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中期経営計画策定のメリットと作成手順

中小企業診断士 中川 健史(なかがわ  たけし)

1.何故「中期」経営計画なのか

 経営計画を簡単に定義すると、「目標を達成するための具体的な取り組みをまとめたもの」といえますが、その目的によって項目やフォーマットも異なり、形が見えづらいところがあります。また、経営計画は3~5年程度の目標を定めた「中期」経営計画が一般的ですが、何故中期なのでしょうか。
 その理由として、短期や長期の経営計画に比べ将来の目標を見据えつつも現実的な視点で立案できる、バランスに優れた計画を立てやすい点が挙げられます。
 短期は1年程度の期間を見据えた計画になりますが、目先の現場観を踏まえた計画策定がしやすい反面、成果獲得優先になりやすい難点があり、成長のために事業の本質を追究したり、会社の競争力を強化したりといった目標を立てるには短すぎる問題があります。
 一方、長期は10年程度先を見据えた計画になりますが、じっくり会社の土台を強固にするという考えでは優れる反面で仮定部分が多くなり、計画全体に具体性が欠けてしまう問題があります。また、計画策定から実行の間に世の中の環境や経済状況が変化して、当初の前提が現状にフィットしなくなりやすい点もあります。
 これらの難点を解消しながらも、目先だけを追わず、具体性も確保して段階を踏んだ成長を目指しやすい設定期間として中期が一般的であると考えられます。

2.経営計画策定のメリット

(1)経営の安定化が図れるようになる

 では、経営計画を策定するメリットについて考えてみますが、第1に経営の安定化を図れることがあります。
 何より中期的方針があることで、目先の環境変化が生じた場合でも、状況が落ち着けば元の状況に戻しやすいことが考えられます。また、会社がどのような成長を遂げるのかという目標もあるので、環境変化に左右されにくい経営体質確立の基礎を創ることができます。
 更に、経営者の頭の中にある「想い」の部分も計画書の中で見えるようになり、具体的取組内容としても落とし込まれますので、経営者の意図に合った活動が実践しやすくなります。 加えて、経営計画が実行される結果、他社とは異なる方向性や方針が確立され、同業他社との差別化や、新規性のある取り組みが推進されることもメリットとして挙げられます。

(2)対内的・対外的な信用を得られやすくなる

 第2に対内的・対外的な信用を得られやすくなることがあります。
 人から信用を得るポイントとして、相手に自分のことを良く知ってもらうことが大切だといえますが、これはビジネスにおいても同様です。
 対内的には、目標を明確にして従業員と共有することが、組織として効率的な活動の基礎になるといえますし、対外的にも協力者と方向性を共有して共通認識を持つことが、効果的に成果を上げる近道になるでしょう。そのツールとして経営計画は有益で、信用獲得のために不可欠なものといえます。
 また、経営計画は金融機関の理解が得られやすくなるというポイントもあります。
 金融機関は会社が使う予定の資金について融資しますので、資金使途が不明瞭では融資を受けることは難しいといえます。しかし、経営計画によって計画的に資金を何にどれだけ使いたいのかが明示して、投資成果もどの程度期待できるのか見せられれば、金融機関も回収可能性が把握しやすくなり、融資に前向きに検討してもらえることが期待できます。

(3)補助金申請の基礎になる

 第3に補助金申請の基礎として有効活用できることがあります。
 補助金は国や地方自治体などから様々なものが出ていますが、それぞれの補助金には目的があり、何故その補助金が出ているのかを理解しないと採択は難しいといえます。
 それに対して、経営計画という会社の「幹」にあたるものがあれば補助金の意図も掴みやすくなり、申請時の事業計画書も筋の通った身のある内容にまとめやすくなります。
 補助金は手間もかかりますが、会社という1本の木の枝葉を伸ばすための栄養になりますので、経営計画をベースにして積極的に挑戦してみてください。

