地域コミュニティをつくる
としまち研の活動
NPO都市住宅とまちづくり研究会、通称「としまち研」は、千代田区神田東松下町に事務所を構える。
2000年にNPO団体として発足してから今まで、過疎化や高齢化が進行する都心部でのコミュニティ構築や、
地域活動への参加に積極的に取り組んできた。
現在、約100名の会員が所属しており、その中には、再開発プランナーや都市計画コンサルタント、
建築設計士、マンション建替えアドバイザーといった、専門知識を持つ人も多い。
総会・理事会・事務局からなるとしまち研が運営するのは、まちづくりに関する6つの部会。
地域での居住・商売を継続するために、地権者が必要とする用途の区画を含めた事業計画を
提案する「共同建替え部会」、マンションの建替えや大規模修繕において、組合員主体の
活動を重視した取り組みを 提案する「団地・マンション再生部会」、地権者や新たに
居住者世帯が一緒になった住まいづくりを提案する「コーポラティブハウス部会」ほか、
「人と暮らし部会」「総務部会」「広報部会」がある。
住宅数が少なく、住民が減少傾向にあった千代田区の神田地域に
コミュニティを再生した取り組みとは、一体どのようなものなのか。
![](https://www.mm-chiyoda.or.jp/wp-content/uploads/2015/05/1-1.png)
学生の地域活動から、
としまち研の事務局へ
各部会の活動やプロジェクトのサポート、および運営を行う事務局の局長を務めるのが、関真弓さんである。
まちづくりの活動に携わるようになったきっかけは、大学生のときに出会った都心居住の研究だった。
「まちづくりはフィールドに出てこそ」という教授の方針の下、行政の地域についての業務を手伝ったり、
古くなった公衆トイレの建替えに向けた利用実態調査にも取り組んだ。
そんな時、まちみらい千代田の前身である千代田区街づくり推進公社で
まちづくり活動に対する助成制度、千代田まちづくりサポート事業が始まるということを知り、
千代田区の神田地域にある公衆トイレの実態調査や改善の提案をテーマに応募した。
第一回目の応募団体は、関さんたちのグループを含め20団体ほど。
同じ応募団体の一つ、としまち研の母体である『みらい』都心居住促進研究会に出会ったのは、
千代田まちづくりサポートの公開審査会だった。
定期借地権を活用した都心居住促進策というテーマで応募していた、『みらい』都心居住促進研究会。
この頃からすでに定期借地権とコーポラティブハウス方式を組み合わせた建築事業を構想していたという。
「まちづくりサポートのおもしろいところは、公開審査であることと、中間発表や最終発表があるところ。
グループ同士が集まって、お互いに発表しあったりする仕組みがあるんです。
その中で『みらい』都心居住研究会を知って、私自身が都心居住の研究をしていたこともあり、
『あ、こういう団体もあるんだ』と興味を持ちました」
大学院を修了し、公務員試験を受けようと思っていたとき、関さんは『みらい』都心居住促進研究会が
NPOとして立ち上がる話を耳にする。
そして2000年、関さんはNPO都市住宅とまちづくり研究会の事務局で働くことを決める。
![](https://www.mm-chiyoda.or.jp/wp-content/uploads/2015/05/2-1.png)
「町を元気にしたい」
“想い”が実現する事業とは
当時の神田地域はファミリー世帯向けの住宅がほとんどなく、町の中に子どもの姿を見ることはなかった。
若い人たちが独立して住宅を持とうと思っても、少ない上に住宅価格が高いため、
どんどん外へ出て行ってしまう状況。高齢化が進み、2年に一度行われる神田祭も
支える人が少なくなり、町に元気がなくなっていった。
町が完全に廃れてしまう前に、若い世代も入りやすい住まいを作りたい、
そして町を元気にしたい。
それが、としまち研、ひいては神田東松下町住民たちの切なる願いだった。
そして生まれたのが、地権者のニーズを反映した共同建替えと、
コーポラティブ方式を組み合わせたコーポラティブハウス事業。
としまち研の事務局がある神田東松下町のマンション「COMS HOUSE」も、
としまち研がサポートしたコーポラティブハウスで、建設時、
