中小企業の「知的資産経営」
がんばる中小企業応援リレーコラム
テーマ:中小企業の「○○経営」
第5回 中小企業の「知的資産経営」
本稿執筆時点で、日本は新型コロナウィルス感染症の流行という、未曽有の危機に直面しています。史上初めて緊急事態宣言が発令されました。この問題が日本経済に与える影響は、「戦後最大の経済危機」になると考えられています。中小企業・小規模事業者が被る被害は、甚大なものになるでしょう。
しかし、明けない夜はありません。災禍が過ぎるまで、ビジネスのペースはスローダウンすると思いますが、その間に自社の強みを再度見直し、ビジネスモデルの強化を図ってもらいたい。そのような想いで、本稿を執筆しました。
◇知的資産経営とは
知的資産経営とは、「目に見えない強みを有効に組み合わせて収益につなげる経営」のことです。
「目に見えない強み」をイメージで表現すると、下図のようになります。
図では、氷山全体で企業活動を表しています。氷山の上に出ている資本金・従業員数・有形資産等は、数字で表わすことができ決算書に記載される、通常の資産です。数値化できるため、管理しやすいものであるとも言えます。
一方で、企業活動は、数値化が難しく、当事者が当然と考えている要素も活用しています。図で水面下に隠れているものです。このように、
- 数値化が難しい要素
- 当事者が当然と考えている要素
が、「目に見えない強み」と言えます。数値で表せられないため、気付きにくく、管理が難しいものと言えます。
また、「目に見えない強みを有効に組み合わせて収益につなげる経営」の「有効に組み合わせて」を表現すると、下図のようになります。
図は、3つの円で区切られています。1番目の中心の円は、個人に従属する技術やノウハウです。それだけでも強みと言えますが、属人化した強みは、個人が退職すると組織から消えてしまいます。
2番目の円は、組織内で共有された強みを表しています。属人化した技術やノウハウをマニュアル化やデータ化することで、強みを組織で共有化できている状態です。
3番目の円は、企業活動が社外との良好な関係につながっている状態を表しています。例えば、供給業者との良好な関係性を活用し、差別化できる商品を供給できている。あるいは、商品・サービスやその提供方法が顧客満足に結びついている。そのような状態を表しています。
このように、強みの円を外側に広げていく活動が、「目に見えない強みを有効に組み合わせて収益につなげる経営」と言えます。
知的資産経営の考え方は難しいものではないことが、ご理解頂けると思います。
◇知的資産経営の進め方
それでは、知的資産経営に取り組むには、具体的に何をしたら良いのでしょうか?重要なのは以下の3点だけです。
①自社の強みの洗い出し
最初に、自社の強みの洗い出しを行います。強みには、以下の3種類があります。
企業の歴史や規模によっては、人的資産だけという企業も考えられます。それでも大丈夫です。この段階では、正直に強みを洗い出してください。また、できるだけ多くの従業員に参加してもらってください。意見が多いほど、本当の強みが見つけやすくなります。
②強みを強化するための具体策立案
強みを強化するための具体策立案のポイントは3点あります。
1点目の、「人的資産を構造資産化する」とは、例えば属人化したノウハウがある場合はマニュアル化し、組織全体で共有を図るというような取り組みです。ボトムアップで行うのが適した取り組みです。強みを洗い出した結果、人的資産だけであったような企業は、この取り組みが重要となります。
2点目の、「関係資産を構築する」とは、顧客への便益提供につなげるための、外部との連携を図るような取り組みです。中小企業が新しいビジネスモデルを構築する場合、保持している経営資源だけでは不十分です。自社の経営資源を補完する外部組織との関係強化を図ります。この取り組みは経営者視点が必要なため、トップのコミットが重要となります。
3点目の、「進捗管理できる」とは、各取り組みを具体的なステップに分解し、スケジュール化することです。また、責任の所在も重要です。
③PDCAによる具体策の進捗管理
PDCAとは、Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)の意味です。強みを強化する具体策を立案(P)しても、着実に実行(D)しなければ、強みの強化に結びつきません。また、進捗や問題点の評価(C)を行い、問題があれば改善(A)することで、計画の目標達成に近づきます。
◇最後に
以上、新型コロナウィルス感染症の流行による影響でビジネスのペースがスローダウンしている間に、自社の強みを再度見直し、ビジネスモデルの強化を図るための、知的資産経営について解説しました。本稿を参考として、新型コロナウィルス感染症を克服できた後、迅速に事業を回復する事業者さんが増えることを期待します。