マンションの将来を考えるときの羅針盤 長期修繕計画の役割を知る
マンションの将来を考えるときの羅針盤
長期修繕計画の役割を知る
先月号は修繕積立金の説明をしました。今回は長期修繕計画の説明をします。修繕積立金の金額は長期修繕計画に基づいて決まるため、説明が前後しますが、あえて修繕積立金の説明を先にしました。
修繕積立金は区分所有者が毎月の管理費とともに、管理組合に納入するお金です。理事会が管理組合総会に引き上げ案を提案するときは、盛んな議論になることもあるでしょう。値上げを審議する総会には、例年は議決権行使書や委任状を提出するだけの管理組合員も、実際に出席して意見を述べたくなるはずです。
これに対して、長期修繕計画は今後30年程度の間に、建物・設備のどの箇所を修理・交換するのかを示した予定表のようなものに見えます。今日・明日に、管理組合員が負担する費用に直接関係するものではありません。管理組合総会で長期修繕計画の見直し等が提案されても、内容を詳しく検討する管理組合員はそれほど多くないと思います。
築年数が経過すると改良する箇所が増えてくる
しかし実際には、長期修繕計画はマンションの将来の姿と深く関係していています。下図は国土交通省が作成した「長期修繕計画標準様式・長期修繕計画ガイドライン・長期修繕計画ガイドラインコメント(令和6年6月改訂)」に掲載されている「マンションの補修・修繕・改修」の概念図です。
この図では、マンションの築年数が経過するとともに「社会の変化などにより向上していく水準」が高くなり、それに伴って改修(修繕+改良)をすることが望ましいということを示しています。また、修繕は必要なことですが、年月が経過するとともに、改修が重要になることも示しています。
図の(注)で説明されていませんが、図の中には「補修」もあります。これは、おおむね12年間隔で実施する大規模修繕工事とは異なり、日常の管理業務の中で行われる「小規規模な修繕等」のことで、費用も修繕積立金ではなく管理費から支出します。
長期修繕計画は7年以内に見直す
長期修繕計画の計画期間の目安は30年程度ですが、一度作成したものを、そのまま使い続けるわけではありません。千代田区マンション管理計画認定制度の認定基準(※)では「7年以内に見直す」ことを求めています。計画の定期的な見直しでは、工事内容が変わらないとしても、工事費の上昇等を反映する必要があります。これに加えて、前述した社会やライフスタイルの変化、技術進歩に対応する改修等が必要であれば、計画に取り入れます。
もちろん、これらをすべて計画に反映するとなれば工事費は増加し、修繕積立金を大幅に引き上げなければなりません。追加する工事等については、理事会や「修繕委員会(専門委員会)」は区分所有者の意見を丁寧に聞いて見直し案を作成することが必要です。管理会社等に長期修繕計画案や見直し案の作成を委託している場合は、原案の早期提出を依頼し、管理組合で十分に審議できるようにしたいものです。
また、建設後35年~40年を経過してからは「建替え」や「長寿命化」など、マンションの将来に関わる問題を本格的に検討することが必要になります。こうした検討にも長期修繕計画が役立ちます。
どのマンションにもさまざまな考えや事情を抱えた人がいます。各区分所有者やその家族が、長期修繕計画の内容を中心に意見交換し、できるだけ多くの管理組合員がマンションの将来について、一致点を見いだすようにしてください。
(※)千代田区マンション管理計画認定制度の長期修繕計画関係の認定基準
①長期修繕計画が「長期修繕計画標準様式」に準拠し作成され、長期修繕計画の内容及びこれに基づき算出された修繕積立金の金額について集会にて決議されてること
②長期修繕計画の作成又は見直しが7年以内に行われていること
③長期修繕計画の計画期間が30年以上で、かつ、残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれるように設定されていること
④長期修繕計画において将来の一時的な修繕積立金の徴収を予定していないこと
⑤長期修繕計画の全体での修繕積立金の総額から算定された修繕積立金の平均が著しく定額でないこと
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マンションサポートちよだmini第172号掲載(2024.12月発行)
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