管理業者等の外部専門家を「管理者」とする場合の留意事項 国土交通省がガイドラインを発表
管理業者等の外部専門家を「管理者」とする場合の留意事項
国土交通省がガイドラインを発表
国土交通省は6月7日、「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン」を策定しました。昨今、区分所有者の高齢化等により、管理組合理事の担い手が不足しています。そのため、管理実務のほかに、通常は管理組合理事長が担う「管理者」の役割も、外部の専門家、特に管理業者に委託するマンションが増えていることに対応するものです。
このほど実施した「千代田区マンション実態調査(令和5年度)の結果でも、管理者業務を管理業者に委託している、あるいは委託することを検討している管理組合が234件ありました。
外部の専門家、特に管理業者に管理者を委託することは、運営方法によっては、区分所有者の意思に沿わない不適切な管理、管理組合と管理業者との利益相反の発生、管理業者に支払うコストの増大等が生じる恐れがあります。その導入の判断にあたっては、メリット・デメリットを踏まえた慎重な検討が必要です。
また、こうした検討を経て導入することを決定した場合でも、マンション管理の主体は、あくまでも区分所有者全員で構成する管理組合であることを前提に、管理者の選任や業務の監督等を適正に行うことができる体制を整備することをはじめ、区分所有者による管理者に対する適切な監督を行うことが必要です。
今回はガイラインの中でも特に重要な、既存マンションで、管理業者に管理者業務の委託を検討する場合の留意事項のポイントを紹介します。
※ガイドラインの内容は、下記でご覧いただけます。
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000052.html
❶既存マンションにおいて管理業者管理者方式を導入する場合のプロセス
◯管理業者管理者方式を導入する場合、管理組合の運営に大きな影響を及ぼすため管理業者は、説明会などの場において、少なくとも❸~❽に関する事項について区分所有者に対し説明することが望ましい。
❷新築マンションにおいて管理業者管理者方式が導入される場合の説明のあり方(略)
❸管理組合運営のあり方(管理者権限の範囲等)
◯管理者業務と管理業務の委託契約書は別々に分けることが望ましい。
◯管理者業務と管理業務の担当者を分けることが望ましい。
◯管理者の任期は原則1年程度とすることが望ましい。
◯区分所有者の意思反映のための環境整備(例として、管理評議会といった区分所有者で構成される組織の設置、管理者がアンケートにより区分所有者の意見を集約する環境の整備等)が必要と考える。
◯議決権行使は、管理者や外部専門家である監事への議決権付与(委任状交付)ではなく出席または議決権行使書によることが望ましい。
※その他、欠格条項、総会決議事項、管理者の権限等規定。
❹管理業者管理者方式における通帳・印鑑の望ましい保管のあり方
◯管理組合財産を管理する預金口座は、管理組合に帰属する財産であることが一見して明らかとなる名義とすべき。
◯通帳と印鑑等の同一主体による保管を避けるため、管理組合財産を管理する口座の印鑑等は監事が保管することが望ましい。
❺管理業者が管理者の地位を離れる場合のプロセス
◯規約には、管理者の固有名詞を記載しないことが望ましい。
◯管理者の退任が決まった後の新管理体制への移行手続は、監事が担うことが望ましい。
◯具体的には新規約の調整、新管理者の選任を議案とする臨時総会の招集通知を、旧管理者の退任決定日から1か月(より長くすることも考えられる)以内を目途に発出し整備することが望ましい。
❻日常の管理での利益相反取引等におけるプロセスや区分所有者に対する情報開示のあり方
◯総会で承認を得た金額以上の支出を伴う取引や、自己取引及びグループ会社との取引等については、総会において承認を得る必要がある。
◯グループ会社の定義について、管理業者の親会社、子会社、関連会社、管理業者を関連会社とする会社を総称したものとして整理する。
❼大規模修繕工事におけるプロセスや区分所有者に対する情報開示のあり方
◯大規模修繕工事は、修繕委員会(区分所有者及び監事から構成)を設置し、これを主体として検討することが望ましい。
※例外的に、小規模マンションであり、かつ修繕委員会の設置に向け適切な募集期間を確保し、公平な立候補機会を確保したものの、候補者を確保できなかったときは、
①設計コンサルタントやマンション管理士等の利用について検討したうえ、
②大規模修繕工事の過程について、区分所有者に対する透明性を確保するための措置を講じるとともに、監事に対する定期報告を充実させる場合に、修繕委員会を設置しないことも考えられる。
❽監事の設置と監査のあり方
◯監事のうち少なくとも1名は外部専門家から選任し、加えて、区分所有者からも監事を選任することが望ましい。
※例外的に、小規模マンションであり、かつ経済的な理由等により外部専門家を選任しないこともやむを得ないと考えられるときは、
①区分所有者に対する定期的な報告(月1回程度)が実施され、
②区分所有者の意志を反映する仕組みが整備されている場合に、区分所有者からのみ監事を選任することも考えられる。
千代田区でも、分譲当初から外部管理者方式を採用しているマンションが増えています。区分所有者の負担を軽減する外部管理者方式を否定するものではありませんが、外部管理者方式への変更、もしくは外部管理者方式を採用しているマンションを購入するときは、上記の留意事項を参考に慎重に検討してください。
既存のマンションで外部管理者方式を採用すると、原則として理事会は存在しない管理方式となります。監事もマンション管理士等の外部の専門家等に就任を依頼することが増えると考えられ、区分所有者が意見を述べる機会は、1年に1回開催される管理組合の通常総会だけになることが多いと思われます。
マンション管理についての区分所有者の負担が大幅に軽減され、管理不全に陥る危険性もほとんどなくなりますが、その半面、区分所有者が自分たちの大切な資産であり、居住の場であるマンションの諸問題や将来の姿等を、話し合う場が無くなる可能性もあります。これを防ぐために、監事と相談をしてご意見箱の設置や、アンケートの実施等が必要だと思います。
マンションサポートちよだmini第167号掲載(2024.7月発行)
(PDFはこちら)