占める現代の都市の地域社会とはかけ離れたままです。災害対策基本法が地域防災で重視している自主防災組織も「住民の隣保協同の精神に基づく自発的な防災組織」と表現されています。問題があるとはいえ管理組合や自治会等に所属している都市生活者の実態に合っていません。
2⃣マンション等を中心とする 地域社会の防災力向上が重要
これはマンションに限られたことですが、建物・設備等のハード面の防災力強化は区分所有者全員で構成する管理組合が決めますから、賃貸居住者は意思決定に事実上参加できません。その一方で災害が発生すれば区分所有者、賃借人を問わず、実際に居住している人たちが助け合い、災害対応や、在宅避難を含む被災生活を送ることになります。しかし、損傷した建物・設備の復旧・復興については管理組合が決めることになり、賃借人はほとんど関与することができません。こうした仕組みの良し悪しはともかく、各マンションの管理規約のモデルになっている標準管理規約には、これらを想定した災害対策について定めた条項はありません。
千代田区をはじめ東京の自治体の多くは、災害発生時に外部に避難しない在宅避難を勧めていますが、外部との連絡が取りやすい低層階の居住者はともかく、エレベーター等の移動手段を欠いた状態で中高層階、特に超高層階の居住者に対して周囲地域等から、どのような支援が行われるか分かりません。有効な支援が受けられないまま陸の孤島状態になり、高齢者や持病のある人が災害関連死に追い込まれる可能性もあります。
また消防法は、一定規模以上の建物に入居する事業者に自衛消防組織の設置を義務づけていますが、共同住宅は対象外になっています。このため、マンションとホテルや商業施設が同じ建物にある場合、ホテルや商業施設には自衛消防組織はありますが、マンションには防火管理者がいるだけです。また、災害対策基本法が定める自主防災組織と、消防法が定める自衛消防組織との関係も明確になっていません。
全体として言えることは、それぞれの法律を所管する官公庁は、それぞれ災害対策に取り組んでいますが、相互の連携がないため地域やマンション等の現場から見ると疑問が多く分かりにくいです。
マンション居住者が多い区市等の自治体も、それぞれ防災マニュアル等を作成し、内容も次第に充実していますが、上記のような課題が解決されているわけではありません。災害対策について自治体の枠を超えた共通の仕組みが明確になっていません。例えばX市のA団地から、Y区のBマンションに引っ越しをした人は戸惑うことも多いはずです。
堅牢な不燃構造の中高層住宅を中心とする地域社会が、適切な災害対応力を備えることができれば、有力な防災拠点になる可能性があります。一方で、その位置づけが明確でないと、災害発生時に限られた公助の手が及ばないまま支援が遅れることも考えられます。
防災庁の設置にあたり、マンション防災がどこまで検討されるか分かりません。少なくともさまざまなタイプの中高層共同住宅とその居住者を中心とする現代の都市の地域社会の実態にあった地域防災の仕組みが検討され、地域全体の防災力を強化する基本方針やガイドライン等が整備されることを期待します。
マンションサポートちよだmini第173号掲載(2025.1月発行)
(PDFはこちら)