千代田区の外郭団体
公益財団法人まちみらい千代田 公式ウェブサイト

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新たな視点から地域を見つめた人の物語 田辺 恵一郎さん

01

まちみらい千代田が日々、担うこと

日本の中心地、東京都千代田区の一角に佇むビル、「ちよだプラットフォームスクウェア」。
自動ドアを抜けると、清潔感のある広いロビーに迎えられ、左手に目をやれば「fune フネ」と名づけられたオープンテラス付きのカフェ・サロンが目に入る。さらに奥へ進むと、洗練された印象のコンシェルジュまである。

屋上つき、地上5階、地下2階建てのビル。
この4階に入居するのが「公益財団法人まちみらい千代田」である。

千代田区民の、8割を超えるマンション住民に向けた、マンション居住支援や借上型区民住宅の運営、区内中小企業の経営支援や活性化、起業を目指す人々の支援などを行っている。

また、千代田区よりまちみらい千代田が無償で借り受けているちよだプラットフォームスクウェアを拠点とした、千代田区の活性化にも注力している。
そして1階、コンシェルジュの奥。

ここには、日本初の官民連携事業のロールモデルとなった、バイタリティあふれる企業が居を構えていた。

02

「お荷物」寸前の施設を華麗に甦らせた人

日本の中心地、東京都千代田区。かつてこの街には、区が所有する「中小企業センタービル」の存在があった。
しかし、利用率の低下と莫大な年間維持費によって窮地を迎えることとなる。

それを救ったのが、田辺恵一郎さんが会長を務める民間企業、プラットフォームサービス株式会社だった。 

田辺さんは、民の立場から官の持つバリューをうまく利用し、中小企業センタービルを新たにインキュベーション施設という形で甦らせることに成功。
プラットフォームサービスはここをまちみらい千代田から借り受けて一括管理し、小規模法人、団体、個人のために、“家守”となってワークスペースの提供を行っている。
“店子”となる数々のベンチャー企業やフリーランサーは、モスグリーンと白を基調とした開放的なオフィスフロアで、日々仕事に勤しむ。
ほどよく仕切られたシンプルなデスクスペースで作業に集中したり、オープンな共有スペースでミーティングを行ったりする。

またプラットフォームサービスは、ちよだプラットフォームスクウェア以外にも8つのインキュベーション施設の別館を運営し、中小ビル連携によるSOHOまちづくりを進めている。

03

官民恊働の成功には、非営利型が合っている

役所がプロデューサーとなり、民間とリスクを折半する偏りのない連携を約束した「官民恊働」スタイルの事業。
その日本初のモデルとなったのが、ちよだプラットフォームスクウェアなのである。
田辺さんは、官民恊働のメリットをこう語る。

 「行政主導の事業は、どうしてもコストカットや人件費削減が先走っちゃって、市民が必要としているサービスが行われないケースが多い。
行政と民間企業が平等に負担を背負い、あらかじめ役割分担を明確に分ける官民連携なら、真に公共性を発揮しつつ、市民による市民のためのサービスが提供されるというわけ」

またプラットフォームサービス株式会社は、儲かっても配当せず内部留保し、地域貢献に再投資するなどの決まりを設けた非営利型株式会社であることも特徴的だ。
出資が認められているという点や、組織として柔軟性があるという点で、株式会社にはNPO法人にない利点があると思うが、それにしてもなぜ非営利型なのか。

「お金がたくさん動くところって、公益事業に向いてないんだよね。ついお金儲けを考えちゃうでしょう。
非営利型株式会社では役員の責任と株主の権限が明確で、残余財産の分配は出資した金額を限度とするなど色々決め事があるから、お金儲けの対象にならない。
かといって、どんな事業でも赤字はよくないよ」

そういって、田辺さんは快活に笑った。

04

アイデアが奏功した人・食・地域のつながり

ちよだプラットフォームスクウェアの中には貸会議室もあり、プラットフォームサービス株式会社はその運営も手がけている。普通、役所などの公共施設では、会議室を午前・午後・夜間という区分で貸し出すところが多い。

しかし田辺さんは、まちみらい千代田に思い切った提案をした。

「利用料金を1.5倍にして、利用時間を1時間単位にしよう」

こうすることにより、企業は会議が終わればキリのいいタイミングで退室しやすくなるし、回転率が上がればプラットフォームサービス側の利益も上がる。

ビルの一階には、ガラス張りのオープンテラス付きのカフェ・サロン「funeフネ」がある。ここは、日本の郷土の食と酒を世界に提供するというコンセプトのカフェ・サロンだ。
日本食の繊細な味付けや旬をもう一度見直そうと、地方の食の魅力に着目したのだ。 

