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まだまだ続く 建設工事費の上昇 マンション管理組合の対応は

マンション管理士 飯田太郎氏

 「米の次はマンションか 価格論のポピュリズム」―これは日本経済新聞(8月23日朝刊)に掲載されたコラム「風見鶏」のタイトルです。有力な政治家たちが高騰するマンション価格の規制について発言をしたことを、「政治が市場に介入すること」は典型的なポピュリズム(大衆迎合)だと批判しています。
 マンション市場への介入がポピュリズムかどうかは別にして、日本を代表する経済紙が、生活必需品(食料)の「お米」と「マンション」を同じ土俵で論じたことは興味深いことです。
 近年のマンション価格の上昇とその背景は、国民生活全体に大きな影響を与え始めています。民間の調査機関である不動産経済研究所によれば、東京23区の新築マンションの平均価格は、平成27(2015)年の6,732万円から、令和7(2025)年上半期には1億3,064万円にまで上昇しました。

 東京23区の中古マンション価格も、1億477万円(令和7年7月現在)で、平成27年の平均価格4,252万円から大幅に上昇しています。(東京カンテイ調べ)
 賃金上昇を大幅に上回る価格高騰で、一般的なサラリーマンに、マンションは手が届きにくいものになっています。

 



■ マンション価格や工事費高騰の背景

 問題が深刻なのは、現在のマンション価格高騰が、特定の事象による影響ではないことです。
 マンション価格上昇の主な原因は次の2つがあると考えられます。
①建設工事費の上昇です。これはセメントや鉄鋼等の材料費だけでなく、人件費の上昇もあります。建設業界では長年に渡り「社会保険料を事業主が適正に負担しない」、「正規の残業代が支払われていない」といった問題がありました。深刻な人手不足を背景に、働き方改革が進んで、残業代や社会保険料の事業主負担が増え、建設工事費の上昇につながっていると言われています。
 建設工事費の上昇は、中野サンプラザ跡地の再開発中止のような、身近な例だけではなく、国家プロジェクトである洋上風 力発電から大手商社が撤退する事態まで起きています。
②日本のマンション価格や家賃水準が国際的に見て割安なことも、価格高騰の要因です。(一財)日本不動産研究所の資料から、東京のマンション価格は、香港、ロンドン、台北、ニューヨーク等よりも安価なようです。
※第24回 国際不動産価格賃料比較指数(2025年4月現在)  https://www.reinet.or.jp/?p=35946

 しかも、東京をはじめとする日本の都市は、治安も良く安全・快適で、旅行者だけではなく、外国の富裕層の移住先としても人気があるようです。

 



■ バブル期とは違う、近年のマンション価格上昇

 かつて1980年代後半から90年代に、地価を中心に日本の不動産価格が高騰し、日本を売ればアメリカが4つ買えるとまで言われました。また、マンション価格も急上昇、サラリーマンは生涯家を購入できないと言われました。このときは地価を抑制するために政府や日本銀行が強力に政策を実施しました。この結果、地価や株価が急落し、不動産会社や証券会社だけでなく、不動産を担保に融資をしていた多くの銀行が経営に行き詰まりました。さらに、2008年にアメリカで発生したリーマンショックの影響で、世界第2位の経済大国だった日本は、失われた30年とも言われる混迷状態に陥りました。
 近年のマンション価格の高騰はバブル期とは違い、上記のように社会保険料の適正な徴収や残業規制を含む働き方改革を進める中で生じた工事費上昇や、国際的に見た割安感を背景にしています。工事費やマンション価格が妥当な水準に落ち着くためには、技術革新による生産性向上や賃金上昇等が必要です。
 マンションの管理組合との関係を見ると、失われた30年と言われる期間は、工事費の上昇も緩やかでした。このため、修繕工事費もおおむね安定的に推移し、対応して区分所有者が支払う修繕積立金額も安定していました。
 しかし、社会経済状況が変わる中で、修繕積立金等を巡る環境も変わり、引き上げを含む再検討が必要になっています。
 このような中で修繕工事費について別の問題も発生しています。マンションの修繕工事を巡り、工事会社や設計コンサルタント会社による談合が行われ、公正取引委員会が調査をしています。事態を重く見た国土交通省は、6月26日に「マンション修繕工事に係る請負契約における談合違約金特約条項について」を(公財)マンション管理センター等宛てに発出しました。工事契約を結ぶ際、談合をした場合に違約金を課す特約を設けることを推奨しています。
※マンション修繕工事に係る請負契約における談合違約金特約条項について
https://www.mankan.or.jp/cms-sys/wp-content/uploads/2025/06/ca152a36b4081c30fa985ae10c5c1f9b.pdf

 さらに、区分所有者相互の交流が少ないことに目を付けて、工事業者の社員が管理組合の修繕委員になりすまし、自社に都合のいいように委員会を誘導している事件も発覚しました。

 



■ マンション管理の原点は「文殊の知恵」

 中古マンションの価格上昇は、含み資産の増加や有利な条件で売却できるなど、都合のいい面があります。その一方で、マンションの区分所有者・管理組合員の立場では、修繕工事の実施が困難になることや、修繕積立金の増額、一時金の負担などの問題も発生します。修繕積立金の引き上げや大規模修繕工事を巡り、意見がまとまらないことも考えられます。そのうえ、関係する情報や外部からのアドバイスもさまざまで、どの考え方を採用したらいいのか判断に迷うこともあるでしょう。
 そこで改めて思い出してほしいことは、マンションにはさまざまな分野に詳しい人がいることです。区分所有者や居住者の皆さんの知恵を集めることで、自分たちのマンションにあった進め方が見つかるかもしれません。皆さんで考え、話し合うことで「文殊の知恵」にたどり着くという、マンション管理の「原点」に戻ることも必要になっています。

マンションサポートちよだmini第181号掲載(2025.9月発行)
(PDFはこちら