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コロナ禍における事業承継

中小企業診断士 柳 義久

 

事業承継は喫緊の課題 

 中小企業経営者の高齢化が進み事業承継期にあるにもかかわらず、「後継者不在」とする中小企業者は127万者あると言われています。このまま放置すると意図しない廃業に追い込まれ、多くの経営資産が失われる可能性があり、650万人(千葉県の人口約630万人以上)もの雇用が失われ、GDP22兆円(日本のGDP約500兆円の4%強)が消えることになります。我が国経済の活性化のためにも中小企業の事業承継は喫緊の課題となっているのです。

 

コロナ禍の今こそ、次世代へ経営のバトンタッチを!

 事業承継が喫緊の課題であることを憂慮して国も自治体も課題解決に向けて、法整備や多額の予算を投じ、事業承継支援を行っています。支援の効果もあり、少しずつ事業承継が進みつつあったのですが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により飲食業、旅行業、小売業などを中心に幅広い産業で大幅な売り上げ減少が発生し、現経営者がもうひと踏ん張りしなければとばかり、事業承継はストップしてしまった感があります。

 しかし、激変する環境変化に対して対応力に優れているのはいつの時代も若い世代です。コロナ禍の影響ばかりではなく、デジタル化の急速な進展、進む人口減少、グローバル化の進展など、右肩上がりの経済を経験してきた現経営者にこうした環境変化への対応は可能でしょうか?

 

事業承継が進まないわけ

 筆者は2014年から中小企業者の事業承継支援に携わってきました。支援の体験を通じて、事業承継がなかなか進まない事情が分かってきました。

<経営者の事情>

 ・日頃、経営(仕事)で精いっぱい

 ・事業承継と言っても何から始めればよいか分からない

 ・誰に相談すれば良いのか分からない

 ・自分はまだ若く体力もあると思っていて事業承継に考えが及ばない(何歳になっても)

 ・後継者にはまだまだ任せられない

 ・会社の先行きに不安があり、自分の代で止めようか迷っている

<後継者の事情>

 ・親とは言え、自分に社長を譲れとは言い出しにくい

 ・経営する自信がない

 ・他に就職していて、親からの要請も無く家業に戻るきっかけが無い

 ・あれこれやるのは面倒くさい

 

 さまざまな事情があって、事業承継は進んでいないのですが、若い世代への事業承継が企業業績にプラスに働くことが調査で分かっています(※1)。コロナ禍だからと言って事業承継を止めるべきではありません。変化の激しい、難しい時期だからこそ、思い切って後継者に事業を託してみる必要性を強く感じます。

 

事業承継について

 事業承継期にある事業者に事業承継について伺うと、「税理士に相談しているよ」とか、「税理士には赤字状態だから心配ない」と言われたよ、と言います。確かに税理士が言うように税務上はそれほど問題が無いのかも知れませんが、事業承継はそれだけではありません。

 後継者が決まっていたとしても、事業を引き継ぎ、しっかりと経営ができるようになるまで育てなければなりません。後継者の育成には5年から10年かかると言われています。もし70才で社長を引退したいとすれば60才の頃から中長期で事業承継に取り組む必要があります。事業承継は税務上のことだけではなく、ヒト・モノ・カネ・情報の円滑な承継が必要になります。

 

事業承継の全体像

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事業承継は、代表権の交代や税理士の言う相続税対策ととらえられがちですが、事業そのものを引き継ぐ取り組みです。図にあるように後継者が安定した経営を行うためには、後継者の計画的な育成がなされ、現経営者の人脈や経営手腕、営業秘密や技術ノウハウなどの目に見えにくい経営資源、自社株式と事業用資産等事業を構成するすべての経営資源を引き継ぐ必要があります。

 また、後継者が親族内にも従業員にもいない場合は、社外への引継ぎ・M&Aが考えられます。近年、経営者の高齢化と後継者不足に悩まされている中小企業が多く、中小企業のM&Aが増加傾向にあります。昔ほど「会社を売る」というような悪いイメージはありません。むしろ後継者がいる場合でも、株式の承継・各種手続き・税負担などの問題で事業継承を断念するケースもあり、会社の事業を存続させるための手段としてのM&Aが利用されてもいます。M&Aは中小企業の経営者にとって「手元に売却金が残る」「買い手に安心して会社を任せられる」など、魅力があることが分かり利用されるようになってきました。