このサロン以外にも地方の食材を販売する常設のマルシェ「ちよだいちば」を近隣のビルに6月にオープンする。
これはユネスコ無形文化遺産となった和食、日本食文化を後世に伝えていくことにも寄与し、数年後の東京オリンピックで海外からやってくる人々へのアピールにもつながる。
更に空き店舗対策にもなり、千代田区にとってもプラスになるのだ。
このようにして地方都市との連携を、まちみらい千代田と協力してできることに、田辺さんは喜びを感じている。

屋上庭園にあがれば、そこは入居者が利用可能な菜園になっており、2階や3階に入居する、小規模事業主やフリーランスの個人同士の交流の場にもなる。上場企業で専務を務めたベテランの小規模事業主が、大学を卒業したばかりの若手起業家とイベントで缶ビール片手に交流する、なんて光景もめずらしくない。

こうしていると、仕事のためだけに生きているわけではないのだと実感させられる。

プラットフォームサービス株式会社は単にオフィスの提供だけではなく、コミュニケーションの希薄な
現代社会において、人と人とをつなぐ役割も担っているのだ。

05

地方都市の疲弊はすなわち日本の沈没

田辺さんはしかし、あることを懸念している。
地方都市の疲弊だ。
地方出身の若者が夜行バスで上京し、ネットカフェに長期滞在し、あちこちの就職試験を受ける。
地元に就職口がないからだ。
地元を愛し、そこでの就職を望む若者がこんな苦労を強いられているとしたら、それはいたたまれないこと。

 「地方都市の疲弊は東京、ひいては日本の沈没につながる」

と田辺さん。とはいえ地方の小規模な市町村(地方自治体)は、政令指定都市のような大きな市と違い、都心に大きなオフィスが構えられず、進出できない現実がある。

そこで、低価格で市町村(地方自治体)にも共用の事務所、「市町村サテライト・オフィス」を提供することを考えた。
これなら地方貢献にもなるし、千代田区にとってもプラスになる。
まちみらい千代田はすぐさまOKを出した。

 また、近年の女性起業家の増加に伴い、女性起業家を含む起業を目指す人に向けたセミナーを行っているまちみらい千代田だが、プラットフォームサービス株式会社は彼女たちにお試しとしてオフィスを数ヶ月無料で貸し出している。

ちよだプラットフォームスクウェアが中小企業センターから名称を変えたころ、ビルの周辺は人通りも少なく、飲食店もほとんどない場所だった。
しかし、次第にコンビニ、それからレストラン、居酒屋などがポツリポツリとでき始めた。
このちよだプラットフォームスクウェアを中心として、周辺が活気づいてきたことに、
田辺さんは大きな喜びを覚えている。

06

釜石プロジェクトと今後の地域づくり

東日本大震災のすぐ後、それ以前から地域連携事業を通して関わっていた岩手県釜石市を訪れた田辺さん。
現状を目の当たりにし、あることに気づく。
当然、人々は気力を失い、町中に鬱屈した空気が漂っていたのだが……。
それは単に、津波や建物の倒壊によって荒廃した町のせいだけではなかった。営業していた飲食店が流されたせいで本来の職を失った人たちが、生きる活力を見失っていたのだ。

物理的な復旧は行政に任せよう。
自分たちにできることは、地域の“人”が自分たちの力で本来の気力を取り戻すサポートをすること。
そうして誕生したのが、車で移動レストランを営業する「かまいしキッチンカープロジェクト」だった。

地域づくりにおける田辺さんの夢―。

それは、自分の生まれ故郷である与野市(現在はさいたま市)でもこういった、地域を思う人たちが集まって自分たちの地域を盛り上げるような活動をすることだ。
しかし彼ももうすぐ57歳。「リミットはあと3年だ」と、ためらいもなく口にする。

「60歳、70歳の人たちがいつまでも第一線に居座っていたら、若い人がつかえちゃうじゃない」

とあくまで潔い。 

それまでに官民協働への思いを次世代に引き継ぎ、もし可能なら、一線を退いてからも地域のために貢献していきたいと精力的だ。

 これまでも、この先も、常に新たな視点から地域を見つめる、
田辺恵一郎さんの物語り―。

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