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海外進出による成長

中小企業診断士 安井 哲雄(やすい てつお)

がんばる中小企業応援リレーコラム
「中小企業の成長戦略」

「中小企業の成長戦略」第3回目は「新市場開拓戦略」と題してコラムをお届けします。

 本リレーコラムでは、アンゾフの成長戦略の市場浸透戦略、新市場開拓戦略、新製品開発戦略、多角化戦略を基に、中小企業の成長戦略を考えてきました。
 現在の日本は、製造業の海外移転による国内の空洞化、低い経済成長、少子高齢化と人口減少が進み、国内市場は縮小し閉塞感があります。この状況下で新市場開拓戦略として、経済が成長し市場が拡大している海外市場への進出が増えています。

1.海外進出とビジネスチャンス

 海外進出には色々なステップと形態があります。

 最近では、「海外進出」は上記の4. 5. 6.7の投資進出の意味で使用されることが多いようです。また、近年の特徴としては、①地方の中小企業の増加、②(資金や社員・人材の乏しい)小規模企業の海外進出、③サービス業や流通業等の非製造業の増加―が挙げられます。
 上記の③非製造業では、例えばアジアの新興国でラーメン店や寿司店、コンビニ・スーパー等の進出が増えました。この背景には、各国の消費者市場の拡大に加えて、サービス業・流通業分野で外資に対する投資規制の緩和・撤廃があります。

2.海外進出の動向

 <帝国データバンク・中小企業の海外進出動向調査報告-2015年調査、海外進出している797社の回答集計>によれば、近年の海外進出の動向は以下のとおりです。

  • 国内中小企業の海外進出先としては、「中国」が 73.7%でトップ。次いで「タイ」が 36.0%。日系大手製造業およびその関連企業は引き続き中国事業への注力を続けるであろう。TPP 加盟により輸出型製造拠点としての存在感が高まるベトナム、日系製造業の生産拠点が集積するタイ、人口が多く消費市場としても注目されるインドネシアなどを、次の進出先と目する企業が多い。(筆者注:現在、米国の政策によりTTPは先行き不透明です。)
  • 尖閣諸島問題に端を発する大規模な反日デモや中国経済の減速などを受けて、「チャイナ・プラスワン」ではなく脱中国、もしくは初めから中国以外の国・地域を第一進出先とする動きが、 中小企業にも見られ始めている。

  • 海外に進出した理由として最も多かったのは「海外での需要増」で 60.4%。「取引先企業の海外進出」の49.8%を上回る。


  • 海外事業の今後の展開方針としては、「拡大意向」が 52.5%、「現状維持」が41.9%、「縮小・撤退意向」が5.5%で、拡大意向の企業が過半数である。
  • 近年はこれらの国の人件費等も上昇傾向にあり、円安などで海外進出のメリットも以前に比べ減少しているが、少子高齢化などによる国内市場の縮小で今後の成長のカギを海外進出に求める企業はさらに増加していくだろう。

3. 公的機関による中小企業の海外進出への支援

 海外進出では、商習慣・商取引ルール、法律・制度、言語、文化等が異なり、不十分なコミュニケーション、許認可の不透明性や目に見えない壁があるため、海外取引の経験がない・少ない中小企業にとっては、国内市場よりも遥かに難しいのが現実です。アセアン、南アジアの新興国では、土地・道路・交通・電力・水などの社会インフラが整備されず、投資・貿易の規制、許認可の不透明性、汚職などビジネス環境が悪いケースが多くあります。また、海外進出を果たしたが、進出後に人件費の高騰、需要の減退、円安の進行、現地の原材料費や物流費の上昇、現地の人材確保の困難、競争の激化、品質安全確保の困難、労使紛争等、進出時に想定していない問題が起こるリスクがあります。
 このため、海外進出に際しては、事前に調査・検討し、十分な準備が必要です。しかし、初めて海外進出を図る中小企業では、①海外ビジネスができる人材がいない、②海外進出計画がない、計画が不十分、③資金の融資・調達が難しい、④進出先の調査が難しい、⑤ビジネスマッチングやネットワークづくりの方法がわからない、等の課題を抱えているケースがあります。
 日本政府では、JETRO(日本貿易振興機構)、中小基盤整備機構、NEDO、金融機関などが参加する新輸出大国コンソーシアム*において、海外展開を図る中堅・中小企業等に対して総合的な支援をしています。海外ビジネスに精通した専門家がJETROに配置され、専門家が個々の企業の担当となり、海外事業計画の策定、支援機関の連携の確保、現地での商談や海外店舗の立ち上げ等、サポートが行われています。また、JICA(国際協力機構)では、ODAを活用した中小企業の海外展開支援事業を行っています。更に、JETROとJICAが連携して中小企業の海外進出・展開を支援されるようになりました。
 海外進出では、商習慣・商取引ルール、法律・制度、言語、文化等が異なり、不十分なコミュニケーション、許認可の不透明性や目に見えない壁があるため、海外取引の経験がない・少ない中小企業にとっては、国内市場よりも遥かに難しいのが現実です。アセアン、南アジアの新興国では、土地・道路・交通・電力・水などの社会インフラが整備されず、投資・貿易の規制、許認可の不透明性、汚職などビジネス環境が悪いケースが多くあります。また、海外進出を果たしたが、進出後に人件費の高騰、需要の減退、円安の進行、現地の原材料費や物流費の上昇、現地の人材確保の困難、競争の激化、品質安全確保の困難、労使紛争等、進出時に想定していない問題が起こるリスクがあります。

各企業の状況やニーズに応じて、これらの支援策をうまく活用してはいかがでしょうか。
支援策の詳細内容については、以下のウエブサイトをご参照ください。
* JETRO新輸出国コンソーシアム  https://www.jetro.go.jp/consortium/
** JICA中小企業海外展開支援事業  https://www.jica.go.jp/priv_partner/activities/sme/index.html

4. インバウンド(外国人観光)は海外進出市場?

 訪日外国人観光客数は、2008年679万人、2012年836万人、2015年1,974万人に増加し、2107年に2,869万人に達しました。
 観光庁の「訪日外国人の消費動向‐訪日外国人消費動向調査結果及び分析、平成29年度」によれば、訪日外国人旅行消費額は4兆4,162億円、訪日外国人の旅行支出153,921 円/人となっており、外国人観光客の増加は消費市場への波及効果が大きく、新しい市場が創出されています。

 インバウンド市場は宿泊業や旅行業だけでなく、行政と、交通・飲食・サービス業・製造業の幅広い産業と住民等のステーホルダーが関連し、地域の活性化と産業振興に繋がります。
 政府の「明日の日本を支える観光ビジョン」に掲げられた目標は、以下のとおりです。
  ・訪日外国人旅行者数  (2020 年:4,000 万人、2030 年:6,000 万人)
    ・訪日外国人旅行消費額 (2020 年:8 兆円、2030 年:15 兆円
 ある製薬会社の社長のお話では、「当社の家庭用医薬・健康食品は中国人観光客によく売れているが、中国向けには輸出していない。輸出の場合、色々と問題があるが、訪日観光客が買ってくれるので、輸出よりも良い」とのことでした。そういう観点では、インバウンド市場は輸出・海外進出と同じであり、海外進出よりもリスクが少ないと言えます。
 インバウンド市場では訪日外国人の誘致のためデスティネーション(観光着地)のブランド・マーケテイング、訪日外国人のマーケテイング、セグメンテーション、外国人観光客の受け入れ体制の整備、ウエブ・SNSを活用した情報提供やプロモーションが重要です。