 承継も検討したが廃業せざるを得ない場合は、早めの決断がポイントになります。タイミングを逃すと、債務超過が拡大し、多額の負債が残ることになります。ありがちなのは、具体的な進展がないまま時が過ぎ、黒字だった会社も債務超過に陥り、廃業以外の選択肢が無くなってしまうことです。早い段階で決断すれば、廃業でも様々な手を打つことができる可能性があります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事業承継3つの類型、そのメリットとデメリット

1.親族への承継

メリット

①様々な面で、心情的に受け入れられる

②相続による財産権の承継ができるので、コスト負担が少なくて済む

デメリット

①経営者としての資質が無い後継者に任せてしまいがち

②兄弟がいる場合に対立が生じやすい

③子供が継ぎたがらないケースが多い

 

2.従業員への承継

メリット

①後継者候補の数が増える

②事業をよく理解しているので引き継ぎやすい

デメリット

①後継者候補には株式を買い取る資力がない

②個人保証が抜けない可能性がある

③経営者資質に問題がある場合がある

 

3.M&A(第三者承継)

メリット

①広範囲から的確な会社を選択できる

②会社の売却で多額の資金を得られる可能性がある

デメリット

①希望に合う会社を見つけることが難しい

②経営の一体性が保てない場合がある

 

事業承継支援策の活用

 前述のように、事業承継は喫緊の課題であるとの認識のもと、国も自治体も中小企業の事業承継支援を行っています。国は、平成30年度税制改正により、喫緊の課題である事業承継問題に対処するため、 事業承継税制特例措置を時限的に創設し(※2)、世代交代を後押ししています。

 具体的には、令和5年3月までに「特例承継計画」という計画を提出し、令和9年12月までに実際に事業承継(経営の承継+株式の承継)を行う経営者を対象に、現在の事業承継税制を抜本的に拡充した新制度です。新制度は、後継者が中小企業の株式を相続や贈与で引き継いだときに、本来支払うべき多額の相続税や贈与税の納税を猶予する制度です。猶予された税金は、将来的に免除されることを想定しています。事業承継期にある事業者は、顧問税理士等と相談し、制度の活用を検討してみてください。

 また、東京都では、「事業承継と言っても何から始めれば良いのか分からない」という事業者のために「地域金融機関による事業承継促進事業」(以下「事業承継促進事業」)を2019年度より実施しています。 

 「事業承継促進事業」は、地域金融機関、具体的には信用金庫、信用組合、一部地方銀行が一気通貫で、事業承継に係る啓発から、事業承継計画の策定、資金供給までの支援をサポートすることで、地域経済において大きな役割を果たす中小企業が保有する技術や人材の次世代への引継ぎを促進することを目的としています。

 まず、東京都産業労働局のWEBページで参加金融機関を確認し、、取引のある信金・信組、一部地銀を通じて専門家派遣を申し込むことができます(※3)。事業承継に詳しい専門家(※4)が事業所を訪問し、会社の現状を把握すること(経営の見える化)から始め、会社の「磨き上げ」、その後、業承継計画書の作成を支援していきます。利用は最大12回まで無料で利用することができます。

 「事業承継促進事業」のゴールは、事業承継計画書をつくりあげ、会社の5年先、10年先を「見える化」することです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※1 2019年版中小企業白書(107頁)によると、事業を承継した経営者と承継していない60歳以上の経営者について、直近3年間の経常利益額の動向を比較したところ、事業を承継した事業者のほうが「増加傾向」と回答した割合が事業承継をしていない事業者を上回っています。また、経営者が若返ることによる事業拡大意欲に関連する指標として、売上高、総資産、総資産利益率(ROA)、従業員数を取り上げ、事業承継した企業と承継していない企業の間で成長率比較をしていますが、比較の結果は、すべての指標で事業承継した企業の成長率が高く、統計的には有意な差が確認されています。

 

※2国税庁ホームページ確認:https://www.nta.go.jp/publication/pamph/jigyo-shokei/index.htm

※3問合せは、取引口座のある信用金庫、信用組合、一部地方銀行の支店担当者まで。

※4専門家:中小企業診断士、弁護士、税理士など、事業承継支援に強みを持つ士業のこと。