BCP(事業継続計画)を活用してみよう!
1.経営上のリスクは災害だけでなく、たくさんある。
日本は災害大国である。全国各地で、多数の大地震が発生している。また、年に数回、台風、豪雨などの大規模な自然災害が頻発している。さらに、2020年から発生した新型コロナウイルス感染症などの自然災害以外のリスクも顕在化している。東京都内も地下直下地震や大洪水などのリスクが存在している。
中小企業が考える事業継続が困難になると想定しているリスクを見ると、感染症対策、自然災害は当然のごとく一番のリスクと想定している。しかし、それらの他を見ると、取引先の倒産、取引先の被災、設備の故障、物流の混乱、情報セキュリティ上のリスクなど、企業経営においては多様なリスクが存在していることがわかる。【図1参照】
図1 事業継続が困難になると想定しているリスク(中小企業)
資料:帝国データバンク「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査」(2020年5月)
※事業継続計画(BCP)を「策定している」「現在、策定中」「策定を検討している」のいずれかを回答した企業に対して聞いたもの。複数回答。
こうした自然災害や感染症拡大などの企業経営におけるリスクの影響は、個々の事業者の企業経営や、経営資源、サプライチェーン全体に大きな影響を及ぼすおそれがある。これらのリスクを想定して、素早い復旧を実現する有効な手段がBCP(事業継続計画)である。
2.BCPは中核事業の確保を優先したい
大規模な災害等のリスクが発生すると、企業として① 何が起きたのか(自社の被害や災害による自社への影響)、② 何が足りないのか(人、モノ、金、情報、サプライチェーン他)③ 何をいつまでにしなければならないのか、以上を迅速に把握し対応する必要がある。しかし、被災してからでは何をしていいかわからないなど正常な判断がしづらくなり、人・モノ・金・情報も不足する状況になる。BCP(事業継続計画)を策定すると、前述の①〜③の把握を短時間で対応可能にするために、あらかじめ何が起こりうるかを考え、そのとき行うべきことを計画として定め、計画が実行できるよう備えができており、その結果、早く正常な企業活動へつながる。BCPの基本的構造として、押さえるべきポイント5つを以下記載する。【図2参照】
①中核事業を押さえる
本当は全部の事業を復旧するのが理想であるが、短時間にそれを実現するのは難しい。少なくとも復旧させるべき事業、業務をまず整理する、優先順位をつける。
②社内・社外環境の状況をおさえる
企業の経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)、社外と関係する取引先、事業に関わるインフラ、社会環境を整理する。さらに、サプライチェーンに関わる情報も整理する。
③インシデント・被害の想定をする
BCPを策定するにおいて、目標として想定するインシデント、被害を想定する。内容としては、地震、水害などの自然災害、情報セキュリティなどが想定される。また、企業経営者が突然倒れたなども想定することも必要である。
④復旧するための目標復旧時間(RTO)を設定する。
※RTO=Recovery Time Objective
これも目標として、いつまで中核事業を復旧させるかの目標復旧時間を設定する。なお、BCPの事前対策まで策定した企業は、平均13日(2週間あまり)で復旧するのに対し、BCPによる対策をしない場合は、平均40日と3倍以上時間がかかるというデータもある。
⑤事前・応急対策を策定する。
事業継続戦略の対策として、発災事前の対策である「減災対策」、発災直後の対策である「応急対策」、そして新しく恒久的な対策である「復興対策・事後対策」がある。【図3参照】
BCPにて重要なのは、発災前後に当たる「減災対策」「応急対策」がどれだけ策定されているかである。事前にそれらの対策の準備をするかどうかにより、早く正常な企業活動へつながるがどうかが決まると言ってよい。
実際、BCPを導入した企業としない企業の間では、中核事業の復旧に向けた操業率が格段と違いがある。
【図4参照】
BCPを導入しない企業は、中核事業において復旧できず、事業縮小、および廃業に追い込まれる場合もある。さらに、BCPを導入した企業は、BCPを導入しなかった競合企業の廃業などにより、今までより事業が拡大する場合もある。※中小企業BCP策定運用指針 http://www.chusho.meti.go.jp/bcp/index.html
3.BCPは中小企業には大変な代物である
…と簡単に書いたが、実際のBCPの策定は、想像以上に準備することが多く、「手間がかかる」ものである。BCP策定のためのテンプレートはいくつか存在しているが、作成のための報告書が100ページ以上に及ぶため、中小企業で策定するには負担が大きすぎるのが現実である。実際、ある調査会社のレポートによると、BCP策定の検討状況は、大企業が7割に対し、中小企業は5割となっているのが現状である。【図5参照】
