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バルコニーでの喫煙は、他の居住者の健康を損ね 火災の危険もあります

マンション管理士 飯田太郎 氏

バルコニーでの喫煙は、他の居住者の健康を損ね
火災の危険もあります

 あるマンションの管理組合の役員さんから、バルコニーで喫煙をする居住者のことでご相談がありました。「階下の居住者がバルコニーで喫煙しており、煙が部屋に入ってくるので困るとの苦情があり、その人に注意をしたが聞き入れて貰えない」とのことです。同様のことは他のマンションでもあるようです。
 厚生労働省の「国民栄養・健康調査」によると、成人男性の喫煙者の割合は平成元(1989)年には55.3%で半数を超えていましたが、令和元(2019)年には27.1%とほぼ半減しました。女性はやや減少しましたが横ばいに近く、平成元年.4%、令和元年7.6%です。喫煙者が減少したのは健康志向の高まりもありますが、平成30年(2018)年に健康増進法が改正されたことも影響しているようです。
 タバコの煙にはニコチンやタール等の多くの有害物資が含まれ、他人のタバコの煙を吸い込む受動喫煙で、肺ガン、虚血性心疾患、脳卒中、乳幼児突然死症候群(SIDS)等のリスクが高まることが分かっています。

受動喫煙防止を
健康増進法に定めました

 2020年4月1日に全面施行された改正健康増進法では、「望まない受動喫煙」を防ぐために、多くの人が利用する施設等では、利用者に対し一定の場所以外での喫煙を禁止するとともに、施設等の管理権限者が対策を行うことを定めました。特に子どもなど20歳未満の人、持病のある人は受動喫煙による健康影響が大きいことを考慮し、こうした人たちが主な利用者となる施設や屋外で、受動喫煙対策を一層徹底することを定めています。
 住宅はこの法律による規制の対象外ですが、同じ建物で多くの人が生活をしているマンション等の共同住宅で、バルコニーを含む共用部分での喫煙等の制限を管理組合が定めることは、法の主旨に沿ったことです。マンション管理の原則である区分所有者の自治にも合致します。新聞報道によると、管理規約(使用細則)を改正して喫煙を制限したマンションもあります*1。
 *1 https://www.sankei.com/article/20230525-3AP5ND63CVKZLGQ5SQVTXKS5SU/

消防関係の法規は
バルコニーでの喫煙を禁止していませんが…

 消防関係の法規では、バルコニーでの喫煙を明確に禁止した条項はないようです。しかしベランダ(バルコニー)での喫煙が原因の出火が増えているため、東京消防庁は「ベランダでの喫煙・吸殻の処理にご注意を!~ベランダから出火する『たばこ火災』が増加しています~」という報道発表資料*2を作成、マスコミ報道を通じて注意を呼びかけています。
 また、ベランダから火災が発生した場合、居室に設置された住宅用火災報知器や自動火災報知器が感知しにくく、不在時や発見が遅れたときは窓ガラスを破り、建物内まで延焼し被害が拡大するとのことです。
 *2 https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/hp-kouhouka/pdf/050426.pdf

管理規約や使用細則の改正も検討

 このようにバルコニーでの喫煙は、他の居住者の健康を害し、火災の原因になる危険もありますから、決して好ましいことではありません。場合によっては管理規約や使用細則を改正して禁止をすることも考えられます。マンション生活の中でマナーやルールについて、管理規約や使用細則を持ち出すのは、いわば最後の手段です。マナーやルールが居住者の中で自然に有され、トラブルがあっても穏やかに話し合い、解決をするのが望ましい姿です。
  しかし、喫煙については受動喫煙の弊害が言われるようになって日が浅いことや、減少したといっても成人男性の3割近くが喫煙者ですから、マンション内での喫煙をめぐるトラブルは簡単にはなくならないでしょう。規約や細則を改正してルールとして明確にせざるを得ないかもしれません。
 管理規約や使用細則を改正するためには、管理組合総会の議決が必要になります。規約改正には特別決議区分所有者数と議決数の各3/4の賛成が必要ですが、細則改正は管理組合総会で出席者の過半数の賛成で成立します。
 管理組合の理事会等にとっては、バルコニーでの喫煙禁止や制限を規約や細則に明文化することで、喫煙者に注意をするときの根拠ができます。また「義務違反者に対する措置」(標準管理規約第66条)や「理事長の勧告及び指示等」(同67条)という強い手段をとることができます。
 バルコニーで喫煙をしている居住者にとっては、個人が特定されたり名指しされなくても、管理組合総会の議題になることだけで、かなりの牽制効果があります。


(参考)標準管理規約と区分所有法の規定

(区分所有法:義務違反者に対する措置)
第66条 区分所有者又は占有者が建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、区分所有法第57条から第60条までの規定に基づき必要な措置をとることができる。

区分所有法
第57条(共同の利益に反する行為の停止等の請求)
第58条(使用禁止の請求)
第59条(区分所有権の競売の請求)
第60条(占有者に対する引渡し請求)

(標準管理規約:理事長の勧告及び指示等)
第67条 区分所有者若しくはその同居人又は専有部分の貸与を受けた者若しくはその同居人(以下区分所有者等」という。)が、法令、規約又は使用細則等に違反したとき、又は対象物件内における共同生活の秩序を乱す行為を行ったと
きは、理事長は、理事会の決議を経てその区分所有者等に対し、その是正等のため必要な勧告又は指示若しくは警告を行うことができる。


マンションサポートちよだmini第163号掲載(2024.3月発行)
(PDFで読みたい方はこちら