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中小企業による産学官連携の使い方

中小企業診断士 草刈利彦(くさかりとしひこ)

 コロナが収まりません。2年前には予想もしなかった大きな環境変化が起きており、コロナ前の状態に戻ることは期待出来ないでしょう。経営者の皆さんは既にお気づきです。そして次のようなことで悩まれていませんか。

「何か手を打たないといけないのだが、何から手を付けてよいのか分からない」
「今の事業がどんどん細っていくことは知っているが、どう改善すればよいか分からない」
「新規事業を立ち上げたいが、新しい事業アイデアが思いつかない」

本稿では、そのような悩みを解決するひとつの手段として、産学官連携をご紹介します。

産学官連携とは

 産学官連携とは、主に大学などの教育・研究機関と企業が連携する取り組みのことです。

 グローバル化の進展、早い技術革新など、われわれを取り巻く環境は急速に変化しています。大学や公設試験研究機関等がもっている優れた技術・知識等を活用すれば、その様な環境変化に対応できる可能性があります。

 我が国には、次世代を支える新産業が必要です。新市場開拓に必要なのは、企業規模の大きさではありません。国は中小企業をイノベーションの担い手と考えています。中小企業は自社が強化すべき部分を明確にし、大学や公設試験研究機関の協力を得ることで、競争力を強化していくことができます。

産学官連携の進め方

 では、産学官連携をその様に進めて行ったらよいのでしょうか。産学官連携の大まかな流れは、図1のようになります。 

図1 産学連携の大まかな流れ (参考文献1より)

産学官連携の目標の設定

 企業にとっての産学官連携は、自社に不足する部分について大学や公設試験研究機関など外部の専門家の力を借りながら、成果を実現していくプロセスと位置づけることができます。そこで、産学官連携を行う目的を明確にする必要があります。目的が明確にしないと、活動にブレが生じ、期待する成果がでない危険が出てくるからです。

 自社のめざすところを明らかにするツールとして経営デザインシートがあります。 (https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keiei_design/designsheet_text_01.pdf)

 経営デザインシートは以下のような四つの部分(A)~(D)にわかれています。

(A)自社の存在意義を意識した上で、
(B)「これまで」の自社の姿を把握し、
(C)長期的な視点で「これから」の在りたい姿を構想する。
(D)それに向けて今から何をすべきか戦略を策定する。

 経営デザインシートにより今から何をすべきか分かったとしましょう。実はそれでも問題が生じるときがあります。自社の技術・知識だけでは実現できない時があるのです。産学官連携を活用する時です。

出典;知的財産戦略本部 「経営デザインシート 作成テキスト 入門編」

連携相手の発見

 目標が定まったら次にやることは、自社の目標達成に合った研究者や機関を探すことです。方法として以下の活動が考えられます。

①冊子・データベースを探す

 企業と、大学や公設試験研究機関等の研究者や技術との出会いを広げるため、様々な機関で技術シーズ集や研究者紹介のための冊子やデータベース、インターネットのウェブサイト等が作成されています。これらの冊子やデータベース等を閲覧・検索することで、自社の目的に関連する研究者や技術シーズの概要等を探すことができます。

・一般社団法人首都圏産業活性化協会 技術研究レポート (インターネット)
(https://www.tamaweb.or.jp/report-2)

・独立行政法人 科学技術振興機構「研究成果展開総合データベース J-STORE 技術シーズ検索」(インターネット)

 科学技術振興機構( JST)が、全国の大学・国公立試験研究機関から収集した研究成果やJST の基礎的研究等の研究成果を提供しているデータベースです。(https://jstore.jst.go.jp/)

②コーディネータやアドバイザー等に相談する

 産学官連携についての相談先には以下の様なコーディネータやアドバイザーがいます。

・文部科学省産学官連携コーディネータ
 文部科学省産学官連携コーディネータは、各大学・高等専門学校等の個性に合った産学官連携を推進する専門家です。大学等において、技術相談、共同研究や受託研究等についての相談等、産学官連携の推進のための活動を実施しています。(https://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/detail/__icsFiles/afieldfile/2009/11/26/1282021_88.pdf)

・科学技術コーディネータ
 科学技術コーディネータは、技術移転等に関する専門家です。地域の産業支援機関等で、産学官のニーズとシーズのマッチングに関する活動等を実施しています。

③テクノフェア、展示会、学会等で探す

連携先の候補について、産学官連携の可能性を確認します

 次に、産学官連携をしてみたいと考える研究者や技術シーズについて、産学官連携の実施に向けた確認等を行います。その際には、大学や公設試験研究機関等の産学官連携の窓口において、コーディネータ等の担当者を活用しましょう。

 主な産学官連携方法は以下のとおりです。

①技術相談

 大学や公設試験研究機関では、無料または有料で、企業が抱えている課題に対して、問題解決に必要な情報の提供、大学等の研究者の紹介、活用可能な技術シーズの紹介等を行っています。

②技術指導

 大学や公設試験研究機関は、企業が抱えている課題について、研究者がもっている知見から、技術的な指導(有料)を行っています。

③共同研究

 大学と民間企業が、対等の立場で研究を行うために作られた制度です。また、企業等と大学が、それぞれの施設で分担して研究を行うこともできます。

④受託研究

 企業からの受託を受けて、大学や公設試験研究機関が本務として研究し、成果を委託者である企業に報告するもので、企業からの研究者の派遣は必要ありません。

⑤依頼試験

 大学、公設試験研究機関では、大学、公設試験研究機関がもっている試験・計測機器を活用し、企業から持ち込まれた材料等に対する分析・試験・測定等を有料で実施しています。製品品質の裏づけデータ取得に役立ちます。

⑥研究設備等の利用

 大学や試験研究機関等には、一部の研究設備等を、当該機関が研究等に使用していない時間帯について、企業に有料で貸してくれるところがあります。

⑦ライセンシング

 大学や公設試験研究機関、TLO 等が特許等の知的財産権を取得している技術については、企業が特許権者等に合意した対価を支払うこと等により、その権利を実施する権利(製作、使用、販売等)を得ることができます。また、特許権の権利の全部、または一部を特許権者から譲り受ける事もできます。

連携先への支払い費用

 ここで気になるのが、連携先の大学等への支払い費用でしょう。

 連携先の大学等への支払い費用の目安は、下記のようになります。

●技術相談:無料~数万円
●共同研究、受託研究:数百万円程度
●大学への研究員派遣:半期で数十万円程度

 なお、上記はあくまで例であり、対応内容や金額等は、機関やプロジェクトによって異なります。

産学官連携の支援策を活用しましょう

 産学官連携については、研究開発だけでなく、事業化や販路開拓の各段階について、自治体や公設試験研究機関、産業支援支援機関が、中小企業向けの支援策を提供しています(参考文献3をご参照ください)。産学官連携の実施に際しては、プロジェクトのどの段階でどのような支援策を活用するか、産業支援機関や、大学の産学官連携に関するコーディネータ、中小企業診断士等に相談してみましょう。

 

参考文献
1. 経済産業省 中部経済産業局「ここからはじめる!産学官連携」
2. 2020.12 アクセス埼玉 近藤、芳賀 「経営をデザインする」 
3. 産学官連携の最近の動向について
 (https://www.mext.go.jp/content/20210706-mxt_sanchi01-000016609_4.pdf)