資料:帝国データバンク「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査」(2020年5月)
4.中小企業への支援の手段としての「事業継続力強化計画」の活用
この負担の大きいBCP策定をスタートするきっかけの位置付けになるのが、「事業継続力強化計画」である。「事業継続力強化計画」は、2019年7月16日に施行された中小企業強靱化法の下で、防災・減災に取り組む中小企業がその取組内容(事前対策)を計画としてとりまとめ、当該計画を国(経済産業大臣)が認定する制度として創設された。
「事業継続力強化計画」は、①事業継続力強化の目的の検討、②災害等のリスクの確認・認識、③初動の対応の検討。④ヒト、モノ、カネ、情報への対応、⑤平時の推進体制、以上5つの要素を記載するもので、6ページものの申請書である。最大のメリットは、認定を受けた場合、防災・減災設備に対する税制措置、低利融資、信用保証枠の拡大などの金融支援、認定事業者に対する補助金の加点などの優先採択などの支援策が受けられることである。【図6参照】
したがって、6ページものの申請書を作成するのは、中小企業支援の一つの突破口の有効手段として使えると言えよう。【参考】事業継続力強化計画 関連URL
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/keizokuryoku.htm
5.「事業継続力強化計画」をきっかけに他の経営課題の解決事例もある
「事業継続力強化計画」の認定だけでも中小企業としてメリットはあるが、この申請書を作成した結果、リスクに対する認識が高まり、本格的なBCP策定に結びつけば、最高の効果と言えよう。さらに、副次的効果として、BCP策定をきっかけにいろいろな事象、事柄の整理がついて、「事業の優先順位が明確になった」、「取引先からの信頼が高まった」、「業務の改善・効率化につながった」など、BCPとは別の経営課題の解決に結びつく事例があることも注記しておく。【図7参照】
資料:帝国データバンク「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査」(2020年5月)
※事業継続計画(BCP)を「策定している」を回答した企業に対して聞いたもの。複数回答。
6.BCPの施策は他にも色々ある
東京都はBCPに対して以下の施策を実施している。
①BCP策定支援事業(東京都中小企業振興公社)
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/shien/bcp/sakutei.html
中小企業のBCP策定の取組を推進するため、策定プロセスを学ぶセミナーや策定講座の開催やコンサルティングを活用して策定を支援するコンテンツが掲載されている。
②BCP策定支援ポータル(東京都中小企業振興公社)
https://www.bcp-navi.tokyo/
中小企業のBCP策定事例や連載・コラムなどを掲載されている。
③BCP実践促進助成金
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/josei/setsubijosei/bcp.html
BCP実践促進助成金は、東京都または東京都中小企業振興公社が実施したBCP策定支援事業により策定したBCPを実践するために必要な経費の一部を助成する制度である。助成対象は、緊急時用の自家発電装置、情報システム(クラウドサービス導入費用など)、地震対策としての装置、非常食、簡易トイレ、感染症対策の備品など多様にわたる。
なお、この助成金の条件(選択要件の一つ)として先述した「事業継続力強化計画」の認定が含まれてので、注意して頂きたい(詳細は上記URLを参照)。
なお、上記の情報は、以下の東京都産業労働局のホームページURLを参照すれば、すべて閲覧可能なので、活用ください。
BCP策定支援(東京都産業労働局)
https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/chushou/shoko/keiei/bcp/
まとめ:まずはBCPを活用して、経営に活かそう。
BCPは、中小企業にとって、大企業のように作成に人手を掛けられないため、かなり重いものであるのは事実である。しかし、リスクへの備えだけでなく、業務を整理するきっかけとなり、他の経営課題の解決につながる場合もある。
まず、できる範囲で始める。例えば、「事業継続力強化計画」をスタートとして、また、東京都のBCP施策(BCP関連ツール、補助金など)を活用して、BCP(事業継続計画)策定を実施してはいかがでしょうか?