将来の生活を左右する修繕積立金 あなたのマンションは大丈夫ですか?
将来の生活を左右する修繕積立金
あなたのマンションは大丈夫ですか?
▷ 長期修繕計画と修繕積立金はマンションの居住性を守り、資産価値を維持向上するために重要な役割を果たすことはよく知られています。(公財)まちみらい千代田が支援し、千代田区がマンションの将来に向けて管理状態を審査・認定する「千代田区マンション管理計画認定制度」でも、長期修繕計画と修繕積立金は重要な審査項目になっています。
▷ 国がこの制度を創設した主な目的は、行政がチェック、指導することで管理組合を適正に機能させることですが、マンションが管理不全に陥り建物・設備の老朽化や損傷が進行して、周囲に迷惑をかけることを防ぐことも目的としています。背景にあるのは「大規模修繕工事をおおむね10年ごとに3回程度行い、築40年程度経過した後は建替えをする」という、国が従来考えていたシナリオが成立しなくなったことです。
▷ 国土交通省の調べによると令和5(2023)年に、マンションのストック総数は700万戸を超え、その中で築後40年を超えたものが約130万戸あります。1棟あたり平均50戸として26,000棟です。マンションが建設されはじめたころの想定では、この多くはすでに建替えられているはずです。しかし、これまでに建て替えられたマンションは、地震で被災したマンションを除くと297棟(令和6(2024)年4月現在)にすぎません。建替え決議に必要な区分所有者数と議決権数の各5分の4以上の賛成が得られないからです。
▷ 建替えが実施できたマンションの多くは、容積率等に余裕があるため建替えをすることで従前よりも住戸数が増え、これを売却し建設費用等に充て、区分所有者の費用負担が軽くなるような条件がある場合です。しかし実際はほとんどのマンションが、都市計画が定めた容積率の最高限度で建てられています。
▷ これに加えて、マンション等のコンクリート造の建物は少なくとも100年程度もつということも分かってきました。建替えを急ぐのではなく、改修や改良によりマンションを長寿命化することが、温暖化防止等の観点からも望ましいという考え方が広まっています。
▷ 長寿命化を考えるうえで、劣化した建物の構造部分や設備の更生、損傷した部分の補修だけでなく、バリアフリー等のライフスタイルの変化等に合わせた改修や改良も視野に入れることが大切になります。修繕積立金もこの考え方を想定した費用を含めた金額を設定にすることが望ましいといえます。
現在の修繕積立金額では、必要な工事ができないこともあります
▷ 修繕積立金は長期修繕計画で予定された修繕工事等の実施に必要な費用の累計を、計画期間(例えば30年)中に積み立てることです。積立金の積立方法は「均等積立方式」と「段階増額積立方式」があります。
▷ 一方「均等積立方式」は長期修繕計画の計画期間中に必要な修繕費用の累計額を、毎年均等に積み立てる方式です。
▷「 段階増額積立方式」は当初の積立額を抑え、長期修繕計画の期間中に段階的に増額します。デベロッパーの多くが分譲時の積立金を低く設定したいためにこの方式を採用し、それを多くの管理組合も踏襲しています。しかし、この方式の場合、入居後10年程度過ぎて最初の大規模修繕工事が終わり、長期修繕計画を見直そうとしたときに、修繕積立金が不足していることが分かり、大幅な引き上げや一時金の徴収が必要になることがあります。区分所有者の合意が得られなければ、将来必要な工事ができない可能性もあります。
▷ 国土交通省は今年6月「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を改訂し、「均等積立方式」が望ましいことを強調するとともに、「段階増額積立方式」の場合の適切な引き上げ方法を示しました。
▷ お住まいのマンションの修繕積立金が「均等積立方式」か「段階増額積立方式」かを確かめるとともに、現在の修繕積立金残高と今後の積立金額で将来必要な修繕工事等を賄えるかどうか検討してください。また、長期修繕計画策定後に技術の進歩、ライフスタイルの変化などによる、工事費の値上げが考えられます。このため、計画を5年ごとに見直し、改正をすることも必要です。
▷ 国土交通省は「段階増額積立方式」を採用しているマンションを対象に「段階増額積立方式を採用しているマンションは、早めに均等積立方式に切り替えよう」(両面2ページ)を作成しました。下記のURLから確認できます。
<段階増額積立方式を採用しているマンションは早めに均等積立方式に切り替えよう!>
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001766343.pdf
修繕積立金の引き上げ情報を区分所有者だけでなく中古マンションの購入検討者にも周知する必要があります
▷ 千代田区等の都心部のマンションの流通(中古)価格は、ほかの地域に比べて高額です。これは主に地価水準が高いことによるもので、特別な仕様でなければ建物価格や修繕費は東京23区のほかの地域とそれほど変わらないはずです。
▷ 千代田区の場合、修繕積立金額はマンションの流通価格と比較して割安なのが普通です。それでも修繕積立金の引き上げが管理組合で議題になると、反対する区分所有者が少なくないようです。特に中古マンションを購入して区分所有者になった人は、購入時に考えていなかった修繕積立金の引き上げに驚くこともあるようです。その理由として考えられるのは、多額な住宅ローンを利用してマンションを購入したため返済額が多く、管理費や修繕積立金の納入が負担になっていることです。最近のように金利が上昇傾向にあり、ローン返済額が増える可能性があるときは特に敏感になります。
▷ このような区分所有者は修繕積立金の重要性を理解していても、自分の「懐具合」を考えると引き上げに賛成できないと思うようになりがちです。同じことは分譲時からマンションを所有し、すでにローン返済を終えた年金生活の区分所有者等にも言えることです。
▷ 長期修繕計画で予定している修繕積立金の引き上げをスムーズに実施するためには、修繕積立金の引き上げ予定時期や金額等を区分所有者に繰り返し伝えることが必要です。現在のように工事費が上昇傾向にあるときは、修繕積立金の大幅な値上げが必要な場合もあります。管理会社や流通会社に依頼して購入検討者にも分かりやすい形で、このことを知らせることも重要です。
※なお、本年10月31日、社会資本整備審議会マンション政策小委員会(委員長齋藤広子横浜市立大学教授=(公財)まちみらい千代田理事)が設置されました。長期修繕計画や修繕積立金のあり方等についても検討される可能性があります。
マンションサポートちよだmini第171号掲載(2024.11月発行)
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