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強い会社を作ろう!

中小企業診断士 荒谷 司聖(あらたに もりまさ)

 会社は「人、もの、金、情報」といった経営資源に支えられています。大企業では多くの人が働き、たくさんの「もの、金、情報」が動いています。こうした経営資源は一般に多いほど良い、強いと言われるわけですが、量さえあればよいというわけでもありません。特に会社の礎である「人」は1人1人の質が重要です。実際、多くの会社は金という資源を、例えば研修という形で人に投入し、1人1人の質を高めることでより強い会社になることを目指しています。
 では「強い会社」とは何でしょうか。確かに多くの経営資源を持つ会社は強い会社と言えそうですが、以前は弱い会社だったのでしょうか。それともある時点で一定以上の資源を持つようになり、強い会社と呼ばれるようになったのでしょうか。

強い会社とは
 私の知る限り「強い会社」とは「仕事を自分ごとと捉える人が多くいる会社」です。逆に「仕事を自分ごとと捉えられない人が多い会社」は弱い会社です。「自分ごとと捉える」とは、頭の中で仕事とプライベートを結び付けて行動できるということですから、小さくても強い会社というのはあり得ますし、大きいのに決して強いとはいえない会社もあるわけです。つまり、いまある大企業は規模が小さい頃から強かった、逆を言えば強い会社だからこそ大きくなれたのだと思います。
 強い会社は社員が自発的に動くため、何をやらせても素早く、成功率、継続率も高いのが特徴です。弱い会社は取組みの主旨を理解していない人が多いため、自ずと指示待ちになり何をやるにも時間がかかりますし、大事な取組みが自然消滅してしまうことも少なくありません。
 多くの経営者は自律的、主体的に考え、なんでもやってくれる「人財」を求めています。でもちょっと考えてみてください。経営者のやりたいことをはじめから理解し、動いてくれる人などいるでしょうか?
 いわゆる「人財」に出会える確率など、限りなくゼロに近いと思うべきです。そもそも「人財」は育ててはじめて得られるものであって、はじめはみんな「人材」だと考えなければなりません。「人財がいない」と嘆いたり、「会社は学校じゃない」などと毒づいたりしていないでしょうか。育てることを放棄し、「自分でやった方がマシ」などと言い、全てを自分でやってしまっていてはいつまでたっても強い会社にはなれません。

シゴトの自分ごと化
 会社を強くするために必要な、仕事を自分ごとと捉える意識改革を私は「シゴトの自分ごと化」と呼んでいます。どんな場合も最後は当人の意識次第ですが、それを引き出しやすくする環境づくりは経営者にもできることです。そこで以下では自分ごと化を進めるアイデアを4つ紹介します。

1.2つ褒めて1つ求める
 アドバイスはその内容以前に、いつ、どこで、誰に、どのように受けるかが重要です。いかに格好いいアドバイスもそれがその後のアクションにつながらなければ意味がありません。アクションにつながらないアドバイスはただのノイズであり、受け手のみならず送り手にもかなりのストレスとなります。受け手の行動を促し、成長につながるアドバイスであるためには「この人の言うことを聞いてみよう」と思ってもらえる土壌が必要なのです。
 そうした土壌づくりに必要なのは「1つを求める前に2つ褒めるコミュニケーション」です。アクションにつながるアドバイスであるためには、まず2つ褒めることが大切なのです。単なる愚痴や小言、文句ではなく、真に相手の行動を求めるなら1つのアドバイスの前に2つ褒めることを心がけましょう。もし褒めることが得意でないなら、相手に関心を持ち、良いところを探すことから始めてみましょう。
 私は褒めるだけで人が育つとは思いませんが、褒めることが土となってアドバイスの有効性が高まり、花が咲き実をつけるのをたくさん見てきました。土づくりは自分ごと化の第一歩であり、送り手側の意識次第でできることですから、やらない手はありません。

2.事業計画を個別計画に落とし込んで見せる
 ビジネスの世界では「自社の立ち位置」を知ることがとても重要です。取引先や競合との位置関係はもちろんですが、それ以上に重要なのは、「自分たちがやろうとしていたことを正としたときに、いま自分たちがどこにいるのか」、つまり思い描いていたビジョンに対してどれくらいのところにいるのか、ということです。これがわからなくなってしまうと、次に目指す方向すらわからなくなり社員は不安になります。そんな状況では自分ごと化など夢のまた夢です。
 ビジョンを具体化した事業計画を、さらにもう一段ブレイクダウンしたものが「個別計画」です。ビジョン実現のために、誰が、何を、いつまでにやるのか。一人一人が何をすべきなのかのお手本を見せることで、自ずと自分ごと化が進みます。

3.評価制度を見直す
 「何をすべきか」を示すのに加え、「会社として何をどれだけ評価するか」という重みづけを形にしたものが評価制度です。やりがいや良好な関係性だけで期待通りの働きを見せてくれれば経営者としては最高にハッピーですが現実はそうもいきません。やはり報酬というニンジンを用意することも必要なのです。
評価制度が目指す方向と噛み合っていないと、例えば「安売りをしない」という会社方針を無視して売上実績を上げる営業マンを高く評価してしまうなどの事態が起こります。結果「うちの会社は言っていることとやっていることが違う」となるわけです。そんな会社の仕事を自分ごと化するなどというのはちょっと考えにくいですよね。

4.ライフプランを立ててもらう
 全社員に自身のライフプランを作る機会を提供している会社もあります。あくまで業務の一環としてプライベートの将来を考える時間を与えるわけです。住宅ローンについて学んだり、結婚、出産、育児、介護などのライフイベントと会社業務をどう折り合いをつけていくかを考えたり、どういう立場になればどれくらいお給料をもらえるのかをシミュレーションしたり、まさに仕事と自分ごとを結び付ける時間です。
 おそらく社長は「仕事を自分ごとと捉えてくれれば経営に良い影響を及ぼす。それだけの時間を割いても十分に元が取れる」と考えているのだと思います。なおその会社では保険会社の協力を得て、年に1度、年始にそうした場を設けているとのことでした。

■自分ごと化できない人への対応
 自分ごと化が十分にできていない人は時に評論家やリスクばかり強調する人に変貌します。評論やリスク指摘には一定の正しさも含まれており、「色々と考えている感」も出せるので賢げに見えるのがまたいけません。それに感化される人も出てくるので厄介です。
 そういった人々は会社のことを何も考えていないわけではないので、「自分ごと化できずに立ち止まっている」ことに気づいてあげる必要があります。皆から煙たがられつつあっても、いきなり排除したりせず、もう少し自分ごと化してあげられないか考えてみてください。

■最後に
 そもそも誰かに何かをしてもらうというのは大変難しいことです。ましてや具体的な指示を与えるでもなく、自ら考え行動してもらい、しかもそれなりの結果を求めるというのはかなりの無理ゲー(難易度が高すぎてクリアするのがほぼ不可能なゲーム)です。逆に「これこそ経営者の醍醐味!」というくらいの気持ちをもって、強い会社を作っていきましょう!