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企業の成長の方向性を決める

中小企業診断士 三浦 英晶(みうら ひであき)

がんばる中小企業応援リレーコラム
「中小企業の成長戦略」

「経営は、下りのエスカレーターを上るようなもので、常に上っていなければならない。立ち止まったらどんどん下っていく。」と例えられるように、企業は常に新しいことにチャレンジし続けなければ、いずれ衰退してしまいます。また、近年は業績が上向いている企業も増加し、私の周辺でも新規事業をスタートさせる企業が増えていると感じています。そこで、本年度のリレーコラムでは、「中小企業の成長戦略」についてお伝えしていきます。

企業が、何か新しい取り組みを行う場合、どのように戦略を組み立てればよいのでしょうか?

「経営戦略の父」と呼ばれるアメリカの経営学者、イゴール・アンゾフ(H. Igor Ansoff)は、企業の成長戦略の基本型として、「アンゾフの成長ベクトル」を提唱しました。これは、企業の今後の方向性を考える際の“考え方”です。「アンゾフの成長ベクトル」では、企業の成長戦略を、“製品”(商品、サービスも含む)と“市場”の2つの軸に分類し、その2つの軸をさらに“既存”と“新規”に分け、4種類に類型化したものです。「アンゾフのマトリックス」、「製品・市場マトリックス」などとも呼ばれています。

今回は、この「アンゾフの成長ベクトル」をベースに、企業の成長の4つの方向性をご紹介します。

1.市場浸透戦略

 「市場浸透戦略」は、企業が既に提供している製品(商品、サービス)の、既に販売(提供)している市場でのシェアを高める成長戦略です。この戦略では、広告などの販売促進、ブランド力の向上を通してシェアの拡大を目指したり、一般顧客をロイヤルカスタマー(優良顧客)へと変えることを目指します。

 例えば、ラーメン屋のケースで考えてみましょう。そのラーメン屋が、ボリューム満点・こってり豚骨系で、食欲旺盛な若い男性(学生、20歳代の社会人)に人気がある店であったとします。このラーメン屋の「市場浸透戦略」としては、階級のある会員制度を導入し、ポイントの付与、さらに上位の階級には特別な特典(通常メニューにないトッピングが付くなど)などを提供することで、既存顧客のリピート率を増やすことなどが考えられます。

2.新製品開発戦略 

 「新製品開発戦略」は、既に販売(提供)している市場に、新しい製品(商品、サービス)を投入する成長戦略です。この戦略では、今まで自社にはなかった全く新しいコンセプトの製品を開発したり、より高機能・高品質な製品、同じ機能でもより低価格な製品を開発することで成長を図ります。

 上記のラーメン屋の「新製品開発戦略」としては、激辛ラーメンを開発したり、贅沢な食材を使用した“プレミアム豚骨ラーメン”を開発したりすることなどが考えられます。

3.新市場開拓戦略

 「新市場開拓戦略」は、既に提供している製品(商品、サービス)を、新しい市場に投入する成長戦略です。この戦略における“新市場”には、2つの考え方があります。1つは、地理的に新しい市場(新しい場所、地域)という考え方、もう1つは、客層的に新しい市場という考え方です。

 上記のラーメン屋の「新市場開拓戦略」としては、他の都道府県への2号店の出店、ニューヨーク店の出店や、ハイセンスな女性をターゲットとしたラーメン屋の出店などが考えられます。

4.多角化戦略

 「多角化戦略」は、新しい製品(商品、サービス)を、新しい市場に投入する成長戦略です。企業にとってはこれまで蓄積してきた市場や製品から離れた分野に進出することになり、前述した戦略(1~4)の中では最もリスクが高い戦略となります。ベンチャー企業(これから起業する場合)にとっては、経営そのものが「多角化戦略」になると言えます。

 上記のラーメン屋の「多角化戦略」としては、高級住宅街にマダムをターゲットとしたパスタ店を出店することが考えられます。この場合、これまで培ってきた飲食店を経営するノウハウ、ラーメン屋ならではの麺料理のアイデアなど、これまでラーメン屋であった強みをどう活かすことができるかが課題となるでしょう。

 「多角化戦略」には、“多角化”のレベルが存在します。ラーメン屋の「新製品開発戦略」として「贅沢な食材を使用した“プレミアム豚骨ラーメン”の開発」を例にとりましたが、この場合も、 “プレミアム豚骨ラーメン”を目当てに来る顧客は、既存の顧客よりもより食通ので、お金に余裕のある層にかわる可能性もあります。同じように、「新市場開拓戦略」として「ニューヨーク店の出店」を行う場合は、アメリカ人の味覚に合うラーメンを開発することになるでしょう。このように、「新製品開発戦略」「新市場開拓戦略」であっても、厳密にいえば(広い意味では)多角化戦略なのです。あくまでも既に行っている事業の製品や市場との関連が浅い場合に、リスクの高い「多角化戦略」と位置づけています。

 今回は、企業の成長戦略の4つの方向性についてお伝えしてきました。本年度のリレーコラムでは、以後4回にわたり、その4つの方向性について、それぞれの例を交えてご紹介していく予定です。