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成長を目指す企業の利益と税金

中小企業診断士 稲垣 裕充(いながき ひろみつ)

1.「経営の原則は売上を最大に、経費を最小にすること」
 これは京セラやKDDIを創業しJALの再生を成し遂げた稲盛和夫さんの言葉です。お小遣いをもらっても無駄遣いせずに貯金をして、欲しいものを買う時のために取っておこう、という風に小学生にも理解しやすい、非常にシンプルな商売の原則の一つだと思います。
 でも、利益がたくさん出れば税金をたくさん支払わなければいけないので、利益を少なくして支払う税金を少なくしたいと考えている経営者の方は多いのではないでしょうか?  
 ここで一旦、支払う税金のことを考えるのと同時に、税金を支払った後に残るお金はどうなるのか確認してみましょう。

2.税金を支払った後に残るお金
 法人の場合、売上から税金以外の企業の運営に必要な経費を差し引くと税引前当期純利益という税金の計算のもとになる利益が残ります。この税引前当期純利益の、おおよそですが4割程を税金として支払い、残り6割程が最終的な税引き後の純利益になります。

 ここで、税引前当期純利益が300万円だったとした場合、
300万円×40%=120万円を税金として支払い、残り180万円が会社に残ります。
 それでは、税引前当期純利益を100万円まで少なくしたらどうなるでしょうか?
100万円×40%=40万円を税金として支払い、残り60万円が会社に残ります。

 税金は確かに120万円から40万円に、80万円減りました。
一方で、企業に残るお金は180万円から60万円に、120万円も減ることになります。つまり、税金の減少額80万円に対して、会社に残るお金の減少額は120万円と税金より40万円も多く減ってしまうのです。

 

 この税金を支払った後に残るお金(配当をおこなう場合は配当金を除いた部分)を内部留保といい、自力で作ることができた返済の必要のない資金になります。
 元となる税引前当期純利益をざっくり4:6で分けた6割部分のため、税金を減らせば内部留保はそれ以上に減り、税金を多く支払えばより多くの内部留保を確保できることになります。つまり、税金を支払わずに内部留保を確保することはできない構造になっています。

3.内部留保は返済不要の安全な資金
 企業は事業に必要なお金を、資本金や内部留保の積み上げといった『返す必要のないお金(純資産)』と、金融機関からの借入金などの『返す必要のあるお金(負債)』の、大きく二つの方法で調達して、経費等を支払い、在庫や債券、設備その他の保有に使います。
 『返す必要のあるお金(負債)』と『返す必要のないお金(純資産)』のどちらが安全なお金の調達方法かといえば、毎月利息を支払いながら返済によって口座のお金がどんどん減っていく負債よりも、返す必要のない純資産の方が断然安全です。
 返す必要のない純資産を増やすことで、リーマンショックやコロナ禍といった今後も起こりうる危機に際して、借りなければいけないお金が少ない分だけ会社が生き残る可能性が高くなります。
 事業を拡大する際に金融機関からお金を借りる時にも、内部留保の積み上げの結果である純資産が多ければ、会社の信用力を高く評価してもらえることから希望する額の融資を受けられる可能性が高くなります。

4.企業の健全な成長

 上の図は内部留保による企業の成長パターンを、決算書の損益計算書と貸借対照表で表現してみたものです。
 簡単に、損益計算書と貸借対照表について説明しますと、
 ・損益計算書とは、売上から仕入や各種の経費を差し引き、いくらの利益が残ったかを表したものです。
 ・貸借対照表とは、返す必要のないお金(純資産)と返す必要のあるお金(負債)の二つの方法で調達した資金(右側)が、どのような資産に形を変えた上で現預金がいくら残っているか(左側)を示したものです。
 番号順に読んでみると、➀税金を支払った後の利益が、②返済不要の資金として純資産に組み込まれ、③純資産が大きくなることで高い信用力を獲得して多くの融資を受けられる可能性が高まり、④店舗や工場、最新設備等に投資して保有する資産を増やし、より多くの仕入れを行ったり、従業員に働いていただいたりするなど経費を使いながら売上を獲得し、⑤売上・利益と資産がともに大きくなり健全に成長していく、といった流れになっています。
 逆に、税金を支払わないことで内部留保による『返済不要の資金』が調達できずにいると、信用力が高まらないことで希望する融資額が調達できず、成長スピードが遅くなるとともに、突発的な危機に際して企業が生き残る可能性が低くなってしまいます。

5.まとめ
 税金を多く支払う企業は、より多くの内部留保が可能となり、成長に向けた『返済不要のお金』を自力で調達することができるとともに、信用力の高い企業としてより多くの融資を受けられ、投資などに使うことができます。つまり、成長する企業は利益を出すことでしっかりと税金を支払っていると言えます。
 よく、返済不要のお金(純資産)を筋肉に、返す必要のあるお金(負債)を脂肪に例えて、筋肉質の財務体質を目指しましょうと言われます。人間は筋肉を増やさずに脂肪だけで体を大きくしても、すぐに疲れてしまい、健康にも良くありません。このことは企業も同じです。
 支払う税金に目が奪われてしまうのは仕方のないことかもしれません。でも是非、企業に残る内部留保にも注目していただき、必要な経費を賢く使い、控除制度、非課税制度、免税制度などを可能な限り活用することで節税をおこなってください。そのうえで利益をより多く生み、突発的な危機にも耐えられるよう内部留保により筋肉質の体づくりを心がけながら、健全な成長を目指していただきたいと思います。