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「市場浸透戦略による成長」

中小企業診断士 大橋  康彦(おおはし やすひこ)

がんばる中小企業応援リレーコラム 
~ 中小企業の成長戦略~

「市場浸透戦略による成長」

1.市場浸透戦略とは

第1回のコラムでも触れていますが、市場浸透戦略とは、ひとことで言うと「シェア拡大」を目指す戦略です。既存の商品・サービスを、既存の市場(顧客)に今以上に買ってもらうという考え方です。

ターゲット顧客(市場)への認知度が不足している場合はPRに力を入れて初回購入者を増やし、顧客数がある程度確保できているならリピート率を高める取組みに力を入れるのが基本戦略になります。

まずは、売上方程式をおさらいしておきましょう。

 

客数は新規客と既存客に分解できますが、既存客の中にはリピートしなくなってしまう顧客もいて、それを流出客と位置付けます。このことから、客数を増加させるには、「新規客を獲得する」「既存客のリピートを増やす」「流出客を減らす」という取組みを行う必要があります。

特に認知度不足の場合は、商圏(セグメント)内で、より多くの人に自社の商品・サービスを知ってもらい、初回購入者を増やすための施策を打つ必要があります。

次に、客単価は購買単価と購買頻度に分解でき、さらに購買単価は商品単価と数量に分解できます。このことから、客単価を上げるには、「商品単価を上げる」「併せ買いを誘発する」「リピートを増やす」という取り組みを行う必要があります。

どの取り組みに注力すべきかは、企業の状況をはじめ、扱っている商品やサービスの性格によるため一概には言えません。一般的には商品単価を上げるよりは買上げ点数や購買頻度を増やすやり方がありますが、新規客の獲得よりは既存客のリピートを狙う方がハードルは低いと考えられます。

このように、一口に市場浸透戦略といっても戦略の選択肢はいくつかあることがわかりますが、本コラムでは「既存客」や「購買頻度」に注目し、ライフタイムバリューという考え方に基づいたマーケティング活動についてご紹介します。

2. ライフタイムバリューとは

ライフタイムバリュー(Life Time Value)は、「顧客との初回接触から取引期間全体で企業が得られる収益」のことで、「顧客生涯価値」と訳されます。頭文字を取ってLTVと略されることも多いです。

一般的に、新規顧客の獲得コストは既存顧客の維持にかかるコストの5倍と言われていますので、一度買っていただいた顧客に対して顧客満足度を高め、継続的に取引してもらう方が投資対効果に優れるという考え方から生まれたものです。

第1回のコラムにあったラーメン屋さんの例で言うと、会員制度を導入して来店ごとにポイントを付与し、ポイントが溜まると特典が得られるという仕組みを作ることで、顧客はリピートする動機が生まれます。ラーメン1杯800円として、その顧客が月4回の頻度で来店いただくとしたら、この顧客の年間LTVは38,400円となります。仮に年間LTVが38,400円の顧客を500人確保できれば年商は1,920万円になる計算です。

LTVを高めるためには、「ロイヤリティ(愛着度)」というキーワードが重要になってきます。簡単に言うと、自社や自社の商品・サービスのファンになってもらうことです。たとえば、ある顧客が「ラーメンが食べたい」と思った時に、真っ先に自社を思い出してくれるような関係を作ることです。このレベルの関係性を築くことができれば、LTVは非常に大きなものになるでしょう。仮に月4回で10年通っていただけるなら、この顧客のLTVは384,000円にもなります。

3.LTVを最大化していくためには

LTVを高めるポイントはロイヤリティ(愛着)にあると言いましたが、このロイヤリティを高めるためにお勧めしたいのが、カスタマーリレーションシップマネジメント(頭文字を取ってCRM)の実践です。日本語では「顧客関係管理」と訳されますが、顧客分析を適切に行って売上向上を図るための取り組みのことです。

顧客の中には、頻繁に買ってくれる人と、たまにしか買ってくれない人がいます。また、たくさん買ってくれる人もいれば、少量だけ買う人もいます。このような顧客ごとの違いを見える化して、顧客のタイプごとに販売促進活動を使い分けることで、収益を最大化していくことを狙います。

