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経営管理手法の加速する変化 −「PDCA」から「PDR」へ-

中小企業診断士 三浦 英晶(みうら ひであき)

年度テーマ:新型コロナウィルス感染拡大で加速する変化

第1回 経営管理手法の加速する変化 −「PDCA」から「PDR」へ-

 本年度も「がんばる中小企業応援リレーコラム」がスタートします。このコラムでは、中小企業の経営に関わる方々に向け、毎年、「年度テーマ」を決め、その年度テーマに関連するトピックをお伝えしてきました。現在、新型コロナウィルス感染拡大により、多くの中小企業が、多大な影響を受けています。本年度の「年度テーマ」を決めるにあたっても、この現状を踏まえた内容にするべきとの意見が挙がりました。一方で、新型コロナウィルスに関しては、さまざまな情報が入り乱れ、収束のタイミング、国の政策など、どれをとっても先行きが全く見えず、昨日は「良い」とされていたことが、今日は「ちがう」ということも多い状況です。

  このような状況のなか、1つ共通して言えることは、この新型コロナウィルスの感染拡大によって、「変化が急激に加速した」ということではないでしょうか。新型コロナウィルスが感染拡大する前も、この数年間は、VUCA(ブーカ)[Volatility(不安定)、Uncertainty(不確定)、Complexity(複雑)、Ambiguity(不明確)]の時代と言われ、これまでの定石が通用しない、変化の大きい世の中になったと言われてきました。それが今年に入り、急激に、一気に加速したと感じました。「10年かかると思われていた変化が、この数ヶ月で起こった。」「今回のような大きなきっかけがなければ、思い切って変えることができなかった。」といったことをよく耳にするのではないでしょうか。

 そこで本年度は、この「加速する変化」を年度テーマとして、毎回のトピックをお伝えしていくこととなりました。

今回は、その第1回として、「経営管理」の「加速する変化」について述べさせていただこうと思います。

1.これまでの経営管理のセオリー −「PDCA」−

経営管理(マネジメント)の手法として、広く認知されているものの1つとして「PDCA」が挙げられます。

この手法では、まず事業計画を策定(Plan)し、その計画を基に事業を実施(Do)し、実施した結果としての実績との差異により、その差異が生じた要因が何なのかを把握(Check)した後に、その要因に対処するための措置、改善するための対策などを検討・実施(Action)していきます。そして、それらを含めた調整や追加・変更を施した、次(次期)の事業計画を再び策定(Plan)することになります。このように、「PDCA」をサイクルとして回していく手法です。

このPDCAサイクルは、一巡だけでなく、何巡もくり返し行うことで、連続的に事業をブラッシュアップしていくことになります。また、PDCAサイクルは、企業のあらゆる層、あらゆる部門、あらゆる期間、あらゆる業務で行われ、そのトータルで事業がブラッシュアップされるものです。例えば、上記で述べたような企業全体の事業計画に対する会計期間ごとのPDCAが企業にとって最上位のものであれば、その下位には現場ごとの月次のPDCAサイクルが回っていたり、特定の一部の業務改善のためのPDCAサイクルが回っているといったように、いくつものPDCAサイクルがうまくかみ合うことで、企業全体としての継続的な改善が可能となります。

この手法は、長らく経営管理の基本(セオリー)とされ、あらゆる場面で万能的に用いられてきました。しかしこの手法は、本当にあらゆる場面で万能なのか?当てはめることができるのか?と考えると、疑問が残ります。

例えば、ある程度業歴が長い企業では、これまで積み重ねてきた実績や経験を基に計画を立て、実行、チェック、改善していくということが有効(意味があること)だとしても、これから創業する場合や、ベンチャー企業では、実績も少なく、不確実な要素が多すぎて、緻密な計画を立てたとしても、その通りにいかないことの方が多いかもしれません。

業種の違いで考えても、製造設備を持つ製造業者の場合、製品を製造して販売するために、いくつの製品を販売するのか、その販売量に対して、製造するための材料や部品をどのタイミングでどれくらい発注すれば良いのか、どのタイミングでいくつの製品を完成させなければならないのか、といった「計画」を立てなければ、原材料仕入→製造→販売という流れが成り立たなくなってしまいます。一方、お客様ありきのサービス業者の場合は、サービスの提供と消費が同時に行われるという性質上、お客様の都合などにより、計画を立てたとしても、なかなか計画通りに行かないことの方が多いのではないでしょうか。

また、同じような仕事を繰り返すルーティン業務では、計画して改善していくということが有効であったとしても、日々発生する問題に対処するようなマネージメント業務(管理職の業務)では、そもそも時間管理や効率を求めること自体が当てはまりません。

さらに、変化の少ない時代ではPDCAサイクルがうまく機能したとしても、変化の大きい時代、特に昨今のようなVUCAの時代では、計画すること自体の意味が薄れてしまうケースが増えていました。それが、この度のコロナウィスルの感染拡大により、計画していたことが全くその通りにいかない、今後の計画を立てること自体が不可能であったり、全く無意味である、というケースが急激に増えたのです。

2. 「計画」しない経営管理 −「PDR」−

このような「PDCA」が適していないケースで活用できる手法の1つに「PDR」を挙げることができます。これは、実行に向けた準備(Prep)、準備したことの実行(Do)、結果の見直し・学習、振り返り(Review)というサイクルでマネジメントする手法です。

この手法では、計画(Plan)を策定しません。そのため、計画に対する差異分析(Check)も行いません。物事に対して、いかに「準備」をしたか(していたか)、が重要である、という考え方です。そして、計画(Plan)に対して実行(Do)するのではなく、日々発生する、予測していなかった(偶発的な)出来事に対して、対処し、学習していくというサイクルを回します。

まず、準備段階(Prep)で、実現したいビジョンやパーパス(これから何をしようとしているのか)、その理由、意義、意図は何か、ということを明確にした上で、実行(Do)します。そしてReviewは、実行に対する見直しではなく、準備(Prep)に対する見直しであり、何を実際に行ったのか、何が起こったのか、学んだことは何か、次回はどのような点を変えるべきか、といった「振り返り」を行うと同時に、やりたいことに対してどのような効果があったかを把握するのです。

 この「PDR」は、VUCAの時代やコロナ時代においては「PDCA」よりも有効な場面が多いのではないかと思います。

 この手法は、ハーバード・ビジネススクールのリンダ・A・ヒル教授により考案された手法です。より深く知りたい方は、是非リンダ・A・ヒル教授の著書等を読んでみてください。(本コラムでは、私の解釈や見解も含めて述べさせていただいておりますので、ご了承の程、宜しくお願いいたします。)

また、誤解していただきたくないのは、「PDCA」が有効な手法ではないとか、全てのケースで「PDR」が当てはまる、ということではないということです。前述したとおり、世の中の潮流、業種、業務内容などにより、ケースバイケースで「PDCA」と「PDR」をうまく使い分けていくことが望ましいのではないかと感じています。