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社会価値を高めた企業の実例

がんばる中小企業応援リレーコラム
~ 企業の社会価値を高める ~

第1回 社会価値を高めた企業の実例

中小企業診断士 三浦英晶(みうら ひであき)

 東日本大震災以降、人々の価値観が大きく変化したといわれています。“消費”という1つの面を見ても、自分中心の消費から、人との“絆”を大切にするための消費へと変化が見られました。そして大きな変化として、学生から社会人までさまざまな人が、ボランティア活動やNPO活動へ積極的に参加するようになりました。そしてまた企業においても“社会価値”を高めることへの意識が高まっています。企業が活動を行う主となる目的が、“利益を追求する”ことから“社会的に課題となっていることを解決する”ことへの変化が見られます。

 
 もちろんこのような流れは東日本大震災以前も見られたことですが、これまでの慈善活動のような企業の事業活動とは別途な取組みから、自社の事業を通じて積極的に社会的な課題を解決していこうという取組みにシフトしてきている感があります。これは決して、“利益を追求しない”のではなく、逆に社会価値を高めることで、それを企業としての強みにし、社会と企業の双方に価値を生み出すことにつながっていくのです。本コラムでは、このような社会価値を高める取組みについて、事例や解説などを交えてお伝えしていきます。
 第1回目の今回は、2つの企業の事例をご紹介します。

■事例1 -探偵がいじめをなくす-

 合名会社T.I.U.(T.I.U.総合探偵社)

 T.I.U.総合探偵社(以下T.I.U.)は、詐欺調査、ストーカー調査、行方調査、DV調査、企業の取引先調査など、さまざまな調査を行う探偵社です。日々、調査依頼が舞い込む中、約10年前に子供のいじめに関する調査の依頼を初めて受けることになりました。

 2012年度のいじめの認知件数は、全国で約20万件に上ります(文部科学省「平成24年度 児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」より)。さらに学校や周囲からも見逃されているいじめを含めると、いじめは日常的に存在しています。また、「子どものいじめ」という名に隠された「悪質な犯罪」が増加しています。これは、女子生徒が女子生徒に援助交際を強要し、得たお金を奪う。集団でかつあげを繰り返し、特定の児童から多額の金銭を強盗する。小学生間でも起きている集団レイプなど、いじめを超えた「犯罪」です。さらに、インターネットを使って24時間続く悪口、仲間外れなど、精神的に過酷で執拗ないじめも存在します。近年は携帯電話の普及により、口止めの手法も巧妙化し、教師や親からは発見が難しいケースが増えています。自殺の要因については、学校での問題が特定されている自殺者数は年間180人に上り(警察庁「平成24年中における自殺の状況」より)、家庭問題や男女問題を大きく上回り最大の要因となっています。

 このように、いじめは陰湿で根が深く、表には出てこない複雑な事情が絡んでいます。だからこそ、探偵としての調査の知識・ノウハウが活かせる分野なのです。T.I.U.の代表・阿部泰尚氏は、いじめ問題の重要性に気づき、子供からの相談に無料で対応し、必要であれば現場に出向き直接介入を行ってきました。また、いじめを受けた子供は非常にデリケートで、その後のケアも問題解決の重要な要素となります。日本メンタルヘルス協会公認カウンセラーでもある阿部氏は、現場介入後、“いじめられない子”に立ち直るためのケアまでもボランティアで行うケースもありました。

 このような活動が徐々に話題となり始め、2013年には「いじめと探偵」(幻冬舎新書)を出版することになり、これがきっかけとなり数多くのテレビ・新聞・雑誌に取材を受けるようになりました。そして、2014年に、公益財団法人日本財団が行う寄付金事業「夢の貯金箱」にT.I.U.のいじめ対策事業が採択され、これまでボランティアで対応していた案件を会社の収益となる事業として行うことができることになりました。
 現在、T.I.U.は、いじめ問題に取り組む専門団体「ユース・ガーディアン」を立ち上げ、T.I.U.の持ついじめ解決のノウハウをより多くの人に広め、いじめ解決の専門家を育成する取組みや、いじめのない社会を実現するための仕組みを作る活動をスタートさせています。

*公益財団法人日本財団 / 夢の貯金箱 http://yumecho.com/ 

■事例2 -立てなかった高齢者が一人で立つ-

一般社団法人ケア・ウォーキング普及会

 健康運動指導士の資格を持つ黒田恵美子氏は、病院では生活習慣病予防改善のための運動指導を行い、企業、官公庁、保健所、地方自治体などさまざまな場所では、ひざ痛腰痛予防、生活習慣病(メタボリックシンドローム)予防、脳卒中リハビリ、介護予防のための講座や指導を行っています。また、痛みの起こらない体の使い方、体の修正法を自ら考案し、健康で美しく歩くことを目的にした「ケア・ウォーキング(正しい歩き方)」を提唱、「ひざ痛がとれる! 出かける前に1分“ひざちゃん体操”」(かんき出版)など多数の著書を出版し、某スポーツメーカーのウォーキングシューズの開発や、各種健康グッツの開発にも関わっています。

 日本はWHO加盟国の中で世界一の長寿国となっており、なかでも日本人女性の平均寿命は世界最長で87.0歳です(日本人男性の平均寿命は世界第8位で80.0歳)。しかし、健康寿命(日常的に介護を必要としないで、自立した生活ができる生存期間)は、男性で約70歳、女性で73歳であると言われています。高齢化社会が問題となる中、約10年~14年は健康的な生活が送れていないことが見てとれます。このことは、医療費の増大、ひいては国の借金の増大、その財源確保のための増税など、さまざまな問題の要因となっています。

 黒田氏は、当初は通常のフィットネスのインストラクターでしたが、自分自身が無理なスポーツをすることによって体を悪くした経験から、“正しいからだの使い方を知らないまま無理な運動や動作を続けてきたことによって、からだに痛みや不調を抱える方がたくさんいる。そういった人をなくしたい。”という思いから、健康運動指導に傾倒していくようになりました。
 黒田氏の、“無理のない、正しい姿勢と動作を用いて「いたまず・健康で・うつくしい」からだをつくる”という手法により、一人ではベッドから立ち上がれなかった高齢者が、体の使い方を1つ知ることだけで、特別なことをしなくても立ち上がることができるようになるケースは少なくありません。一人で立ち上がって、歩けるようになれば、寝たきりよりも健康寿命がはるかに長くなります。
 このような活動は、高齢化社会への対応、医療費の削減、健康寿命を延ばすことに直結しています。

 しかし、このような活動を本格的に行っている指導士は非常に稀で、黒田氏も、自分が地道な活動を一人で続けていけばよいと考えていました。ただ、黒田氏への仕事のオファーは年々増加し、周りからも「こんなに素晴らしいノウハウを一代で終わらせてしまうのは惜しい」という声が高まってきました。
 そして、黒田氏も自分と同じような指導が行える指導士を増やし、ノウハウを継承する活動を本格的に始める決意をし、2014年に“一般社団法人ケア・ウォーキング普及会”を設立しました。この法人では、黒田氏が考案した手法のうち、だれでも簡単に指導できるようなものに関して、薬局など高齢者に身近な場所で広められる体制を築いていく活動を賛同していただいたスポンサーと共に行っていく予定です。そして並行して、黒田氏のような本格的なアドバイスのできる指導士を育成していきます。

 企業の隠れた社会価値が収益に結び付き、さらに自らの社会価値をさらに高めるためにビジネスを拡大させた例をご紹介しました。