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中小企業も今こそDX(デジタル・トランスフォーメーション)

つちだ中小企業診断士事務所 中小企業診断士 土田哲(つちださとし)

 新型コロナウイルス感染症の流行という未曽有の危機は、日本の社会構造が抱えているさまざまな脆さを浮き彫りにしました。中でもデジタル化の遅れに関しては、日本社会全体での課題となっています。そのような状況で、「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」というキーワードを頻繁に目にするようになりました。日本経済新聞電子版で「DX」を検索すると、2019年1年間の177件に対し、2020年は1,301件と急増しました。

 

1 DXが注目された背景

 「DX」が一般にも注目され始めたのは、2018年9月に経済産業省が『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』というレポートを発表してからです。このレポートは、以下のような内容でした。

(1)企業の既存システムは全体最適化されていない(事業部門ごとの部分最適で、ブラックボックス化している)

(2)そのような既存システムの維持に、IT予算の9割が使われている

(3)デジタル技術を活用した新しいビジネスモデルへの変革が難しい

(4)この状態を放置しておくと、2025年以降、年間12兆円の損失となる

 発表当初は大企業やITベンダーを中心に、大きな関心を集めましたが、中小・中堅企業経営者の関心は低かったようです。

 しかし、2020年春以降のコロナ禍と、デジタル化対応が急務という課題認識により、「DX」が広く注目されるようになりました。経済産業省はDXレポートの続編を取りまとめ中で、2020年12月28日に『DXレポート2中間とりまとめ(サマリー)』を公表しています。

2025年の崖

出典:経済産業省『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』

https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html

DX加速シナリオ

出典:経済産業省『DXレポート2中間とりまとめ(サマリー)』

https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004.html

最初のDXレポートは警鐘が中心で、DXへの取り組み方法は抽象的な内容でした。

DXレポート2は中間とりまとめ段階ですが、DXへの具体的な取り組み方について記載される模様です。

 

2 DXとは(DXの定義と事例)

 次に、DXについて簡単に説明します。「DX」は、Digital Transformation(デジタル・トランスフォーメーション)の頭文字です。TransformationのTransは、交差するという意味があるため、「X」を使います。デジタル技術を使った変容を表しています。ビジネスの世界では、デジタル技術を活用した、全く新しいビジネスモデルへの変容という意味です。

 デジタル技術には多くの要素があります。例えば、クラウド・プラットフォーム、5G、AI、ブロック・チェーン、IoT、AR/VRなどです。

 DXを理解する際に重要なのは、これらのデジタル技術を使ったシステムを構築することがゴールではないということです。目的はあくまで、ユーザーや利用者へ、それまでに無い経験を提供できる仕組みを作ることです。そのためには、システムを作って終わりではなく、自己変革を続ける組織風土の醸成が必要となります。

 ここで幾つか、DXの事例を紹介します。

(1)配車サービス

 個人の空き時間を活用した配車サービスで、UberやGrabが有名です。それまでのタクシー業界を大きく変貌させました。

(2)動画配信

 映画やテレビ番組のネット配信だけでなく、オリジナル番組の充実を図っています。また、サブスクリプションサービスを一般化させました。

(3)クラウド・コンピューティング

 クラウド上の仮想的なサーバー環境を提供します。それまでの、自社で専用サーバーを調達し、システム環境を構築する手間に対し、比較できないほど迅速にコンピューティング環境を構築できます。

 これらの例で共通するのは、DXで実現した新しいビジネスモデルが、それまでの競争環境を一変させていることです。このような変化は、ディスラプション(破壊)と呼ばれています。つまり、DXは競争者を駆逐する破壊的イノベーションを引き起こす可能性があるのです。

3 DXという環境変化に対応できないと

 ディスラプションにつながるDXですが、中小・中堅企業経営者の関心は低いままのようです。「DXとは新しいITの活用方法」程度に捉え、自社には関係ないと考えているようです。あるいは、関心があっても、ITは詳しくないので部下に任せきりという経営者も多く見受けられます。このままでは、外部環境の変化に慣れることで感覚が鈍り、気づいたら手遅れという状況に陥りかねません。いわゆる「ゆでガエルの法則」(※)です。

 

(※)ゆでガエルの法則

カエルを熱湯に入れると驚いて飛び出す。しかし、常温の水の中に入れて少しずつ温度を上げていくと、変化に慣れて飛び出さない。最後は熱湯になり、茹で上がってしまう。環境変化に気づかないと手遅れになるという警句。

 そのような結末を望む経営者はいないと思います。これからの経営者は、外部環境の変化に敏感になり、自らを意識的に変容させていく必要があります。このような考え方を「蛻変(ぜいへん)の経営」(※)と呼びます。

 

(※)蛻変(ぜいへん)の経営

蛻(もぬけ)。蛻変(ぜいへん)とは、蝉の卵が幼虫になり、さなぎになり、羽化して成虫になっていく様をいいます。この生態を企業の経営に置き換え、環境変化に合わせ、意識的に変容を繰り返す経営を意味します。

4 中小・中堅企業はどのようにDXに取り組むか

 それでは、中小・中堅企業はどのようにDXに取り組んだら良いのでしょうか?

(1)DXは長期的な取り組みになることを覚悟すること

 先にも書いたように、DXはシステムを作って終わりではありません。自己変革を続ける組織風土の醸成が前提となります。企業文化の変革は、効果を実感するまで数年かかります。また、長期間かかるということは、現状はITの活用が進んでいない企業であっても、じっくりと準備できるということです。

(2)経営者の関与とリーダーシップが必要となる

 多くの中小・中堅企業の経営者は非常に多忙です。そのため、経営者が一つの取り組みに関与し続けることが難しい場合が多いと思います。一方で、オーナー経営者の多い中小・中堅企業は、経営者の想いを浸透させやすいという特徴もあります。経営者が自社を変えていくという強い想いを表明し、関与を続けていくことが重要となります。

(3)人材の確保

 経営戦略とIT技術の双方に詳しい人材を確保することが、DX実現には不可欠です。いわゆるCDO(Chief Digital Officer:最高デジタル責任者)です。しかし、資金に余裕が無い中小企業は、CDOのような人材を雇用することは難しいでしょう。そのような場合は、中小企業診断士やITコーディネータ等の専門家へ依頼する方法があります。専門家派遣の助成事業を設けている自治体が多いのでご確認ください。

5 最後に

 新型コロナウイルス感染症の流行は、日本にとっての未曾有の災難となっています。しかし、日本は古来、安定と大変換を繰り返してきました。また、良いものを取り入れることにも長けています。日本の長所である柔軟性を発揮できれば、中小企業の変革と成長が可能であるはずです。