3.経営計画策定の手順

(1)まずは現状把握と環境分析から

 続いて、経営計画策定手順の説明ですが、第1に現状把握と環境分析が挙げられます。
 「計画策定に現状把握?」と思うかもしれませんが、経営計画は会社の成長を目指すためのツールと考えると、現状把握がなければ的確な計画を立てることが難しいと分かるでしょう。つまり、成長を目指す土台として現状把握は必要になります。なお、現状把握の主な要素としては、「会社の沿革」「取扱商品・サービス」「業績の推移」などが挙げられます。
 次に、環境分析も重要な要素です。市場動向が把握できないと成長分野が見えませんし、自社の強みや特長を知らなければ効果的な成長戦略を立てることは難しいでしょう。また、環境は社会全般など外的要因に起因する「外部環境」と、会社が保有している内的要因に起因する「内部環境」とに分類されます。
 「外部環境」を分析する意義には、トレンドや法規制などを再確認して今の世の中がどのような状況にあるのか把握し、社会が要求している方向や、顧客が感じている既存の商品やサービスに対する困りごとなどを洗い出すことが挙げられます。
 また、「内部環境」を分析する意義には、過去に会社が積み上げてきた経験やノウハウを洗い出して、外部環境に沿って商機がどこにあるかを見つけ出すきっかけにすることが挙げられます。
 以上、現状把握と環境分析が進むと、次第に解決するべき課題が見えてきます。この課題を認識し、解決する方策を考えて実践することが、現状から見た経営計画の骨子になります。

(2)目標設定とギャップの確認

 第2に目標設定とギャップの確認が挙げられます。
 経営計画に目標設定が必要なことはイメージできると思いますが、ここでいう目標とは売上や営業利益などの数値による「定量的目標」のほか、取り組みの結果、会社や顧客や社会が得られる効果・メリットといった「定性的目標」もあります。
 また、目標の達成に伴い充足されるものに「経営資源」という考え方があります。言い換えると会社の成長は経営資源をどれだけ充実させるかがポイントになるといえます。
 経営資源は一般的に「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」の4つの要素に分類されます。例えば、資金(カネ)が充分にあっても設備(モノ)が不足していると会社のパフォーマンスを最大限発揮することは難しいでしょうし、顧客リスト(情報)を多く保有していても、顧客に的確にアプローチできる人材(ヒト)が不足していては成果も上がらないでしょう。
 このように、経営資源で不足しているものをギャップとして捉え、底上げを図るための方策を練って実践していくことが、将来像から見た経営計画の骨子になります。

(3)テーマと具体的取組内容の設定

 第3にテーマと具体的取組内容の設定が挙げられます。
 具体的取組内容の検討を進めると通常複数の取組項目が出てきますが、これらの項目に統一感がないと、効率的に取り組みを進める障害になってしまいます。
 そこで、経営計画にはメインテーマを設定し、取り組みの方向性に統一感を持たせることが有効です。なお、テーマは冗長な表現を避け、スローガン的に30文字程度でまとめると意識の共有が図りやすくなります。
 メインテーマが決まったら、それに沿って実践する具体的取組内容を洗い出します。ここでは「顧客開拓のためのサービス開発」「プロモーション強化による集客力向上」などといったサブテーマを立て、それを達成するための実施項目を更に洗い出し、実施時期も定めて体系的に形を整えていきます。
 経営計画の期間内に取り組む項目まで洗い出しが完了したら、改めて計画の全体像を見返して、内容に妥当性や実現可能性が見て取れるか確認をしてください。
 経営計画はあくまで目標を定めた未来図であり、そこには不確定さを感じる部分もありますが、妥当性や実現可能性が感じられるものにすることで、会社としての成長を目指した行動を進める意欲が生まれてきます。

4.まとめ

 情報が広く迅速に入手でき、環境の変化も激しい現代では、ビジネスの「今まで通り」は衰退を示すことともいえます。
 中小企業も例外ではなく、成長のために先を見据えて、計画的な取り組みを進めないと、世の中からどんどん取り残されることにもなりかねません。
 経営計画策定は、現在の会社の課題を詳らかにするものでもあり、耳の痛いところもありますが、現代社会においては会社の成長を目指す重要な羅針盤としての位置づけが大きくなっていますので、ぜひ着手してみてください。

・参考
経営革新計画(東京都)
https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/chushou/shoko/keiei/kakushin/

東京都中小企業振興公社専門家派遣制度
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/shien/specialist/index.html