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マンションが初めて体験した大地震 阪神・淡路大震災発生30年を振り返る

マンション管理士 飯田太郎 氏

 本年1月17日は1995(平成7)年に発生した阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震)30年の節目の日です。多くの人が就寝中の早朝5時46分52秒、淡路島北部の明石海峡を震源地とするM7.3の地震が発生、阪神地方を中心に6,430人以上が亡くなりました。
 阪神地方は東京に次いでマンションが早くから普及した地域だけに、多数のマンションも深刻な被害を受けました。民間の調査機関である(株)東京カンテイが2000(平成12)年に公表した「阪神・淡路大震災から五年 被災マンションの復興状況」を中心に被災と復興の状況を紹介します。

1⃣マンションの被災状況
 前記の東京カンテイの調査によると兵庫県下8市のマンション5,261棟の被害状況は(表1)のとおりです。特筆すべきことは、建物がこれだけ大きな被害を受けたにもかかわらず、亡くなったマンション居住者についての情報が報告されていないことです。マンション等の鉄筋コンクリート造の建築物が、木造建築物等に比べて地震に強いことが改めて確認できたと考えられます。これは、その後発生した東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)や熊本地震でも言えることで、マンションが地震発生時に、居住者の生命を守るシェルターの役割を果たすことが多いといえます。

2⃣マンションの再建に立ちはだかった〈 法律の壁〉
 しかし被災したマンションに、想定外の大きな問題が浮上しました。マンションの権利関係等の基本的仕組みを定めた区分所有法が、被災したマンションの前に立ちはだかったのです。
 区分所有法は災害で建物が被害を受けたとき、管理組合総会の決議で、復旧工事や建替えを行うことができることを定めてます。建物の一部が被害を受けたマンションを復旧する場合は、議決権数と区分所有者数の各4分の3以上の賛成で工事を実施できます。区分所有者の多くが建替えを希望する場合は、議決権数と区分所有者数の各5分の4以上の賛成で建替えをすることも可能です。
 ところが建物が全壊(区分所有法等の表現では全部滅失)した場合、マンションを再建するためには、区分所有法による建替え決議が適用されないことが明らかになったのです。区分所有法はマンション(区分所有建物)が存在することを前提とした法律です。地震で建物が全部滅失すると、区分所有関係が消滅し管理組合も存在しなくなります。区分所有法が適用されず民法の原則により、敷地共有者(旧区分所有者)全員が一致しなければ土地を処分することも、建物を建設することもできないことになります。

3⃣「全部滅失」をめぐり旧区分所有者はジレンマに
 分かりにくいのは、法律上、建物が「全部滅失」し、旧区分所有者たちが共有する敷地だけが残ることになっても、実際には建物に出入りし雨露をしのぐことが可能な状態であることが多いことです。
 さらに話を複雑にしているのは、被災した建物の被害状況について、各種の公的な支援制度等の表現が(表2)のように千差万別なことです。

 被災者が公的支援を受ける場合、被害の程度が著しいほど、手厚い支援を受けることができます。要するに全部滅失(全壊、倒壊等)となれば手厚い公的支援を受けられますが、敷地共有者全員が合意しなければ、建物の再建等はできないという難しい状態に置かれることになります。

4⃣被災マンション法(被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法)を急きょ制定
 阪神・淡路大震災で被害を受けた旧区分所有者等のジレンマを解消し、建物が法律上全部滅失した場合でも、いくつかの選択肢の中から敷地共有者等が希望する方法を特別多数議決で可能にしたのが、被災マンション法です。同法は地震発生から約2か月後の3月24日に公布・施行されました。この法律が旧区分所有者たちの背中を押し、再建等が迅速に進むことになりました。同法は2013年3月11日に発生した東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)後に一部改正され現在に至っています。

5⃣被災したマンションの復興状況
 被災マンション法制定の効果もあり、阪神・淡路大震災で被災したマンションの多くが順調に復興しました。前記の東京カンテイの調査によると、発災から5年経過した時点の復興状況は下記のとおりです。

6⃣終わりに
 阪神・淡路大震災を振り返ると、区分所有者等のマンションの関係者は、地震から身を守る備えとともに、建物が損傷した場合の対応策も考えておく必要があります。法令等の知識に加え、どのような手順で復旧復興に取り組むのかを考え、発災時に大幅に不足することが予想される専門家をどのようにして確保するのかも重要なテーマです。防災訓練も実技とあわせて、さまざまな状況を想定した机上訓練等を行うようにしたいものです。

マンションサポートちよだmini第173号掲載(2025.1月発行)
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