関さんはコーディネーターの一員として事業に携わった。
コーポラティブハウスとは、入居を希望する世帯同士が組合を作り、
自らが事業主として土地の取得から業者の手配まですべてを
行う集合住宅である。
神田地域には、COMS HOUSEを含めて5棟の
コーポラティブハウスが存在する。
実際に住む前の段階から居住者同士が集まって、一緒にマンションを
作り上げる方式の コーポラティブハウスは、住む人にとっても、
そして地域のコミュニティ構築においてもメリットがある。
![](https://www.mm-chiyoda.or.jp/wp-content/uploads/2015/05/3-1.png)
顔の見える暮らしと
地域への親和性
コーポラティブハウスに住むメリットとして、まず、どの部屋に誰が住んでいるのかを住民同士が把握しているため、災害時や緊急時に対して安心感がある。
さらに、自身も神田地域のコーポラティブハウスに住まう関さんは、
「建設中から各家庭の子ども同士が仲良くなって、今でもお互いの家に泊まり合ったりしています」
同じマンションの人の名前も顔もすぐわかるので、住人同士の声かけもごく自然に、日常的に行われている。
プライベート性の高いマンション暮らしでは、隣に住むのがどんな人なのかわからないというケースもめずらしくないだけに、こうした安心はコーポラティブハウスならではの特長といえる。
現在、神田地域には5棟のコーポラティブハウスがあり、第1号のCOMS HOUSEが建ってから10年以上。
そのうち3棟が建つ神田東松下町に居住する人口は2倍ほどにもなり、何より若い世代や子どもの数が増えているという。
コーポラティブハウスに住む人たちが積極的に地域活動に参加してくれるため、祭りなどにも活気が戻った。
今では町会役員の3分の1がコーポラティブハウスの住人だという。
元々神田に住んでいた住民や町会の受け入れ姿勢も柔軟だった。
「というのも、元々の地権者の方が町会と繋がりがあって、コーポラティブハウスに入居する人たちとの架け橋になってくれたんです。
地域の集まりに参加しやすくしてくれました。コーポラティブハウスにどんな人が住んでいるのか、元からいる人たちに知ってもらうことで、 お互いに安心感のあるいい関係が築けています」
としまち研でコーポラティブハウスに携わってきた関さんは、
「コーポラティブ方式って、住宅をつくるひとつの手段だと私は思います。
大事なのは、それをどういう目標に向けて進めていくかというところ。
それがコーディネーターの役割だと思っています」
![](https://www.mm-chiyoda.or.jp/wp-content/uploads/2015/05/4-1.png)
としまち研が大切にする
地域の人たちとの交流
としまち研は、事業のほかに地域活動への参加や地域の人たちとの交流も積極的に行っている。
町会では、役員会やそのほかの集まりなど、1年を通してイベントが多い。
年末の餅つき大会から年明けの新年会、節分祭、バス旅行、最近は町に子どもが増えてきたこともあり、新一年生のお祝い会や夏のラジオ体操が何十年かぶりに復活したという。
地域活動に参加することで、地域の様子がよくわかる。
何より、地域へ積極的に関わっていくことで、としまち研がどんな団体で、どのような取り組みを行っているのかを地元の人に理解してもらえる。
地元住民とのつながりを大切にしながら、新しく入って来る人たちが地域になじんで暮らすための架け橋にもなる。
こうした取り組みが功を奏してか、「コーポラティブハウスができてから、町会がウェルカムパーティーを開いてくださったんです」
関さんは、この町の人たちのオープンで柔軟な対応に感謝の意を示す。
2015年、としまち研発足から15年。
事業休止を経て復活した千代田まちづくりサポート事業に、地域主体で運営するコミュニティカフェの実現をテーマとして応募した。
としまち研は今後も、マンション内だけのコミュニティに留まらず、地元住民たちともコミュニティを構築し、一体となって町を元気にすることを目指している。
![](https://www.mm-chiyoda.or.jp/wp-content/uploads/2015/05/5-1.png)