千代田区の外郭団体
公益財団法人まちみらい千代田 公式ウェブサイト

文字サイズ
標準 拡大
サイト内検索
お問合わせ
中小企業応援リレーコラム
お役立ちコラム

成功者から学ぶこと

中小企業診断士 三浦 英晶(みうら ひであき)

 成功した起業家は、どのような意思決定をし、どのような思考プロセスを経ていたのか。このことについては、統計結果(論文)が発表されています。その統計結果である、サラスバシーという学者が提唱した「エフェクチュエーション」には、成功した起業家の特徴が「4つの原則」と「1つの世界観」としてまとめられています。

❝4つの原則❞と❝1つの世界観❞
 ・原則1:「手中の鳥」の原則(Bird in Hand)
 ・原則2:「許容可能な損失」の原則(Affordable Loss)
 ・原則3:「レモネード」の原則(Lemonade)
 ・原則4:「クレイジーキルト」の原則(Crazy-Quilt)

 ・世界観:「飛行機の中のパイロット」(Pilot-in-the-plane)

 では、これらの❝原則❞と❝世界観❞の内容を見ていきましょう。

原則1:「手中の鳥」の原則
・「目的」ありきでなく「手段」ありき → 経営資源の棚卸し

 この原則は、「目的」ありきでなく「手段」ありきで、成功した起業家は意思決定・思考する傾向が見られた、ということです。まず「目的」を定め、その目的のために必要な手段を揃えていくのではなく、既にある「手持ちの手段」で、きることから始める、このことのメリットは「すぐに始められる」というスピード感でしょう。
 そのためには「手持ちの手段」として、自分ができること、自分のネットワークでできることは何かを明確にしておく必要があります。これは、言い換えると「経営資源の棚卸し」をすることです。多くの中小企業・小規模事業者は、経営資源(人材、設備、資金、情報など)が非常に少ない中で、豊富な経営資源を有している大企業・大手企業と戦い、自身が思い描く事業を実現していかなければなりません。中小企業・小規模事業者は、何かを始めようとした場合に、大企業・大手企業のように必要なものをすぐに全て揃えることは困難な場合が多いでしょう。全て揃ってから始めよう、という時間感覚では、変化の激しい世情では、商機を逃してしまう確率が高まることになります。この原則は、正に多くの中小企業・小規模事業者に適した考え方ではないでしょうか。

■原則2:「許容可能な損失」の原則
・「成功」ありきでなく「失敗」ありき
        → 「ハイリスク・ハイリターン」ではなく「ろーりすく・ローリターン」

 この原則は、「成功」ありきでなく「失敗」ありき、という傾向です。現在のような不確実性の高い状況下では、成果が出るかどうかは、実際にやってみないと分からない、というケースが多くなります。その場合、仮に失敗したとしても、許容可能なのかどうかを基準に考え、意思決定することが望ましいと考えられます。
 例えば、「1,000万円つぎ込んで失敗しても次の事業に取り組めるけど、5億円つぎ込んで失敗したら破産すことになるからやめておく。」といった資金的な許容基準や、「1年間限定でやってみるけど、それでうまくいかなかったらすぐにやめる。」といった時間的な許容基準、「この事業がうまくいかなかったとしても、周りの人から“また一緒にがんばれはいいよ”と言ってもらえるけど、これで失敗したら全ての人からの信用を失うからやめておく。」といった信用的な許容基準などが考えられます。
 これらは、言い換えると「ハイリスク・ハイリターン」を狙うのではなく「ローリスク・ローリターン」を狙うことに近いでしょう。

■原則3:「レモネード」の原則
・「アクシデント」を活用する → 失敗は成功のもと

 この原則は、「アクシデント」を活用する、という傾向です。不確実性の高い状況下では、予測できない事態は必ず起こる、ということを前提にした場合、失敗も発想の転換次第で、新しい製品・サービスのアイデアになる、という考え方です。失敗したことで、思わぬ大発見をした、という話は珍しくはありません。
 これは、昔からの言葉の「失敗は成功のもと」と同じ考え方ではないでしょうか。

■原則4:「クレイジーキルト」の原則
・「パズル」ではなく「パッチワーク」
        → 当初の想像を超える結果(より良い商品・サービス、より良いビジョン)

 この原則は、「パズル」でなく「パッチワーク」、という傾向です。“あなたは自社の顧客”とか“あの会社は自社の競合だから”といった、「自社」「顧客」「競合」という固定概念で区別することなく、つながれる人であれば全ての人・企業がパートナーになり得ると考え、積極的につながり、その人・企業が有する資源を柔軟に組み合わせることで、価値を生み出していくことです。
 このことで、自社だけではなし得ないと思っていた結果や、当初の想像を超える結果(より良い商品・サービス、より良いビジョン)が得られる可能性が高まります。

●世界観:「飛行機の中のパイロット」
  *エフェクチュエーションの考え方全体に通じる世界観
・「予測する」のではなく「コントロールする」

 これは、エフェクチュエーションの考え方全体に通じる世界観で、「予測する」のではなく「コントロールする」という思考です。不確実の高い状況下では、その時々の状況に応じて、パイロットのように方向を調整していくことが肝になる、ということでしょう。

 固定概念にとらわれず、「水の如く」柔軟に対応できるかどうか。状況は、日々、刻々と変化しています。今日の状況によって、昨日までの考え方・やり方を即座に変えることができるか。これらの考え方は、大企業・大手企業よりも柔軟な意思決定を即座に行うことができる中小企業・小規模事業者に適したものではないでしょうか。