現在では、メールやSNS等、顧客とのコミュニケーションも手軽に行えるようになっていますが、手軽だからと言ってクーポンメール等を頻繁に送ると、逆にブロックされてしまうリスクがあります。大事なことは、顧客の立場に立って、喜ばれる情報を提供してあげることです。

例えば、化粧品の購入者に対して、その化粧品の容量を使い切りそうな時期に再度の購入を促すようなコミュニケーションを行うとか、何度も購入してくれる顧客には割引やポイントアップ等の特典を提供し、特別感を演出していくといった活動です。こうした取り組みを続けていくことで、自社商品やサービスへの愛着が高まっていくことが期待できます。

4. 顧客の購買記録をデータ化して分析してみよう

CRM活動を行っていくための第一歩が顧客の購買データの整備です。まずはエクセル等を使った簡単なものでも良いので、データを整備して顧客分析を行ってみましょう。顧客ごとの購買記録さえ付けておけば、RFM分析という基本的な分析が可能になります。RFM分析とは、Recency(直近購買日)、Frequency(購買頻度)、Monetary(購買金額)という軸で顧客を分析する手法です。「最近買ってくれた人は?」「頻繁に買ってくれている人は?」「購買額の大きい人は?」といった観点で顧客を切り分けて、例えば累積購入回数は多いのに最近購入してくれていない人(下図では離反注意客の部分)に向けて割引キャンペーン等の情報を案内するといった活用が考えられます。

上記のような顧客データ管理や分析はエクセルでもできますが、CRMを本格的に行なっていこうとするなら、専用のITツール等の活用も視野に入れると良いでしょう。飲食店や小売店であれば、iPad等で使えるクラウド型のPOSレジがリーズナブルな料金で利用できる状況になっていますし、レジアプリと連携できる顧客管理ツールも充実してきていますので、それらを組み合わせて利用するのも手です。いずれにしても、顧客と購買情報を紐づけられる仕組みにすることが重要です。

5.LTVを最大化する新たなビジネスモデル

また、近年では、LTVを最大化していくためのビジネスモデルとして、「サブスクリプション」という形態への注目が高まっています。これは、商品やサービスを都度販売するのではなく、定額制でいつでも利用できるサービスとして提供する形態です。消費のキーワードとして、「所有から利用へ」という表現がマスコミ等で取り上げられることが増えてきましたが、そのような状況を反映した新しい収益化モデルです。

既に様々なジャンルでサブスクリプション型のサービスが提供されており、ラーメン店やカフェといった飲食業から、洋服や高級バッグ等の分野でも展開されています。

一例を挙げると、飲食業では野郎ラーメンという15店舗ほどのラーメンチェーンが2017年11月に業界で初めてサブスクリプション制を導入して話題になりました。月額8,600円(税抜)の定額制で1日1杯ラーメンを食べることができるというサービスです。月当たり10~12杯程度食べれば元が取れるという価格設定になっています。

モノの分野でも、例えば「ラクサス」という高級バッグのサブスクリプション型サービスが人気を集めています。これは、高級ブランドのバッグが月額6,800円の定額制で借り放題というサービスです。

サブスクリプション型サービスの最大のポイントは、LTVが高まるという点にあります。ラーメン1杯ずつの売り切りだと先の売上動向は読みにくいですが、サブスクリプションサービスの会員になってくれれば、野郎ラーメンの例では少なくともLTVが8,600円になります。もちろん1ヵ月でやめてしまう人もいるかもしれませんが、継続してくれればLTVが増え続けるわけです。まさに、マーケティングの革新と言えます。

6.おわりに

本コラムでは、「リピート率向上」をテーマに、CRMの実践やサブスクリプション型のサービスによりLTVを高めるアプローチ等をご紹介しましたが、いずれにしても重要なのは顧客満足度の追求です。いくらCRM活動に力を入れても、あるいはサブスクリプション型にしたとしても、満足の無い商品・サービスにリピートはありませんし、愛着も湧かないからです。商品・サービス自体の磨き上げはもちろんですが、販売時やサービス提供時、情報発信や問合せ対応等の様々な顧客接点において、満足いただける体験を提供していくという地道な活動こそが最も重要であることを忘れてはいけません。